
パルコの店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する林直孝氏と、書籍『アフターデジタル』の共同著者であるIT評論家の尾原和啓氏による対談の後半。渋谷パルコのキーワードの1つである「テクノロジー」はAR(拡張現実)や5Gと新技術を取り込みながら進化するというビジョンも見えてきた。
尾原氏 日本の企業ではOMO(Online Merges with Offline)的な取り組み、DX的な取り組みがあまり進まなかった背景をどう見ていますか。
林氏 他の企業のことは、それほど研究しているわけではありません。ただパルコで何でこれを進めることができたかというと、後になって考えると、1つはスマホでお客さんと接点をつくるということを早く気付いたところです。きっかけは、先ほど申し上げたように経営陣から若い世代で考えてくれと。つまり日常で本格的にスマホを使っている人でつくってくれ、という意味合いだったと思うんですよ(笑)。
尾原氏 使いこなしている方々をアサインしたと。
林氏 そうですね。当社の場合はトップダウンでデジタル化だという言い方じゃなくて、何かコミュニケーション方法が変わっているようだ、それって何だろうね、若い人たちで考えてくれというやり方でした。ちょっと回りくどいようではありますが。DXってデジタルを使うことが目的じゃなくて、デジタルを使ってCX(カスタマーエクスペリエンス)とかUX(ユーザーエクスペリエンス)をよりよいものにするというゴールを目指さなきゃいけない。若い人たち、使っている人たちはそこに気付くわけですよね。
外部企業とも積極的に連携
尾原氏 もともとのパルコの文化だったのでしょうか。一般の企業であれば、若い方に権限委譲するとなれば、いろいろしがらみがありそうです。
林氏 パルコの中に新しいことにトライする、チャレンジするというカルチャーは、経営陣も含めて確実にあります。そこはデジタルを推進する意味では大きかったと思います。もちろん、若いチームから方針が出てきたときに、このまま任せた方が進みそうだという提案がきっちりできたこともあります。
尾原さんが、最初にパルコに興味を持ってくださったのは、ショップブログが完備された時期と同じ2013年に取り組んだZOZOTOWNさんの「WEAR」(専用アプリのバーコードスキャン機能で店頭の商品タグを読み取り、関連情報を表示できるサービス)のときだと思います。
尾原氏 そうですね。あの「WEAR」が出てきた当初は、ショールーミングという言葉が現れ始めて、店舗は商品を見ることに使われて、実際の購買はECでと、おいしいとこ取りされるんじゃないかという懸念もあった。それでもパルコとしてお客さんとのつながりを大事にしつつ「WEAR」と一緒にやるという判断が若いチームを中心にできたということでしょうか。
林氏 はい。実際に蓋を開けて、キャンペーンを含めて一緒にやらせていただき、すぐに効果としてすごいなと思ったことがあります。あるメンズの服を扱っていらっしゃるブランドさんが、WEARがローンチしてまだ半年もたたないときに、WEAR上で2万人のフォロワーを獲得されていました。その販売員さんが何かを投稿すると、フォローしている2万人の方の目に一夜にして触れるわけです。
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