アフターコロナは見たことのない世界ではなく、「デジタル化」「多様性」「環境意識」といった後回しにしてきた問題が目の前に突き付けられただけ――。JR東日本でエキナカや青森A-FACTORYの立ち上げなどの地域活性化、カルビーで新規事業の仕掛け人として活躍した鎌田由美子氏がコロナ後の企業や個人の在り方、そしてシン・チホウ(新・地方)の可能性を探る。

1989年JR東日本入社。2001年エキナカ事業を手がけ、「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長。その後、本社事業創造本部で地域再発見PTを立ち上げ、青森「A-FACTORY」や地産品ショップ「のもの」など地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。15年カルビー上級執行役員。19年、魅力ある素材の発掘や加工を通じ、地域デザインの視点から地元との共創事業に取り組むべく、ONE・GLOCALをスタート。20年4月までロンドンのRCA(Royal College of Art)に留学。社外取締役や国、行政、NHKなど各種委員、茨城大使など地域にも深く関わる
1989年JR東日本入社。2001年エキナカ事業を手がけ、「ecute」を運営するJR東日本ステーションリテイリング代表取締役社長。その後、本社事業創造本部で地域再発見PTを立ち上げ、青森「A-FACTORY」や地産品ショップ「のもの」など地産品の販路拡大や農産品の加工に取り組む。15年カルビー上級執行役員。19年、魅力ある素材の発掘や加工を通じ、地域デザインの視点から地元との共創事業に取り組むべく、ONE・GLOCALをスタート。20年4月までロンドンのRCA(Royal College of Art)に留学。社外取締役や国、行政、NHKなど各種委員、茨城大使など地域にも深く関わる

 2020年は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)によって世界中が、100年に一度あるかないかという大変革の年になりました。これまでの常識やルールが崩れ、働き方も学び方も暮らし方も激変する中で、戸惑い、目標や自信を見失い、中には絶望感を抱いている人もいるのではないでしょうか。

 しかしアフターコロナは、全く見たことのない新しい世界ではなく、これまで少し遠くに見えていた未来が10倍速で訪れたにすぎないと感じています。それを象徴する3大要素が、(1)デジタル化(2)多様性(3)環境意識。そう、3つともずっと重要だと言われてきながら、対応を後回しにしていた要素。「いずれ、そのうち」と多くの人が遠目で見ていた問題が、COVID-19により、いきなり目の前に突き付けられたのです。

 1つ目の「デジタル化」は、COVID-19で最も目に見えて急速に変化が進んだ領域ではないでしょうか。世界中でロックダウン(都市封鎖)や自粛生活を強いられる中、買い物はECメインに。米マッキンゼー・アンド・カンパニーのリポートによれば、EC化率が高い米国でも09年の約6%から19年の約16%へと10ポイントアップするまでに10年かかっているのに対し、COVID-19以降、わずか3カ月で約34%まで伸ばしています。ECにあまり積極的でなかった伝統的な大企業までもがCOVID-19の嵐の中、ECを立ち上げる姿が目立ちました。

 またZoom、Teamsなどのビデオ会議システムを活用することで在宅勤務が容易になっただけではなく、ワーケーションなどの拡大につながりつつあります。また、オンライン教育も小学校から大学まで一気に進み、オンライン診療もCOVID-19で必要に迫られて壁が壊されました。政権交代でデジタル庁創設の動きが起こり、他国に比べて遅れていたデジタル分野も大きく変わる節目にきているように思います。

 2つめの「多様性」は生き方や働き方だけでなく、本来持つ広い意味でものづくり、消費、住まい、そして価値観など多岐にわたって顕在化してきたように感じます。特に働き方に関しては、人生100年時代の中ですでに選択肢が多様に広がり始めていたところに、COVID-19によって世界各国で働き方や働く場が変わりました。

 とりわけ日本では、会社そして仕事への意識も含めてそれが急激に進んでいます。働き方の多様化で従来の常識を変えざるを得ない状況がテレワークで見える化されたことは氷山の一角、多くの会社で価値観の地殻変動が起き始めています。

 これまでの日本では、残念ながら、上層部がイノベーションを声高に叫びながらも、何のための新規事業か、どのような方向性でイノベーションを推進するのか、どこまでのリスクを覚悟しているのか、そして何より上層部自身が描くイメージを語れないまま号令をかけていたケースは少なくありませんでした。そして、若手と呼ばれる世代が雲をつかむような気持ちになったり、アイデアを出したものの実現に至らず、徒労感を持つ状態になったりすることも多くありました。

 大企業の若手中堅社員約50社1200人が集まるONE JAPAN もそんな若手中堅のエネルギーをどう世の中に見える化できるかに挑戦している組織です。さらにはテレワークで、リバースメンタリング(上司が若手に教えてもらう)の必要性を痛感した上の世代も多かったのではないでしょうか。仕事にも生き方にもそもそも正解はないし、計画通りには進みません。そんな中、個人の気持ちのレジリエンス(しなやかな強さ)がより求められるようになり、人生の時間の使い方に、仕事一つをとっても“都市でのオフィスワーク”以外の選択肢が増えています。

※ ONE JAPAN 新規事業、イノベーションや新しい働き方や組織開発について実践、共有、協働していく大企業の20~30代を中心とした有志団体。

 さらに情報の取得に距離や時間、コストの格差がなくなった現代、メディアという情報伝達のプロだけでなく、個々人が受信だけでなく発信も行えるツールを持ち、玉石混交の情報があふれかえっています。米国の黒人差別の映像に象徴されるように、現実を捉えた視覚の情報力は巨大で、小さく動き出していた一つひとつのことがGRANDSWELL(大きなうねり)になりやすい状況。従来の価値観が小さなきっかけでたやすく逆転しやすくなり、個々の生き方にも多様性が広がっているのです。

 3つ目の「環境意識」は、パンデミックの中、全世界共通して取り組む最大課題の一つという認識がより強くなったと感じています。これまでも地球温暖化などの視点から必要性が叫ばれてきましたが、COVID-19以降はより身近な会社経営に関わる課題につながっています。環境問題に対する意識の高さは消費者が商品やサービスを選ぶ際の重要な要素となり、企業業績とより密接に関わり始めています。

 現在世界で3000兆円といわれるESG投資(環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資)の流れがより強まり、企業成長の指標も売り上げや利益という従来の数字の比較だけではなく、未来への無形資産や可能性までが評価されるように変わり始めました。

 またCOVID-19流行後の自粛生活によって家庭ごみや電力量が増加した影響か、個人レベルでも環境意識が高まっているというデータもあります。公益財団法人旭硝子財団が20年8月に実施した「第1回日本人の環境危機意識調査」では、「環境問題への意識や行動に前向きな変化があった」が約4割。食品ロス削減や省エネなど、生活全般で意識や行動が高まったという結果が出ています。そうした意識の変化は地方の1次産業にも影響を与え、規格外として廃棄されてきた大量の農産物に新たな価値を見いだし、流通に乗せる動きも高まっています。

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