コロナ禍によるテレワークなどを発端に「ながら聴き」ができるオーディオコンテンツが再注目されている。人々の“耳”を巡る争奪戦にはラジオ局以外の異業種の参入も相次ぐ。ここでは、Podcastに注力しているSpotify、AudioMovie、Voicyの最新コンテンツと戦略をまとめた。
※日経トレンディ2020年11月号の記事を再構成

「毎日の弁当の献立? 俺が教えてほしいぐらいだぜ!」――。人気男性声優18人によるラップソングプロジェクト「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」のキャラクターがラジオパーソナリティーとなってリスナーから届いた相談事に次々と答えていく。
Spotifyは2019年から日本でオリジナルのPodcastを配信しており、初回から人気が爆発した代表的なコンテンツが、この「ヒプノシスRADIO -Spotify Edition-」だ。架空のキャラクターと現実が融合された世界観に「超リアル!」「推しが身近に生きてる!」などとファンが殺到し大きな話題になった。
同タイトルのラジオ番組の放送直後に未公開部分を加えて配信され、もう一度聴きたい人やオリジナル部分を楽しみたい人がPodcastを聴いてSNSに感想を投稿。それが拡散しさらに人が集まるという好循環が起きた。
TOKYO FMと共同で企画したこのコンテンツは、Spotifyの国内Podcastチャート上位にランクイン。Spotifyの中で、「特定のPodcast番組を聴くために新規登録したユーザー数」が世界一という快挙となった。
新規ユーザーの獲得と利用時間の拡大に期待
19年2月、SpotifyのCEO、ダニエル・エク氏は「世界のどの企業よりもオーディオや音声コンテンツに注力する」と宣言し、「ギムレットメディア」などPodcastの制作・配信を行う大手プロダクションを次々に買収。世界で最も人気があるといわれるPodcast番組とも独占契約するなど、制作から配信、人気コンテンツまでを手中に収めた。日本のSpotifyでも「まずは様々なジャンルのコンテンツを配信し、聴取データを分析しながらどんなものが受け入れられるかを検証するところから始めた」(スポティファイジャパンコンテンツ部門統括の芦澤紀子氏)。
Podcastに注力する狙いは新規ユーザーの獲得。さらに期待できるのが利用時間の拡大だ。Podcastのリスナーは音楽も長時間聴く傾向があるという。「Spotifyは同じアプリで音楽もPodcastも聴けるためサービス内を回遊して長時間楽しめる」(芦澤氏)。国内ユーザーの平均利用時間は1日2時間強。ニュースやエンタメなど、毎日聴く習慣がつくようなコンテンツを増やし、利用時間の拡大を目指す。
例えばオリジナルコンテンツとして成長しているのが音楽評論家の田中宗一郎氏らがポップカルチャーについて語る「POPLIFE:ThePodcast」だ。「1時間以上も語る番組で、ラジオ放送では決して成立しないような番組だが多くのリスナーに支持されている」(芦澤氏)。特に一度聴いた人が次も聴くリテンション率(定着率)が高いうえ、番組の最後まで聴く「完全聴取率」も驚異的な数字だという。
ラジオ局との連携も着々と進めている。例えばニッポン放送の人気番組「オールナイトニッポン」のPodcastは既に同社のチャート上位の常連。19年6月からはラジオNIKKEIの約30番組も配信するようになった。
現在提供しているPodcastは、無料会員も「広告なし」で聴ける。他の企業ではPodcastにCMを挟み込むこともあるが、「日本においてはまだマネタイズを検討する段階ではなく、コンテンツを拡充させる時期だと考えている」(芦澤氏)という。
Netflixのようにオリジナルコンテンツの拡充を進めるSpotify。年内にもPodcastの新コンテンツを発表する見込みだ。
【spotify】オリジナル拡充で“音のNetflix”へ
主なコンテンツ




このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー