4Pを踏まえた戦略の整理

 富士フイルムの取り組みをDX2.0(マーケティング視点のDX)の4Pに照らして整理すると次のようになります。

Problem(課題)
 同社の課題は、デジタルカメラの普及で主力のフィルム事業を失うことでした。デジタルカメラの普及は、フィルムでは実現できなかった課題を解決した結果と見ることができます。
例)「うまく撮れているかどうか確認できない」「フィルム代、現像・プリントのコストがかかる」「撮れる枚数に限りがある」……。

Prediction(未来予測)
 フィルム市場の先行きは長くないことが予測できました。一方、フィルム開発で培ってきた自社技術は、新たな事業を生み出せる可能性があります。特にヘルスケア分野は、超高齢化社会の到来を迎えて中長期的な成長が予測できました。

Process(改善プロセス)
 3つのアプローチがあります。1つ目は、いくつかの技術を複合的に組み合わせ、世の中のニーズに応えていくため異分野の技術者が集結し、研究・知識・手法を融合させることで新技術・新事業の創造を目指す取り組み。これは富士フイルム先進研究所で実施しています。2つ目は、オープンイノベーション。日本、米シリコンバレー、オランダ・ティルバーグの3拠点に「オープンイノベーションハブ」を設けて、社外パートナーとの協業を通じて新たな価値を「共創」しています。3つ目は、強みや特徴を持つ会社を自社グループに取り入れる「M&A」です。

People(人の関与)
 古森重隆会長兼CEO(最高経営責任者)の強いリーダーシップの下、伝統的なフィルム会社からの脱却にまい進したことが、変革できなかった競合との差となって表れました。企業理念やあるべき人材像をまとめた「FUJIFILM WAY」。「PDCA」に代わる仕事のステップ「STPDサイクル(See-Think-Plan-Do)」をグローバル規模で浸透させたことで、変革の意識が従業員に根付いています。

コトラー氏と古森会長の共著 『Never Stop Winning Through Innovation』
コトラー氏と古森会長の共著 『Never Stop Winning Through Innovation』
「PDCA」に代わるマネジメントサイクル「STPD」
「PDCA」に代わるマネジメントサイクル「STPD」
出所:『魂の経営』古森重隆(東洋経済新報社)p188より

 こうした一連の富士フイルムの取り組みは、マーケティングの大家であるフィリップ・コトラー教授が15年のWorld Marketing Summitでテーマとした「Digitize or Die」を体現するものと言えるでしょう。富士フイルムはDXを成功させた世界トップクラスの企業として認知されるようになりました。

 19年に東京で開催された「World Marketing Summit」では、コトラー氏と古森会長がそろって登壇。講演前のディスカッションで意気投合したことをきっかけに、両氏は20年にイノベーションをテーマとする書籍『Never Stop Winning Through Innovation』を共著で出版しています。

●富士フイルム古森重隆会長兼CEOの「経営者に必要な10P」
1. Photo 現状を把握する
2. Predict 将来を予測する
3. Plan シミュレーションする
4. People 社員に明確なメッセージを発信
5. Perform 実行する
6. Passion 情熱を持って断固やり抜く
7. Philosophy リーダーとしての哲学、大局観を持つ
8. Perspective 客観的、多角的な視点を持つ
9. Philanthropy 社会に貢献する
10. Power 強いリーダーシップ