コロナ禍で大活躍

 ネクステートの開発は早速、コロナ禍の医療現場で威力を発揮しました。病院の発熱外来には、感染の疑いがある患者がたくさん訪れるため、どんなにマスクやフェイスシールドをしても、診察する医療従事者も感染のリスクにさらされます。それが、Bluetooth無線通信機能が内蔵されているネクステートを使うことで、約10メートル離れたワイヤレス聴診が可能になりました。医師たちは防護服を着なくてもビニールカーテンやアクリルパネル越しで安全な診察が可能になり、ネクステート本体も、ビニール袋に入れたり、ラップフィルムで包んだりすることでアルコール消毒を容易にし、聴診器を介した接触感染拡大を防ぐことができます。何よりそうした医療施設の積極的な工夫は目に見えるため、患者自身の心理的安心感につながり、過剰な受診抑制を防ぐことが期待できます。

豊田地域医療センターの発熱外来では、診察にネクステートを使用
豊田地域医療センターの発熱外来では、診察にネクステートを使用

 愛知県豊田市の豊田地域医療センターでは、発熱外来を設置するに当たり、ネクステートを用いて新型コロナウイルス感染疑い患者の診察を実施しました。ネクステートを患者自身で当ててもらい、医師はビニールカーテン越しにワイヤレスヘッドホンで聴診し、問診も含めて飛沫感染リスクを抑えながらの診察を実現しました。

オンライン診療、在宅診療の実現が近づく

 Bluetoothの場合は距離にして10メートルほどのワイヤレス聴診ですが、スマホなどを接続してインターネット通信できるようにすれば、地球の裏側からでも聴診は可能になります。例えば看護師だけが患者の自宅に訪問して聴診器を当て、医師は病院に居ながらにして聴診して診察することが可能になります(D to P with N型オンライン診療)。医師不足の地方や医療過疎地、離島などにおける医療環境の効率が大きく改善することが期待できます。

「D to P with N」型オンライン診療(左)、「D to P with D」型オンライン診療(右)
「D to P with N」型オンライン診療(左)、「D to P with D」型オンライン診療(右)

 これまでのオンライン診療は問診が中心で、「テレビ電話」の域を出ませんでした。ネクステートは、聴診器を当てて施術する人と、聴診音を聴いて診断する人を分離できます。そのため、医師(D)が遠隔で看護師(N)に指示を出して患者(P)に処置する「D to P with N」型、20年度の診療報酬改定で新たに算定された「D to P with D」型のオンライン診療を可能にしました。

 X線写真のように目に見える記録があるものは、複数の医師でチェックすることで疾患の見落としを防ぐことが可能です。また近年、AI(人工知能)に学習させることで疾患の見落としを防ぐ取り組みも進んでいます。ところがこれまで、聴診については複数の医師でチェックする機会もなく、ブラックボックス化していました。心音のわずかな異常を聴き取って重大な疾患を察知するようなベテラン医師の技を共有して若手が学んでいくような機会は、なかなか持ちにくい領域でした。

 それがデジタル化によって録音が可能になったこと、さらにBluetooth接続のスピーカーを使用することで、その場にいる医師同士が自然とディスカッションするようになり、「耳」をブラッシュアップする機会が開けました。また、聴診音データをディープラーニングで解析することで、聴き落としかねないわずかな異常や、前回の聴診からの良化・悪化を経時判別する技術なども今後、進んでいくものと思われます。