2018年、19年に続き、3回目となるゴールデンボンバー・歌広場淳さんへのインタビューは、音楽活動とは別に行うゲームやeスポーツ関連の活動とそれらへの向き合い方、さらにはゴールデンボンバーのメンバーとして見たアフターコロナ時代のライブエンターテインメントにも及ぶ。全3回の連載の今回が最終回。

ヴィジュアル系エアーバンド「ゴールデンボンバー」でベースを担当する歌広場淳さん。eスポーツイベントに自ら出場したり、解説やMCも務めたりする(写真/岡安 学)
ヴィジュアル系エアーバンド「ゴールデンボンバー」でベースを担当する歌広場淳さん。eスポーツイベントに自ら出場したり、解説やMCも務めたりする(写真/岡安 学)

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 ヴィジュアル系エアーバンドゴールデンボンバーの活動の一方、格闘ゲームのすご腕プレーヤーとして知られ、eスポーツイベントへの出演やゲーム関連動画の配信なども行う歌広場淳さん。

 前回の記事では、コロナ禍のeスポーツへの影響、それを経て知った動画配信での心構え、さらにはeスポーツプレーヤーのファンマーケティングの在り方などに話が進んだ。

 最終回となる今回は、話をさらに掘り下げる。コロナ禍を経てオンライン化が一気に進んだeスポーツイベントにはどんな課題があるのか、ひいては自身の本業でもあるゴールデンボンバーのライブエンターテインメントはどうなるのか。今抱える思いを語りつくす。

オンライン化の挑戦が生む発見に期待

――これまでオフラインで行われていたeスポーツ大会がコロナ禍でオンラインになるケースが増えています。選手として自身もさまざまな大会に参戦している歌広場さんから見て、戸惑いなどありますか?

歌広場淳さん(以下、歌広場) 戸惑いがないわけではないですが、その変化をリアルタイムに体験できていることの素晴らしさを重視すべきでしょうね。

 テレビでもなんでも「昔はもっとムチャクチャで面白かった」「あの頃は良かった」なんて言われることがよくあります。格闘ゲームでも「前作のほうが良かった」というのはよく聞く感想です。でもそれはある一時の視点でしかありません。

 Netflixで『ハイスコア:ゲーム黄金時代』というゲームの歴史を追ったドキュメンタリーが配信されているんですが、これを見てみると自分が知っている時代を描いているシーンでも知らないことがいっぱいあって面白いんです。この作品自体は当時を知らない人のために作られたものでしょうが、見るのは多分、当時を知っている人のほうが多いんじゃないかな。その時代を知っているからこそ、当事者の視点、体験がとても興味深く、面白く感じられるんです。

 同じように、今この大変な時期をeスポーツ選手として生きていることは、後々、これを時代の中心にいる当事者として面白おかしく語れるということでもあると思います。だから主催者には「初のオンライン大会」といった新しい試みにがんがん挑戦してほしいし、選手として体験したいと思っています。

2020年1月に開催された対戦格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2020」。コロナ禍の前のこのときは会場の幕張メッセにたくさんの人が集まった(写真/酒井 康治)
2020年1月に開催された対戦格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2020」。コロナ禍の前のこのときは会場の幕張メッセにたくさんの人が集まった(写真/酒井 康治)

 それは僕自身が「配信をやってみよう」と動画配信の世界に飛び込んだのと同じで、「まずやってみよう」というアクションであり、自分以外の人がそれに対してどんな反応をするのかを見られるチャンスでもあるわけです。

 初めてなんですから、批判があるのは当然ですし、評価も分かれるでしょう。それでもそこで止まるべきではありません。

 20年は「東京ゲームショウ」もオンライン開催になりましたよね(「東京ゲームショウ2020オンライン」特設サイトはこちら)。メディアなどは同時接続者数が何人とか、総視聴時間が何分とか、そういう表面的な数字しか見ないかもしれない。でも、オンラインだからこそ、動画を見ながら面白そうなゲームがあればすぐに公式サイトをのぞけたり、ECサイトで予約したりといったリアルとは違う行動も生まれるわけじゃないですか?

 結果的に時間単位の予約本数が最高記録を達成するなんていうことが起こってもおかしくない。こういう新しい発見が起こることを期待していますし、それを体験したいですね。

歌広場さんは2018年、19年と2年連続で、日経クロストレンド(18年は日経トレンディネット)のゲストリポーターとして東京ゲームショウに来場した
歌広場さんは2018年、19年と2年連続で、日経クロストレンド(18年は日経トレンディネット)のゲストリポーターとして東京ゲームショウに来場した

オンライン時代の「ルール」と「マナー」

――eスポーツはオンラインとの親和性が高いとよく言われます。しかし、競技としてみた場合、サーバーとの物理的な距離や回線状況によって環境が左右され、公平性を保つのが難しいという問題も指摘できます。プレーヤーの1人として、それについてはいかがお考えですか?

歌広場 運営も環境も手探りですから、トラブルが多いことは感じます。時間通りに対戦相手が現れないといった参加者側の問題から、運営の不慣れから来る進行上のトラブル、通信環境の問題などですね。海外との対戦はもちろん、沖縄や北海道といった国内の対戦でも通信のラグ(遅延)は感じます。

 進行上のトラブルは経験が、通信環境に関しては5Gが普及すればある程度改善されるのは確実です。じゃあ、条件が整うまで大会を開催しないのかといえば、それはやったほうがいいんですよ。そしてやる以上は、現状なりのルールやマナーが必要になってきます。

対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズのプレーヤーとしても活躍する歌広場さん(写真/岡安 学)
対戦格闘ゲーム「ストリートファイター」シリーズのプレーヤーとしても活躍する歌広場さん(写真/岡安 学)

 運営は公平性を保つために、地域を限定して大会を開催したり、不利益を被った選手に救済措置を与える道を検討したりと、できることはいくつもあると思うんですね。

 選手にも新たなルールとマナーが求められるでしょう。通信上のラグを故意に利用して戦わない、ラグの多い相手はブラックリストに入れて対戦自体が発生しないようにするなどです。もしこうしたことが大会などのルールで規定されていないなら、そこから先は「より良い環境を整えて大会に参加すべき」といった「マナー」の範疇(はんちゅう)になっていきます。

 さらに、eスポーツを見て楽しむ観戦者にも、不完全な状況で争われていることを踏まえたうえでの観戦スタイルや知見が求められると思います。キャラクターにおかしな動きがあったとき、それが操作ミスなのか、ラグなのかを見極める。そして環境ゆえに仕方のないものならば、勝敗の結果は受け入れつつも、必要以上に選手の評価をおとしめないといったことです。

――大会運営側に期待することはありますか?

歌広場 ルールやマナー、運営方法の揺らぎもまた「過渡期の楽しさ」ではあるんです。とはいえ競技として選手たちを闘わせる以上、可能な限り公平性を保てる仕組みを作る姿勢を見せてほしいですね。

 残酷な話になってしまうかもしれませんが、明らかに回線状況が悪い状態が長期間改善されない人は参加できないようにする、といったルールを定めたほうが問題は起きにくいはずです。しかし、これはともすればインフラの状況によって参加できないエリアを生んでしまうという別の不公平性にもつながる。単純な話ではないですね。

オンラインでは“ながら見”の人をどう引き付けるか

――歌広場さんの本業である音楽業界にとっても、新型コロナウイルスの影響は大きかったと思います。

歌広場 確かに大きかったです。でも、ライブをオンラインで開催してみたり、個人チャンネルを開設してみたり、まだまだ過渡期ではありますが、少しずつ「今できること」の範囲が定まっていった感じはありますね。同様に、見る側のコロナ禍への理解度も上がっていると感じます。

ゴールデンボンバーは2020年8月1日、無観客生配信ライブ「ゴールデンボンバー有料無観客ライブ『去年の無人島より100倍マシ ~電気があるって素晴らしい~』」を開催した(写真/菅沼剛弘)
ゴールデンボンバーは2020年8月1日、無観客生配信ライブ「ゴールデンボンバー有料無観客ライブ『去年の無人島より100倍マシ ~電気があるって素晴らしい~』」を開催した(写真/菅沼剛弘)

 これは僕の知り合いのミュージシャンが、有人でライブを行うと発表したときの話なのですが、ファンから喜ぶ声がたくさん上がる一方、「やっぱり怖いからちょっと行きにくい」という意見も予想以上に多く上がったそうです。以前と同じように活動すればファンは喜んでくれる、と言い切るにはまだまだ時間が掛かると感じた出来事でした。

――行きたいと思っていても、実際に行くかは別問題ということですね。

歌広場 これってコロナ禍の常識が新たに生まれ、それが浸透しているっていうことですよね。

――そこでもしクラスターが発生したら、周囲の人はもちろん、アーティストにも迷惑をかけてしまうという怖さがファンにはあるでしょうね。

歌広場 そう思います。結果的に軽症どころか無症状のままで終わりましたが、僕もPCR検査で新型コロナウイルスの陽性判定を受けました。そのときに怖くなったのは「自分はともかく誰かにうつしていないか」ということでした。どれだけ対策をしたところで、「感染したくない」「させたくない」と思う人がいるのは当然のことです。

 そこで無観客ライブや配信をすることになるのですが、これは新しい取り組みなだけに、今までできなかったこともできると考えています。例を挙げるならば、ライブハウスの客席まで使ってステージングするといったことなどです。

 むしろ、今までと違うことを考えないとダメだとも感じています。今まで当たり前だったオフラインのライブも、同じ時間と空間を共有できていたからこそ盛り上がれた側面はあると思うんですよ。もしかしたら、それで「許されていた」だけなのかもしれない。でもコロナ禍でその方法が失われてしまった以上、新しい常識に基づく表現の可能性を追求していかなければいけません。でないと、エンターテインメントは「つまらなくて見ていられない」ものになっていきかねないという危機感があります。

ゴールデンボンバーの無観客生配信ライブでパフォーマンスする歌広場さん(写真/菅沼剛弘)
ゴールデンボンバーの無観客生配信ライブでパフォーマンスする歌広場さん(写真/菅沼剛弘)

――いくらリアルタイムの配信といったところで、内容を工夫しないとサーバーにストックされた動画を見るのと感覚的には変わりませんからね。

歌広場 自宅で見られるということは洗濯など家事をしながらでも見られるわけで、それも1つの価値ではあります。でも、集中して熱心に見る気持ちは下がるかもしれない。例えばお金を払ったのに見られなかった場合、それを惜しむ感情はリアルなライブより薄いのではないかとも思うんです。

 “ながら見”している人が思わず「あれ!?」と画面にくぎ付けになるようなものを生み出すのが、これからのエンターテインメントの努力だと思うし、これこそが度々繰り返している「画面の向こうにいる見えない人(観客)の顔が見えているかどうか」ということなのではないでしょうか。いいか悪いかは別として、今以上に「画の強さ」も重要な時代になってくるんだろうな。

 こうして話していると、希望と同時に不安も出てきます。でも、新型コロナウイルスの影響がなかったことにはできないじゃないですか? だったらポジティブに考えたい。新型コロナウイルスの影響が何かを“奪われる”ことだけなんて、悔しすぎてはらわたが煮えくり返る思いです。だから、ユーザー視点でもゲーマー視点でも、アーティスト視点でも、状況を見据え、「何かを拾った」と言える1年にしたいとずっと考えているんです。

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