2020年9月26日配信の「東京ゲームショウ 2020 オンライン」(TGS2020 ONLINE)の主催者番組「2020年版 eスポーツの楽しみ方」では、デバイスメーカー社長、ビール会社のマーケター、プロeスポーツチームCEO(最高経営責任者)と異色のメンバーが集結。広がるeスポーツビジネスの可能性を議論した。

3人のキーパーソンがeスポーツの今後について議論した。モデレーターは日経クロストレンドの平野亜矢副編集長
3人のキーパーソンがeスポーツの今後について議論した。モデレーターは日経クロストレンドの平野亜矢副編集長

 対談のメンバーは、「ThinkPad」などビジネスパソコンのほかゲーミングPCに力を入れるレノボ・ジャパンのデビット・ベネット社長、スポンサーとしてeスポーツに参画するサッポロビール コミュニケーション開発部メディア統括グループ シニアメディアプランニングマネージャーの福吉敬氏、人気eスポーツチーム「Rush Gaming」の運営会社をCEOとして率いる西谷麗氏だ。いずれもゲームやeスポーツに仕事として関わりつつ、プライベートでもどっぷりとハマっているファンでもあるという。日経クロストレンドの平野亜矢副編集長がモデレータを務め、異なる視点や立場からeスポーツの魅力や楽しさ、ビジネスの可能性について話した。

あらゆる垣根を越えて交流できる

 最初の議題は「eスポーツの楽しさは何か」。ベネット氏は「平等」という言葉を挙げた。「社内のeスポーツ部や企業eスポーツ部を作って、社員や他企業とも対戦している(関連記事「レノボとソフマップが対抗戦 大手がeスポーツ部をつくる理由」)。そこには、老若男女や上下関係の垣根はない。普段はレノボの社長として活動していても、eスポーツとなると『デビット早くいけよ!』など、ミーティングの場ではありえない言葉をかけられることも。フラットなコミュニケーションが取れて、親しくなるのが魅力」なのだという。

 レノボ・ジャパンでは毎週金曜日は「4:30 Friday(フォー・サーティー・フライデイ)」として午後4時半から自由時間を設けており、ベネット氏はその時間に社員のメンバーとゲームをすることもあるという。番組前日の金曜日には、12人ほどで『Fall Guys(フォールガイズ)』をしたそうだ。

レノボとソフマップの企業交流戦で、選手欠員のため参戦するレノボ・ジャパン社長のデビット・ベネット氏
レノボとソフマップの企業交流戦で、選手欠員のため参戦するレノボ・ジャパン社長のデビット・ベネット氏

 「レバンガ☆SAPPORO」というeスポーツチームのスポンサーをしているサッポロビールの福吉氏も「60代の人が、20代と同じチームで対戦していた。普通だったらなかなかない光景」と同意する。eスポーツの一番良いところは「圧倒的熱量」という。「ゲームは、場所や国の垣根も超え、同じゴールに向かって一緒に闘うもの。その熱量はすさまじく、客観的にeスポーツの試合を見ていると、スタジアムに集まって大騒ぎするリアルスポーツのような一体感がある」(福吉氏)。

サッポロビール コミュニケーション開発部 メディア統括グループ シニアメディアプランニングマネージャーの福吉敬氏
サッポロビール コミュニケーション開発部 メディア統括グループ シニアメディアプランニングマネージャーの福吉敬氏

 西谷氏は「多様性」もあると付け加える。「例えば、サッカー選手の言葉に心が動かなかった人でもゲームで心が動かされるという人はいるはず。人類が幸せであるために一番大事なのは受容や寛容さなど、多様性を受け入れることだと思う。ゲームや人との関わり合いを通じて、プレーヤーそれぞれの生き方などを受け入れることで、社会の受容性が高まるという社会的な意義があるのではないか」(西谷氏)と述べる。

『Call of Duty』など、一人称視点で行うシューティングゲームのFPS(ファースト・パーソン・シューティング)ゲームで活躍するeスポーツチーム「Rush Gaming」のCEOである西谷麗氏。主にゲーム分野においてマーケティングの代行やマネジメントを行うWekidsのCEOも務める
『Call of Duty』など、一人称視点で行うシューティングゲームのFPS(ファースト・パーソン・シューティング)ゲームで活躍するeスポーツチーム「Rush Gaming」のCEOである西谷麗氏。主にゲーム分野においてマーケティングの代行やマネジメントを行うWekidsのCEOも務める

 コロナ禍においてテレワークが広がる中、eスポーツが有効なコミュニケーションツールとして機能する可能性もある。「リアルで会える場が減ってしまったが、ゲーム上で仕事とは関係のない話ができた」とデビット氏は新たな発見を語る。確かに、今までオフィス、ランチ、飲み会などでしていた会話が少なくなった。ファン同士であれば、ゲームを通して仕事以外でも自然とコミュニケーションが取れる。

eスポーツの意義を社会に広げる

 各地で大会が開催され、大手企業がスポンサーになるなど、急成長を遂げているeスポーツ業界。とはいえ、eスポーツは難しいというイメージがあり、まだ一般には浸透していない印象がある。その理由を、福吉氏は「タイトルごとにポイントが違う点にある」と指摘する。

 「eスポーツには、様々なタイトルがある。野球やサッカー、フットボール、アメフトなどのように、タイトルごとにルールや見どころが異なるのにもかかわらず、『eスポーツ』とひとくくりにされがち。eスポーツを同じものとして捉えるから、難しいと言われてしまうのではないか」と福吉氏は推測する。

 西谷氏は「所属するプロプレーヤーには長いキャリアを積んでほしいと思っている」としながらも、eスポーツのコアな年齢層である高校生や大学生は、甲子園球児や大学のスポーツクラブのように、レベルは高くともプロにならないという領域があっても良いという。仲間と協力しながら努力を重ねる経験が、人生の指針を決める一助となれば、eスポーツの意義として世の中に認めてもらえるようになるというわけだ。

無関係な人や企業をつなげる懸け橋に

 新型コロナウイルス感染症拡大によってこれまで開催されていた大会やイベントがオンラインに切り替わった今、私たちはどのようにeスポーツを楽しめば良いのだろうか。ベネット氏は、誰でもどこでもゲームができる世界を目指す。「eスポーツのチームを作りたいが、やり方が分からないという企業はたくさんある。自社にはノウハウがあるので、製品などを貸し出したりとサポートをしていきたい。日本にはバレーボールや卓球のリーグがあるが、将来的にはそれと同じように、会社のリーグを作りたい」と夢を語った。

レノボ・ジャパンのベネット氏。同社はゲーミングPCやヘッドセットなどのアクセサリーをサブスクリプション型で貸し出しする「スグゲー」の提供も開始している
レノボ・ジャパンのベネット氏。同社はゲーミングPCやヘッドセットなどのアクセサリーをサブスクリプション型で貸し出しする「スグゲー」の提供も開始している

 福吉氏は、「プロダクトとファンを近く」することを目標としている。サッポロビールは、ビールを飲みながら野球などのスポーツ観戦をする時と同じように、eスポーツもお酒を飲みながら観戦してほしいという思いがあった。ゲームやコンテンツなどと同じ「娯楽」の分野としてお酒があると考え、eスポーツ事業に参入したものの、まだお酒とeスポーツという垣根は取れきれていないのだという。

サッポロビールのポータルサイトで「レバンガ☆SAPPORO」の選手が『Shadowverse(シャドウバース)』を解説しする連載を投稿したところ5位にランクイン。お酒とeスポーツの親和性の高さがうかがえる
サッポロビールのポータルサイトで「レバンガ☆SAPPORO」の選手が『Shadowverse(シャドウバース)』を解説しする連載を投稿したところ5位にランクイン。お酒とeスポーツの親和性の高さがうかがえる

 「eスポーツの振り返り番組などを配信していたが、自社商品を前面に宣伝するのではなく、最初に乾杯してからゲームやチームにスポットを当て、番組を流すようにした。自社のプロダクトを自然に受け入れてもらうことを真剣に考えていきたい」(福吉氏)とスポンサー企業としての同社の姿勢を述べた。

 西谷氏も、多くの人にeスポーツを身近に感じてもらうためのストーリーや文脈などが大事だと話す。「eスポーツに熱狂している人達のストーリーをもっと伝えたい。また、選手とファンだけでなく、ファン同士でつながる場も設けたい」という。

19年に原宿のラフォーレで行ったプロeスポーツチームRushのイベント。ゲーマーと交流を持ちたいというファンが数多く詰めかけた。普段はTシャツやユニホームを販売しているが、このときは写真集も売り、選手がサインを書くこともあったという
19年に原宿のラフォーレで行ったプロeスポーツチームRushのイベント。ゲーマーと交流を持ちたいというファンが数多く詰めかけた。普段はTシャツやユニホームを販売しているが、このときは写真集も売り、選手がサインを書くこともあったという

 コロナ禍でリアルのつながりが作りづらい今、オンラインでどのように交流するかがカギとなっている。従来の枠組みで考えれば、この3企業が交わることは考えにくい。しかし、eスポーツを介することで交流が生まれ、つながりを作ることができる。こうした風潮はどんどん加速していくだろう。2020年は、プロやファンだけでなく、ファン同士や、その他の人達、企業がどう関わっていくかが重要視されるフェーズに来ているのではないだろうか。

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