安部礼司の人気の理由は、コンテンツにちりばめられた工夫だけではない。ファンの心をがっちりつかんで離さない秘密が、定期的に行われているリアルイベントの存在だ。数万人を集める大規模イベントから、商業施設のイベントスペースでの公開生放送といった地方でのイベントまで。年に数回のペースで途切れることなく開催してきた。
※日経トレンディ2020年11月号の記事を再構成
数万人が架空の人物に会う
直近の大規模イベントは、20年2月に横浜の日産グローバル本社ギャラリーで行われた「NISSAN あ、安部礼司フェスティバル 2020 安部四輪」(入場無料)。2万2000人以上が参加し、生ラジオドラマの収録・放送やクレイジーケンバンドの生演奏披露などで、来場したリスナーを沸かせた。
ラジオドラマはあくまで架空の世界だが、イベントがあることで、リスナーは番組や登場する人物たちをより身近に感じられる。これが絆を深める場になっているのだ。「目の前のキャストを見ながら頭の中でおのおのが物語を再現しているから、客席を見るとみんなニヤッとしている。ラジオというマイノリティーなメディアの話なのに、同じく安部礼司を聴いている人が数万人集まると、ものすごく大きな高揚感や連帯感を感じる」(堀内氏)。
その絆の深さを表すエピソードが、11年の東日本大震災の直後。岩手県釡石市でイベントを行った際は、スタッフの予想に反して多くのリスナーが集結した。
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北阪氏と共に、番組開始当初から脚本を手掛ける村上大樹氏は、「キャストの握手会に集まったリスナーから、『家が流されてしまった』という悲しい話も安部礼司に聞いてほしい、という思いを感じた。リスナーの中に、安部礼司が友達のような感覚でいてくれるんだろうなと実感した」と振り返る。今回の読者アンケートでも「イベントによく参加していて、番組を聴くことが習慣になっている」(40歳男性)という声があった。
これだけの人を集められるイベントが開催できる“布石”となったのが、実はくだんの「登場人物の結婚」だ。大規模イベントの1回目が、09年3月に渋谷C.C.Lemonホールで行われた「ウェディングパーティー ~本気でオンリー優~」。ドラマ内で結婚した、安部礼司と優の結婚式イベントだった。
結婚に至るまでの経緯は開始からずっと放送してきている。いわば、それまでの放送すべてがイベントの「宣伝」になっていたようなもの。ドラマと連動させた試みも大成功だった。
結果的に2000人の会場キャパでは少ないほどで、約4000円の参加チケットはプラチナ化。「安部礼司ATA-Tシャツ」や「刈谷勇特製お守り」など、キャラクターにちなんだ番組グッズも当日販売し、売り切れが続出した。
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