ONE・GLOCAL(ワングローカル、東京・中央)代表の鎌田由美子氏は「アフターコロナの世界では『小さくても強い農業』に大きな可能性がある」という。その先駆者である久松農園(茨城県土浦市)代表の久松達央氏に成功条件を聞いたところ、必要なのは技術や経験よりもマーケティングの発想だった。

久松農園代表の久松達央(ひさまつ・たつおう)氏。1970年茨城県生まれ。94年慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人を経て98年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売している。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索。他の農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)
久松農園代表の久松達央(ひさまつ・たつおう)氏。1970年茨城県生まれ。94年慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人を経て98年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培し、個人消費者や飲食店に直接販売している。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索。他の農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行っている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)

フィジカルな能力や技術よりも「立地」が命

鎌田由美子氏(以下、鎌田) 農林水産省の「スマート農業(ロボット技術やITなどの先端技術を活用し、超省力化や高品質生産を可能にする新たな農業)」が、日本でも広がりを見せています。そうした“大きい農業”も確かに必要ですが、アフターコロナの世界では小さくても強い農業に大きな可能性があると思っているんです。久松さんが実践されているような「小さくても強い農業」がもっと増えてくればいいなと思っているのですが、なかなか広がりづらい。なぜでしょうか。

久松達央氏(以下、久松) 収益を上げるための鍵が、栽培方法とか販売方法といった「内部条件」ではなく、「外部条件」にあることに気づいていない人が多いからです。「小さい農業が成立する条件は何なのか」というところから考えていったほうが科学的なんですね。

鎌田 「小さい農業が成立する外部条件」とは何でしょう。

久松 一番大きいのは「立地」です。都市に近いかどうか。それが必要十分条件とは言わないけれども、十分条件であるケースが多いというふうに思います。一例を挙げると、先週末、京都の農家を訪ねたんですけど、素晴らしかったんですよ。風景も素晴らしいし、野菜の出来が良くて。栽培規模は小さいんですけど、単位面積当たりの売り上げが非常に高いんです。

鎌田 それは、栽培している品種が違うんでしょうか。

久松 そうではなく、無駄なく売り切っているんですね。生産条件としては全然良くないんです。水はけが悪くて扱いにくい土質ですし、圃場(ほじょう、農産物を育てる場所)が狭いから機械化はできないし、作業性も決して良くない。だから生産効率を一番のKPI(重要業績評価指標)にしたような農業は絶対できないところなんですよ。でも僕から見て、小さくて強い農業をやるにはすごくいい条件。一番の理由は車で30分も行けば京都市という人口140万人を超える大都市があり、意外と地元のものを買う人が多いといった条件がそろっていることです。

鎌田 なるほど! 大消費地が近くにあるということですね。

久松 埼玉県入間市も似たような条件に恵まれていて、スーパーマーケットの直売コーナーを店舗と生産者が一緒になってつくり上げている。意識の高い消費者が徒歩圏内にたくさん住んでいる茅ケ崎などにもレベルの高い生産者が育って充実した朝市を形成している。このように、都市型農業がうまく成立する条件があって、そこにちゃんとアジャストできる生産者がいる地域は、小さくて強い農業の理想の形がつくられています。

 ここ土浦市で都市型農業をやろうとすると、60~70キロ離れている東京が主なマーケットになるから、宅配便で送らざるを得ない。その送料を払ってでも買いたくなる商品にするためには、「久松農園」という形でブランディングしていくしかないんです。京都や茅ケ崎のような方法はとれない。ローカルtoローカルで宅配サービスを利用するということは、流通のスケールメリットを完全に無視した形だから。

 周りにいいお客さんがたくさん住んでいる立地だと、生産性の高い栽培に取り組まなくても成り立つわけです。少々下手でもいいから、つくりたい野菜に素直に取り組める環境が整っている。それなのに、今新しく農業を始める人は、栽培方法とか品目とか、有機かどうかみたいな表面的なことを意識して、そこばかり掘っていくからうまくいかないということはあると思います。小さくて強い農業では、同業者の評価なんかどうでもいいんです。自分がすてきだと思うものを、分かってくれる人に届けられるのですから。

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この連載が本になりました!
『「よそもの」が日本を変える』
(鎌田由美子著、日経BP刊)

 ニューノーマルは見たことのない世界ではなく、「デジタル化」「多様性」「環境意識」といった後回しにしてきた問題が目の前に突き付けられただけ――。JR東日本でエキナカや地域活性化を成功させてきた著者が、「『What if』?という自問自答が必要」「仕事と生き方は融合」「サステナブルが日常に」など、個人や企業の「これからの生き方」を提示する。

 アフターコロナの世界では古くからあるものづくりや文化に恵まれた「地域」に大きな可能性があり、そのカギとなるのが「よそもの」だという。テレワークの普及や副業解禁で都心のビジネスパーソンが「よそもの」として地域のものづくりやビジネスに参画し、マーケティングやマネジメントの知見を持ち込むことでシン・チホウ(新・地方)が生まれるというのだ。本書では著者が地域の1次産業の可能性に目覚めたきっかけとなった青森のシードル工房「A-FACTORY」をはじめ、鹿児島の超高級リゾート「天空の森」、「小さくて強い農業」を提唱する茨城の「久松農園」、英国南西部ウエールズにある古書を観光資源にした町「ヘイ・オン・ワイ」などの事例を紹介している。

 「私自身も『よそもの』として生きてきた」という著者の体験談も読み応え十分。民営化直後の文系女性1期生としてJR東日本に入社し、鉄道事業を経験せずにエキナカや地域活性化プロジェクトを立ち上げるなど、新規事業のオンパレード。49歳で上級執行役員としてカルビーにヘッドハンティングされるも、「好き」という気持ちが先に立って失敗した経験も。極めつけは50代半ばでの起業と、英国美術系大学院への留学。デジタルネイティブ世代に交じり、あらゆることがオンライン化された手続きや「生き物の動きをロボットで表現する」授業などに四苦八苦した。これらの経験を通じ、現代は二者択一の「ONLY、OR」ではなく、やりたいことをいくつも選べる「AND、WITH」の時代だから、勇気を持って一歩踏み出すことを提案する。
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