飲食業界と並んでコロナ禍で大打撃を受けたのが観光業界。しかし、テレワークの普及や副業解禁で地域や地域の人々と多様に関わる「関係人口」が増えていけば、新たな観光資源が生まれるでしょう。その結果、観光の概念も変わり、多くの地域でリーズナブルかつ個性的な旅の楽しみ方の選択肢が増えるはずです。

英国南西部ウエールズにある、古書を観光資源にした小さな町「ヘイ・オン・ワイ」
英国南西部ウエールズにある、古書を観光資源にした小さな町「ヘイ・オン・ワイ」

「よそもの」が観光地に新たな風を吹き込む

 コロナ禍直前まで、観光業界はインバウンド(訪日外国人旅行者)の増加に伴い、業界全体が好景気に沸いていました。訪日外国人旅行者数は2013年の1036万人から19年の3188万人まで、7年連続で過去最高を更新していました。しかしこのように成長し続けていた観光業界もまた、新型コロナウイルス感染症の拡大で大きな打撃を受けているのはご存じの通りです。

 一方、後継者不在の旅館や古民家を改修して活用したり、地域の資源をふんだんに取り込んだランドマークをつくったりなど、近年はその土地の持つ文化に「よそもの」が新しい価値観を持ち込み始めています。それらの施設は比較的高価格帯にもかかわらず、コロナ禍前には予約がとれないほどの人気でした。ここにワーケーション拡大や人の移動の増加が加われば、コロナ禍収束後には新たな観光資源となるはずです。

 “晴耕雨読の時を過ごす、田んぼに浮かぶホテル”というコンセプトを掲げる「ショウナイホテル スイデンテラス」(山形県鶴岡市)もその可能性を感じた施設の1つ。「Casa BRUTUS」の表紙にもなり、庄内を知らなかった多くの人の目も引きました。世界的建築家・坂茂氏の建築は、水田に浮かぶような建物で景観と一体化。一度見たら忘れられないような光景が旅への期待をそそります。さらに運営する会社に地元の企業や住民が出資するなど、まさに地域と作り上げる施設だと感じました。

 「里山十帖」(新潟県南魚沼市)は、雑誌「自遊人」を出版し、米作りを始めて本社を南魚沼市に移転した岩佐十良(とおる)氏がプロデュースしたライフスタイル提案型複合施設。豪雪地帯のど真ん中の雪深い場所の古い建物をリノベーションし、地域の伝統的な食材や料理を提供。高く評価されています。1万2000冊を超えるという本を好きなだけ読める旅館「箱根本箱」(神奈川県箱根町)も大人気で、「松本本箱」(長野県松本市)も開業しています。女性1人でも快適に泊まることができ、日ごろの疲れと時間を忘れてしまうぜいたくを味わえる旅館です。

 こうした新しい価値観を打ち出す宿はこれからも増えそうですが、一方でリモートワークは今後も一部定着し、通勤や出張は減ることが想定されます。密を避けるため、交通機関や宿泊、飲食施設では定員にゆとりを持たせる動きが定着していきそうです。当然、交通機関や宿泊、飲食施設の損益分岐点は上がり、料金にも反映されるはずです。観光業界では顧客の変化への対応を迫られるところも増えるでしょう。

 旅行シーズンの分散化はこれまで多々いわれてきたものの進みませんでしたが、働き方の変化と連動し、少しずつ変化の兆しが表れてきています。ダイナミックプライシング(価格変動制)の導入や予約の工夫なども含めて制度も変化し、旅のスタイルは時期、滞在スタイル、観光目的など多様化が進むように感じます。

 安価な旅のスタイルも、一定の宿泊数を定額で提供するサイトやアルバイトをしながら滞在することを提案するサイトなど、新しいサービスも急増しています。好きなときに好きな場所で働くための住まいが見つかるサブスクリプション「HafH(ハフ)」、複数の提携ホステルの中から選んで泊まれるサブスクリプションサービス「Hostel Life(ホステルライフ)」、農家や宿泊施設などの手伝いをする「ボラバイト」など、既存の観光旅行の仕組みとは異なる部分で、動き出しているように感じます。

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この連載が本になりました!
『「よそもの」が日本を変える』
(鎌田由美子著、日経BP刊)

 ニューノーマルは見たことのない世界ではなく、「デジタル化」「多様性」「環境意識」といった後回しにしてきた問題が目の前に突き付けられただけ――。JR東日本でエキナカや地域活性化を成功させてきた著者が、「『What if』?という自問自答が必要」「仕事と生き方は融合」「サステナブルが日常に」など、個人や企業の「これからの生き方」を提示する。

 アフターコロナの世界では古くからあるものづくりや文化に恵まれた「地域」に大きな可能性があり、そのカギとなるのが「よそもの」だという。テレワークの普及や副業解禁で都心のビジネスパーソンが「よそもの」として地域のものづくりやビジネスに参画し、マーケティングやマネジメントの知見を持ち込むことでシン・チホウ(新・地方)が生まれるというのだ。本書では著者が地域の1次産業の可能性に目覚めたきっかけとなった青森のシードル工房「A-FACTORY」をはじめ、鹿児島の超高級リゾート「天空の森」、「小さくて強い農業」を提唱する茨城の「久松農園」、英国南西部ウエールズにある古書を観光資源にした町「ヘイ・オン・ワイ」などの事例を紹介している。

 「私自身も『よそもの』として生きてきた」という著者の体験談も読み応え十分。民営化直後の文系女性1期生としてJR東日本に入社し、鉄道事業を経験せずにエキナカや地域活性化プロジェクトを立ち上げるなど、新規事業のオンパレード。49歳で上級執行役員としてカルビーにヘッドハンティングされるも、「好き」という気持ちが先に立って失敗した経験も。極めつけは50代半ばでの起業と、英国美術系大学院への留学。デジタルネイティブ世代に交じり、あらゆることがオンライン化された手続きや「生き物の動きをロボットで表現する」授業などに四苦八苦した。これらの経験を通じ、現代は二者択一の「ONLY、OR」ではなく、やりたいことをいくつも選べる「AND、WITH」の時代だから、勇気を持って一歩踏み出すことを提案する。
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