日本版「アフターデジタル」の夜明け

保険業界でもアフターデジタル時代を見据えたDX(デジタルトランスフォーメーション)が広がっている。損害保険ジャパンは、2~3週間要していた保険金請求の手続きをLINEチャットで30分に短縮。床上浸水被害もLINE×AI(人工知能)でセルフ査定を可能にするなど、デジタルで常につながる仕組みで利便性向上を進める。

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 202X年の夏、大雨特別警報が発令された集中豪雨で自宅が床上浸水の被害に遭ったAさん。水が引いて家財道具を整理していると、スマートフォンに火災保険を契約している損害保険会社からLINEにメッセージが入っていた。床上浸水の被害は火災保険で補償されるようだ。水災サポートというメニューから、浸水被害箇所を撮影・送信すると、保険金の目安額を算出してくれるという。撮影に必要なものは500mlのペットボトル1本。「ペットボトル?」。Aさんは不思議に思いつつキッチンにペットボトルを探しにいった――。

ペットボトルを目印に浸水した水位を撮影すると保険金額(目安)を算定(画像提供/損保ジャパン)
ペットボトルを目印に浸水した水位を撮影すると保険金額(目安)を算定(画像提供/損保ジャパン)

 冒頭の描写は、損害保険ジャパンが2020年10月中にもリリースを予定している「SOMPO水災サポート」の利用シーン。契約者が撮影した画像から被害規模を査定し、保険金の目安額を算出、提示するサービスだ。

 損保ジャパンで保険金の請求・支払い手続きの業務フロー改革に取り組んでいる、業務改革推進部企画グループ課長代理の栗山遼平氏は、このサービスの狙いについて次のように語る。

 「これまで浸水被害があると、自宅に職員・調査員が訪問して現場を視察し、写真を撮って水につかった深さを測っていたので、契約者には訪問日の日程を調整して、当日も小一時間ほど待機していただく必要があった。これは契約者の方に負担がかかり、また私どもとしても、被災エリアが広域になると多数の人手が必要で、対応が遅れるといった問題も起こる。特に近年、大型の台風や豪雨など自然災害が頻発しているため、このプロセスを効率化してスムーズにお支払いまで進める手法の開発が課題になっていた」

 浸水した水位を測るためのマーカー(目印)としてペットボトルを床に置き、壁から2メートル離れて撮影。カメラがペットボトルを認識すると画面上で赤い線で囲まれる。契約者は画面上に現れる赤いバー(横線)を実際に浸水した水位までスライドして画像を送信することで、AIが保険金額を算出し、早急な支払いが可能になる。

 このようにLINEアプリにウェブカメラ機能を搭載し、撮影方法のガイドに従って契約者に浸水被害を撮影してもらうことで、居住する建物の構造データなども踏まえて、調査員が訪問する場合と遜色ない支払保険金の査定を可能にした。請求手続きをLINEとAIの活用でセルフサービス化することによって、効率的かつ質を維持したまま対応できるメドが立った格好だ。使わずに済む方が良い機能ではあるが、集中豪雨や台風に見舞われやすい来夏以降、水災に遭遇した契約者のストレス軽減に貢献することになるだろう。

 スムーズな保険金の請求・支払いは、同社がここ数年、特に注力してきた領域だ。18年10月からLINEで保険金を請求できるサービスを開始。さらにオプトの支援を得て、契約者の個人情報も扱えるようにセキュリティーを強化したLINEチャットシステムの開発に取り組み、20年8月、AIが自動で応答するチャットボット機能を搭載した。これによって、24時間365日、いつでも事故対応の問い合わせが可能になり、事故受付から保険金支払いの案内まで完結するようになった。

チャットボットで傷害保険の支払い手続きが完結(画像提供/損保ジャパン)
チャットボットで傷害保険の支払い手続きが完結(画像提供/損保ジャパン)

 同社保険金サービス企画部損害サービスグループ課長代理の石渡絹子氏は、「事故の中でも、相手との交渉が不要で、契約者本人が手続きをすれば済む『定型事案』と呼ばれる案件については、保険会社の職員としての専門性をさほど発揮せずとも支払いまで進むため、事故対応の自動化を進めている」と説明する。

 事故対応は、かつては電話連絡を受けて支払いについて説明し、書類を郵送、契約者はそれに記入して返送するという段取りで、事故受付から請求手続き完了まで2~3週間かかっていた。また、LINE経由の申し込みは電話が混み合ってつながらなくても可能なので便利だが、返信にはタイムラグが生じていた。

 例えばケガをした場合、通院した旨を保険会社に通知することになるが、契約内容の説明→手続きの流れの説明→請求手続きを経て保険金支払額を案内、というステップを踏む。この一連のやり取りがチャットボットで人手を介さずに自動化できるようになった。石渡氏は、「『15分で手続きが終わった』『格段に便利になった』という声をいただいている。傷害保険の1~2割は自動化対応に移行できるのではないか」と見ている。簡易な案件については、「受付時間外」がなくなったと言っていいだろう。

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