
リンゴ発酵の醸造酒であるシードルの専門醸造所が国内で相次ぎ開業している。専門のバーも登場するなど、2021年、シードルは身近な存在になりそうだ。日経トレンディと日経クロストレンドは、「2021年ヒット予測ランキング」の18位に「国産クラフトシードル」を選出した。
※日経トレンディ2020年12月号の記事を再構成
【18位】「国産クラフトシードル」
ジャパニーズサイダリーが急増
リンゴの名産地で超ド級にうまい個性派が競い合う
アルコール飲料の“マイナー選手”だったリンゴ発酵の醸造酒「シードル」が2021年、いよいよ“メジャーリーガー”に昇格する。「甘くて女性向け」という従来の印象を覆す個性的な国産「クラフトシードル」が相次ぎ登場。ポスト「クラフトビール」の最有力候補として、急激に存在感を高める。
シードルは、古くからフランスや英国ではよく飲まれてきた。最近は米国でも市場が拡大中だ。低アルコールタイプの選択肢が豊富で、ワインなどが苦手な人でも日々飲みやすく、酒離れをしている若年層にも響く。国・地域ごとに土地のリンゴ品種を独自にブレンドしているので個性も豊かで、自分好みを探す楽しみがあり、クラフトビールやクラフトジンにはまっていた人が次に向かいそうだ。
起爆剤が、「サイダリー(シードルリー)」と呼ぶ専門醸造所の存在だ。特にリンゴ生産量全国2位の長野県に“ジャパニーズサイダリー”が相次ぎ開業。ワイナリーもシードルづくりに乗り出すほか、リンゴ農家が新たな収益源に期待してサイダリーやワイナリーに持ち込み、小ロットで醸造を委託する動きが活発になっている。最近は、食用リンゴでは差異化が難しいとして、シードル専用品種の栽培に挑む農家も出てきているほどだ。
蒸留酒「カルバドス」の生産も
たる詰めを飲めることから、シードル好きの聖地になりつつある専門バー「サイダーノート」代表の武田光氏は、「国産クラフトシードルの中にも、びっくりするほどおいしく海外の著名な老舗サイダリーに負けないものが出てきた」と話す。こうしたことから、都内にある長野県のアンテナショップ銀座NAGANOのように、シードルを豊富に品ぞろえするショップも現れた。同店では10月上旬までに、売り上げ本数が昨年の実績を既に上回った。「ワインより10歳ほど客層が若い」(ソムリエ花岡純也氏)。
委託醸造も含めると、国内には少なくとも200近いシードルメーカーが既にあるとされる。中にはリンゴを使った蒸留酒「カルバドス」の生産にまで乗り出す所もある。例えば青森県つがる市のサンアップル醸造ジャパンは、4億円を投じて工場を建設中だ。稼働後、21年から透明なタイプを売り出す。リンゴを使ったお酒が、酒業界で大きな台風の目となる。
(写真/小西範和)