
日本の「アフターデジタル」化はなぜ後れを取ったのか。どう挽回し、今後は何を目指していくべきなのか。パルコの店舗DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する林直孝氏と書籍『アフターデジタル』の共同著者であるIT評論家の尾原和啓氏が対談で解き明かす。

書籍『アフターデジタル』が描く店舗のDX化を積極的に推進してきた代表の1つがパルコだ。2019年11月、建て替えで休業していた「渋谷パルコ」が3年3カ月ぶりにオープン。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、デジタル化の成果はどう見えてきたのか。パルコのデジタル戦略をけん引する執行役員CRM推進部兼デジタル推進部担当の林直孝氏に、『アフターデジタル』の共同執筆者でIT批評家の尾原和啓氏が直撃した。
尾原氏 新型コロナウイルスの影響もある中、現在のパルコとしてDXの取り組みは今どういう形になってきていますか。
林氏 2019年11月に新生「渋谷パルコ」が完成しましたが、20年4月上旬の緊急事態宣言で約2カ月間休業を余儀なくされました。実は、この新しいパルコのキーワードの1つは「テクノロジー」です。従来の渋谷パルコで、支持を得ていた要素は3つあります。1つは「ファッション」、2つ目は「アートやカルチャー」、3つ目は「エンターテインメント」です。新しい渋谷パルコではこれに「フード」さらに5つ目のキーワードとして、テクノロジーを加えたのです。
パルコは13年からデジタルの専門部署ができて、そこからさまざまな取り組みを積み上げてきました。例えば、書籍『アフターデジタル』にも出てくるアプリを使ったテックタッチ(デジタル技術を使った顧客との接点)ですね。以前は、来店したときのハイタッチ(人の従業員が1対1で応対するなど丁寧な顧客との接点)な接客が、多くの方に支持されている価値提供でした。パルコでは13年から「24時間パルコ」という言い方で、いつでもどこでもお客さんが接客を受ける機会をつくったのです。
尾原氏 ちょうどスマートフォンがデフォルトのインフラになっていった頃です。
林氏 その通りです。回線環境も3Gから4Gへと切り替わり、日常的にスマホを持って生活する方がぐっと増えた。24時間いつでもどこでも、時間的、空間、場所の制約を取り払い、接客を受けられるようにパルコのWebサイトもスマホに対応しました。発信するコンテンツも、パルコが編集した記事ではなくて、出店されている専門店の売り場から販売員さんがブログで発信するよう切り替えたのです。
20代中心のプロジェクトチーム
尾原氏 「OMO(Online Merges with Offline)」といった言葉が着目される前の早い時期にデジタル化を推進できた理由は何だったのでしょうか。
林氏 パルコは70年~80年代とマスメディアによるコミュニケーションをうまくやれていて、ブランディングも成立してきた。しかし、コミュニケーションの仕方は変わってきているのではないか、どうも今のやり方ってフィットしないんじゃないのかなと。経営陣から「若いメンバーでプロジェクトを組んでやってくれ」と宿題が出されたわけです。パルコの中でデジタル部門ができた13年当時、僕を除けば、部内の平均年齢は20代だったんですよ。
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