動物のナマケモノは「怠け者」ではなく、実は「省エネ」で「効率」がよく「エネルギー消費に無駄がない」生き物。コロナ禍で消費者の動きも、「ナマケモノ化」している。世代・トレンド評論家である牛窪恵氏と共に、3回にわたってこの「ナマケモノ消費」について考えていく本連載。最終回は外食産業や自炊など食事について。
【第2回】 緩くつながり、楽しむおうち時間 外出自粛が促したナマケモノ化
【第3回】 シェフがZoomで技伝授 苦境の外食、コロナ禍で新挑戦が活発に ←今回はココ
飲食に時間やお金をかけなくなった
コロナ禍で大きな打撃を受けている飲食業界。新型コロナウイルスが猛威を振るい、特に外食関連は厳しさを増していますが、飲食の分野で起きている「ナマケモノ」な消費動向と何でしょうか。
「都会・大人数・ディナー」から「住宅街・少人数・ランチタイム」へと省エネに。
牛窪恵氏(以下、牛窪氏) 外食の分野は、「都会に出かけて、大人数でワイワイと、夜に長い時間飲む」のではなく、「自宅の近くで、少人数でこぢんまりと、ランチを楽しむ」という、「近・少・昼」方向にシフトしている。つまり、時間やお金をあまり使わない、省エネ志向の「ナマケモノ化」が進んだといえる。
トレタ(東京・品川)が運営する飲食店向け予約・顧客台帳サービス「トレタ」が保有する1万店のデータによると、外出自粛が解けてきた2020年8月10~16日の来店客数は、ランチの時間帯は前年同期比38%減にとどまった。その一方、午後5~8時台は48%減、午後9~11時に至っては55%減と、自粛時からの回復が遅かった。
同じ期間、東京都をエリア別に見ると、住宅街の世田谷区は前年同期比8%減まで回復したが、オフィス街の千代田区や中央区は前年比で6割ほど減ったままだった。人数も1~2人での来店が21%減まで回復した半面、11人以上の大人数では82%もマイナスだった。JR東日本が「21年春から、(一部路線で)最終電車の時刻を早める」と発表したこともあり、今後オフィス街で、夜の「長時間滞在型」に勝機を見いだす飲食店は減っていくだろう。
この省エネでナマケモノな消費動向に対して、飲食店はどのように対応していますか。
デリバリーの他、キッチンカーがオフィスから住宅街に出向くようになった。
牛窪氏 今までオフィス街に出店していたキッチンカーが、住宅街に出向くようになった。先日、豊洲のタワーマンションの近くにキッチンカーがやって来て繁盛している様子を取材した。その中には、オフィス街にリアルな店舗を持っているけれど、お客が来ないので、キッチンカーに切り替えたという店主もいた。
よく言われる通り、自粛時を中心にデリバリーも伸びた。出前館は3~5月のオーダー数が前年比で5割も伸長。ウーバーイーツもそうだが、一度連絡先などを登録すると2度、3度と繰り返しオーダーするケースが多いのも特徴の1つだ。自宅でまったりとデリバリーを楽しむ「ナマケモノ」は、リピーター化しやすいといえるだろう。
ナマケモノ消費で、特に打撃を受けたのはどこでしょうか。
オフィス街の飲食店だけでなく、そこに卸している会社にも打撃。
牛窪氏 オフィス街の飲食店や、夜の大人数の飲み会に力を入れていた飲食店はもちろんだが、そこに卸すメーカーなども打撃を受けている。特にビール会社はメーカーによって差が出た。
アサヒグループホールディングスは外食などに卸す業務用の比率が高い影響もあり、20年1~6月期の連結決算で、純利益が前年同期比で約5割減となった。一方でサントリーホールディングスは同27%減にとどまった。サントリーがここまで抑えられた背景には、卸先だけでなく、「家飲み」に応える独自の仕掛けもあったと思う。自宅でゆったりまったりしながら、生ビールさながらの味が楽しめる、新型の「プレモル 神泡サーバー」などはいい例だ。サントリーは20年3月末から、このサーバーをキャンペーンに再導入した。広告代理店の担当者から、19年の同キャンペーンを上回るほどの人気だったと聞いている。家飲みのナマケモノ消費に、はまったのだろう。
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