「東京ゲームショウ2020 オンライン」(TGS2020 ONLINE)の基調講演には、日本を代表するゲームメーカーのキーパーソン4人が集結した。PlayStation 5(PS5)など次世代機、withコロナ時代のメーカーの取り組みなどをテーマに、ゲーム業界の今後の展望を議論した。

基調講演の様子。リモート出演という形で登場するスピーカーも
基調講演の様子。リモート出演という形で登場するスピーカーも

 次世代ゲーム機のPS5、Xbox Series X/Sと対応タイトルの登場が待たれる一方で、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、ゲームを楽しむ環境や制作の現場にも変化が生じている。それらはゲーム業界の未来にどんな影響を及ぼすのか。2020年9月25日の午後7時から開催となったTGS2020 ONLINEの基調講演では「未来は、まずゲームにやって来る」をテーマに、業界のキーパーソン4人が語り合った。

■出演者
谷渕弘氏(コナミデジタルエンタテインメント 「パワフルプロ野球」「プロ野球スピリッツ」シリーズ エグゼクティブディレクター)
浜口直樹氏(スクウェア・エニックス 第一開発事業本部 ディビジョン1 マネージャー、FINAL FANTASY VII REMAKE 共同ディレクター)
内山大輔氏(バンダイナムコスタジオ社長)
竹内潤氏(カプコン 常務執行役員 CS第一開発統括 兼 第一開発部長)
コーディネーター:林克彦氏(KADOKAWA Game Linkage ファミ通グループ代表)

超高速な次世代機の登場で開発の視点が変わる

 最初のテーマは「次世代機の未来」。PS5などの次世代機向けタイトル『プラグマタ(PRAGMATA)』『バイオハザード ヴィレッジ(BIOHAZARD VILLAGE)』を発表済みのカプコン竹内氏が「絶賛開発中。地獄のように大変です」と発言して笑いを取ると、『スカーレットネクサス(SCARLET NEXUS)』を発表しているバンダイナムコスタジオの内山氏も「竹内さんと同じで大変なことになっています」と続けた。

 スクウェア・エニックス、コナミデジタルエンタテインメントは「次世代機については検証している段階」(浜口氏)、「考えていることは考えている」(谷渕氏)とのことだ。

次世代機のPS5に対応した『バイオハザード ヴィレッジ』。2020年9月25日の「CAPCOM スペシャルプログラム」でメイキング映像が公開された
次世代機のPS5に対応した『バイオハザード ヴィレッジ』。2020年9月25日の「CAPCOM スペシャルプログラム」でメイキング映像が公開された

 処理の速さなど、次世代機のパフォーマンスに手応えを感じているという内山氏は「それをユーザーの体験にどうつなげていくのか、開発側が問われている」とコメント。それを受けて竹内氏も現行のゲームでよくあるロード待ち画面でのTips(使い方のヒント)表示を例に挙げ、「ロードが速すぎてTipsを表示する場所がなくなった。(次世代機を)使いこなすには従来とは違った視点が必要だ」と、次世代機用ゲーム開発の難しさを語った。

 また浜口氏は「次世代機の登場でゲームソフトのすみ分けが進む」と分析。「手軽に遊べるスマートフォン用ゲームは生活に溶け込んだゲームに進化しているが、次世代機用ゲームには『これからゲームをやるぞ!』というときの特別な体験・没入感が求められるようになる」と感じたという。

コミュニケーション重視でゲーム体験の定義が変わる

 動画配信サイトでの「ゲーム実況」やeスポーツの大会、ライブイベントなど、ユーザーコミュニケーションも重要性が増している。最近では米大リーグ、カブスのダルビッシュ有選手が自身のYouTubeチャンネルで『プロ野球スピリッツA』のプレー動画を配信。それがきっかけで、コナミデジタルエンタテインメントとのコラボレーション企画「ダルビッシュ×GEMSTONE×プロスピA リアルタイム対戦チャレンジ」が実現した。

 谷渕氏は「コロナ禍でメジャーリーグもまだ開幕していなかったので、何かできないかと思って(ダルビッシュ選手に)声をかけたところ『ぜひ!』という話になった。野球ファンには非常に喜んでもらえた」と、コラボ企画の成功に満足げ。

「ダルビッシュのゲームチャンネル」の登録者数は30万人以上。各動画の再生回数は約30万~40万回にも上る
「ダルビッシュのゲームチャンネル」の登録者数は30万人以上。各動画の再生回数は約30万~40万回にも上る

 ゲーム実況の人気について内山氏は「ゲームの再定義を始めようと思っている。ゲームの実況動画を見ることもゲーム体験といえるのではないか」と言い、「アイデアの出し方、企画の切り口の違いなどを他社に聞いてみたい」と質問を投げた。

 谷渕氏は「コロナ禍でeスポーツの大会が開催できなくなり、それをオンラインでどうしていくべきなのか……考え方を180度切り替えることになったとき、そこから見えてくるものが多かった」と話す。「(オンラインでの展開を)全然やってこなかったんだなという実感があって、どうすべきか考えているところ」(谷渕氏)

コロナ禍を乗り越えてゲーム業界全体が変化する

 最後のテーマは「withコロナ時代のゲーム作りと未来」。コロナ禍によって働き方が変わりつつある中、ゲーム制作会社はどう開発を進めているのか。

 浜口氏は「緊急事態宣言が出た段階で、スクウェア・エニックスは全社的にリモート勤務になった。当初はリモート勤務のインフラが整っていなかったことと、スタッフがリモートを活用したワークフローになじんでいなかったこともあって1カ月くらいはドタバタした」とコメント。内山氏も「在宅では無理と思っていたことも、実際にやってみると案外できるということに気づいた。ただし、オペレーションはできるが、クリエイティブがしにくい。クリエイティブが必要な部分は会社に集まるなど、使い分けをしている」と、ゲーム開発の現状を語った。

 リモート勤務にシフトすることでゲーム開発の期間が長期化する懸念はあるが、各社とも新しい環境に適応しつつあるとのこと。竹内氏が「ゲーム制作会社だけでなく、業界全体に変化が求められる時期に来たと感じている」と話すと、林氏が「(ゲーム制作会社の)皆さんがブラックではない環境で働いてくれるのが一番」と笑いを取って基調講演の締めくくりとした。

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