
アフターデジタル時代の新事業を生み出すうえで重要なキーワードがOMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの融合)。カンカク(東京・港)はオンラインで店舗が顧客とつながるOMOの手法でカフェを再定義した。アプリの多彩なサービスによる店舗DXが業界の注目を集めている。
オンラインとオフラインの垣根をなくすことをコンセプトにした、全く新しい発想のカフェ「TAILORED CAFE(テイラードカフェ)」が2020年2月、東京・麻布十番にオープンした。アプリを駆使することで、待ち時間ゼロを可能にした来店前オーダー、完全キャッシュレス化など、店舗のDX(デジタルトランスフォーメーション)を突き詰めたカフェで、斬新なスタイルが話題を呼んでいる。
同店では、専用の無料モバイルアプリ「COFFEE App」で、事前にドリンクやフードメニューの予約を受け、来店時に素早く商品を提供する。アプリ上でコーヒー豆などの素材に加え、ミルクの種類やトッピングのオプションを組み合わせて好みの1杯をオーダーできる。また、月額3800円(税別)のメンバーシップ(会員)になれば、通常1杯400円のスペシャリティーコーヒーを毎日、複数回注文できるサブスクリプションプランも用意する。
カフェの仕掛け人で、カンカク代表の松本龍祐氏は、スマホアプリの開発などを行うコミュニティファクトリーを創業しヤフーに売却後、メルカリに参画。メルペイの取締役を務めるなど、長年IT業界に身を置いてきた。そこから一転、リアル店舗の運営へ乗り出した背景には、「近い将来、リアル産業すべてにおいてITが必須になり、“IT業界”という言葉はほとんどなくなる」という危機感があったという。
そんな中、「ITにどっぷりと漬かったビジネスに取り組むよりも、オンラインとオフライン(リアル)の架け橋になるほうがいい。私が今まで、インターネット上で消費者と高頻度で接点がある“toC”のビジネスに関わってきたノウハウをリアルで生かすなら、どの業態が適しているかを考えた結果、毎日消費者と接点が持てるカフェにたどり着いた」(松本氏)。
同社では、19年に東京・北参道に1号店「KITASANDO COFFEE」をオープンしているが、松本氏は開店前にリテールの先進国である米国に渡り、近年進出が相次いでいる、D2CブランドなどEC中心の業態のリアル店舗を視察。店舗のDX化が進んでいる現状を見て、「思い切ったことをやらなければ意味がない」と感じたという。そこで、開店当初から完全キャッシュレス化、店舗運営のペーパーレス化を徹底した。
「現金を1円でも扱えば、現金の管理コストがかかる。当初は、お客様から『現金も使える方が便利』といった声も少なからずあったが、そこは譲れなかった。また、衛生管理チェックシートといった、従来は紙で運用されてきた店舗運営に必要な情報はすべて、Googleフォームなどで一括管理している」という。同社の店舗では、例えば、冷蔵庫の温度管理もBluetooth接続の温度計を使用することで、従来スタッフが目視で温度をチェックし起票していた手間を大幅に省いた。
「2月のTAILORED CAFE開店直後は新型コロナウイルスに伴う外出自粛の影響を受け、店舗は時短営業による打撃も受けた。けれど、その一方で、コロナ禍によってキャッシュレス化がお客様から自然な形で受け入れられるなど、デジタル化のスピードが一気に加速した」と、松本氏は指摘する。
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