2018年から毎年行っているゴールデンボンバー・歌広場淳さんのインタビュー連載。造詣が深いゲームやeスポーツの話を中心に、自身の本業、ライブエンターテインメントはアフターコロナ時代にどうなるかなどを聞く。今回はその第2回。

2019年12月に愛知県で開催された『ストリートファイターV アーケードエディション』の頂上決戦「Red Bull Kumite(レッドブル・クミテ)」に選手としてエントリー。ゲストとしても出演した(出所/歌広場淳さんTwitter)
2019年12月に愛知県で開催された『ストリートファイターV アーケードエディション』の頂上決戦「Red Bull Kumite(レッドブル・クミテ)」に選手としてエントリー。ゲストとしても出演した(出所/歌広場淳さんTwitter)

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 ヴィジュアル系エアーバンド、ゴールデンボンバーの活動の一方で、総合ゲームエンタメ集団「ReMG(レムジー)」のメンバーとして、eスポーツイベントへの出演や大会への出場、動画配信なども行う歌広場淳さん。

 前回の記事では、活動の拡大によって自身が感じたこととして、動画配信の難しさや、ゲームを題材にした従来の番組制作に足りなかったもの、それを踏まえてゲームやeスポーツの見せ方が分かってきたことなどを聞いた。

 2回目の今回は、コロナ禍のeスポーツへの影響、さらにeスポーツプレーヤーのファンマーケティングへと話が展開する。

「見えない人」にいかに目を向けるかがテーマ

――2019年のインタビューでは、「eスポーツの魅力は下手でもいいこと。だから、自分の弱さをもっとさらけ出したい」とおっしゃっていました(関連記事:金爆・歌広場淳、eスポーツの魅力は「下手でもいい」こと)。その後、歌広場さんとゲームの関係に変化はありましたか?

歌広場淳さん(以下、歌広場) 大きいのは、20年に入って「極端に他人の存在を感じないゲームライフ」になってしまったことです。

 というのも、19年12月の「Red Bull Kumite Japan 2019」(Aichi Sky Expoで開催)や20年1月の「EVO Japan 2020」(幕張メッセで開催)といった大きな大会に出場したときは、「歌広場がプレーするならちょっと見てみたい」と後ろに人だかりができていたんです。つまり、人の期待を背負っていることをひしひしと感じながら闘うことが増えていた。

2020年1月には日本最大級の格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2020」に出場。自身初のプール(1日目の予選)突破を達成した(写真/志田 彩香)
2020年1月には日本最大級の格闘ゲームの祭典「EVO Japan 2020」に出場。自身初のプール(1日目の予選)突破を達成した(写真/志田 彩香)

 ところがその後は、新型コロナウイルスの影響で試合がほとんどオンラインになってしまい、人の顔が見えなくなりました。配信している動画にコメントを付けてくれる人はいますが、視聴者数から見るとごく一部。コメントなどで声を上げてくれないと存在が見えなくなってしまったわけです。

――手ごたえが感じにくい。

歌広場 言ってしまえばテレビ出演に近いんですが、テレビと違うのは視聴者数の実数が分かること。先に「有名人がわーきゃーと言っていることが受けることもある」と言いましたが(第1回参照)、それも視聴者数が具体的に数字で見えたからこそ分かったことです。

 そういうところに注目すると「ゲームが下手でも視聴者数が確実に上がる人がいる」ことが改めて実感できました。それって、やはりタレントさんとか有名人なんです。

 視聴者を増やせるということは、熱心なゲームファンになるかもしれない候補者を増やせることでもあります。ゲームやeスポーツをより普及させる力を持っているともいえる。以前は「ゲームを分かっていないタレントさんが番組に呼ばれるのはなぜだろう?」と思っていた部分がありますが、やっぱり意味はあるんです。

 そういう人をよく「客寄せパンダ」なんて揶揄(やゆ)したりもしますけど、ちゃんとゲームを理解したうえで喜んで客寄せパンダになってくれる人がいるなら、その人こそゲームの救世主じゃないかと思うようになりましたね。

――コメントを付けたりしない、声を上げない人を意識するようになったんですね。

歌広場 まさしくその通りです。同時に、回線の向こう側にいる声を上げない人たち、僕からは“見えない人”たちのことをどれだけ考えられているのか、そこに恐れを抱く必要もあると思っています。見えない人も含めて、見ている人を喜ばす努力をする。

 これが20年のテーマの1つですね。見えない人が大多数なんですから、それを怠ると視聴者数は減る一方ですよ。

コロナ禍で生まれた新しい文脈

――この状況下でのeスポーツ業界に変化はありますか?

歌広場 僕が知るのは格闘ゲームのプレーヤーに限定されるのですが、格闘ゲーム以外で遊ぶ人が増えました(笑)。

 プロ選手は、好きで始めたゲームが仕事になってしまうことで、特定のタイトルだけに集中せざるを得なくなるケースが多いです。ところが今年の前半はいろいろな大会が中止になった。それは目標や存在意義が奪われることでもあります。

 ではゲーム自体へのモチベーションが下がったかというとそうではなく、その間は主戦場である格闘ゲーム以外にもトライする人が結構たくさんいたんです。その結果、「格闘ゲーマーの間ではやっているゲームタイトル」という新たな文脈が生まれました。

 しかも、格闘ゲームでは神がかったプレーを見せる選手たちが、それ以外のゲームではめちゃくちゃポンコツだったりする。そこが面白いんですよね。

――ちなみに格闘ゲーマーの間ではどんなゲームがはやっていたんですか?

歌広場 『Jump King』とか『Fall Guys: Ultimate Knockout』といった比較的シンプルなゲームですね。あと、ジャンルはアナログになりますが、今は「格闘ゲーマー人狼」っていうのがはやっています。格闘ゲーマーだけで人狼を遊ぶ。それだけなんですが、これが人間性がよりあふれ出て面白い(笑)。

 今はオンラインで大会が開催されるようになり、選手たちは元の専門分野である格闘ゲームに戻り始めています。でも、他のゲームにトライする期間があったことで、以前は見えなかった人間性が見えるようになり、彼らの魅力が1つ上乗せされたような印象を受けます。

 新型コロナウイルスの影響というと、どうしてもマイナス面ばかり見てしまいますが、プラスな要素をなんとか挙げるとするならば、これはその1つじゃないでしょうか。

2019年12月に東京・秋葉原で開催されたインテル主催のeスポーツイベント「UNLEASH YOUR BRILLIANCEキャンペーン連動イベント in Tokyo」ではゆるキャラ界ナンバーワンプレーヤーと言われる高知県須崎市のマスコットキャラクターのしんじょう君と『ストリートファイターV』で対戦。惜敗した(写真/岡安 学)
2019年12月に東京・秋葉原で開催されたインテル主催のeスポーツイベント「UNLEASH YOUR BRILLIANCEキャンペーン連動イベント in Tokyo」ではゆるキャラ界ナンバーワンプレーヤーと言われる高知県須崎市のマスコットキャラクターのしんじょう君と『ストリートファイターV』で対戦。惜敗した(写真/岡安 学)

――それはeスポーツに限らないことかもしれませんね。NBAの八村塁選手がバスケットボールゲームのトーナメント戦に出場するなど、コロナ禍ではさまざまな分野のさまざまな人がゲームに挑戦する姿を見られました。

歌広場 こうした流れはいろいろなジャンルで起こっていると思います。フィギュアスケーターの宇野昌磨選手がプロゲーマーのkeptさんと『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(任天堂)で対戦したときもムチャクチャ盛り上がっていましたよね。

 この時期だからこそ話題になったともいえますが、これまでだったら「アスリートが何をやっているんだ?」と白い目で見られた可能性だってあったんじゃないでしょうか。

――「ゲームするなら本業を頑張れよ!」とか言われそうですね。

歌広場 実際、そういう目にさらされ続けていたのが2~3年前の僕ですね(笑)。当時に比べると今は「実はゲームが好き」と言いやすいタイミング、動きやすいタイミングでもあると思います。

 ヴィジュアル系のバンドマンなどの中には、ライブができないかわりにYouTubeでゲーム配信を始めようとする動きもあります。ファンとしては「音楽をやらないから」と彼らを拒絶するより、「こんなときでも頑張ってる」と応援したうえでライブで会える日を楽しみにするほうが健康的だし建設的だと思います。

eスポーツ選手のファンマーケティングを考える

――ゲームを取り入れることで、別の面を見せるということでしょうか。

歌広場 ただ、だからといってゲームしたり遊んだりしている姿だけを見せていればいいかというと、それは違うとも思います。

 先ほどの話にもつながりますが、見えない人のことをどれだけ考えられるかがやはり大事でしょう。「ゲーム配信もやるけど、僕の音楽が聴きたくて見ている人のために1曲だけ演奏します」といったことが言える人は案外少ないように感じます。

 これは逆も同じかもしれません。例えば、コロナ禍で“オンライン飲み”が定着しましたよね。これって極端なことをいえば、あこがれのあの人と飲める可能性があるということでもあります。

 eスポーツ選手のマーケティングとして考えるなら、配信のときに「今日はゲームの話はおいといて、みんなで同じ飲み物を画面の前に持ち寄って一緒に飲みましょう」といった発想が生まれてもおかしくないんです。

――画面の向こうの見えない人が何を喜ぶかですからね。

歌広場 ゴールデンボンバーのボーカル・鬼龍院翔は「コロナ禍にできることはないか」とずっと考え続けた結果、ニコニコチャンネルで「泥船放送室」という会員制の配信を始めました。その中に「リモート晩餐会」というコーナーがあるんですよ。事前にメニューを告知しておき、視聴者たちと一緒に同じものを食べるというものですが、ファンからしたら絶対にうれしいですよね。この辺りは、さすが鬼龍院翔です。

 ではなぜ彼がこういう他の人が思いつかないようなことをいち早く始められるかと言えば、常にファンのことを考えている、見えない人のことを想像しているからだと思います。こうした発想は、格闘ゲームをはじめとしたゲーム関係者からはなかなか生まれてこないですね。

2019年12月に行われた「ストリートファイターリーグ: Pro-JP operated by RAGE」グランドファイナルにはゲストとして出演(写真/岡安 学)
2019年12月に行われた「ストリートファイターリーグ: Pro-JP operated by RAGE」グランドファイナルにはゲストとして出演(写真/岡安 学)

eスポーツ選手のタレント性がより重要に

――プロeスポーツチームのファンミーティングなどではオンライン飲み会のような動きもあるようですが、格闘ゲーム関係者から出てこないのは個人競技だからでしょうか?

歌広場 そうかもしれませんね。でもそうした個人戦のメリットやデメリットについて考えている人はいて、カプコンは「ストリートファイターリーグ」という大会を開催しています(関連記事「『ストリートファイターV』のプロ選手による団体戦がついに開幕【TGS2020】」)。

 これは「カプコンカップ」や「EVO」のような多くの大会と違い、複数プレーヤーのチーム戦。チーム戦はドラマが生まれやすいですし、チーム単位でファンが付くこともあります。今まではウメハラ選手のファン、ときど選手のファンと、選手1人を応援していた人が、この大会ではチームに所属する全員を応援するようになるのは自然な流れといえます。

 ファンの目線がより多くの選手に向くようになった結果、選手のタレント性がより注目されるようになったのが興味深いところです。「勝率は高くないけれど、コイツがいると面白い」みたいに。

 これが進めば、eスポーツ選手もタレント化して、CMに出演したりすることが増えるでしょう。良いことか悪いことかといえば、これは間違いなく良いことだと思います。プロ野球選手やオリンピックのメダリストにだって初めてCMに出演したときがあったはず。でも今は珍しくなくなっているわけですから。

 プロゲーマーたちが断崖絶壁で手を取り合って「ファイト!」「一発!」なんてやりあったら楽しそうじゃないですか(笑)?

 こうして話しているとまるで居酒屋の雑談のようですが、「こうなったら面白くない?」って話していることって、過去の経験上、結構現実になっているんですよね。特にエンターテインメントの世界では、実際に起こっても不思議じゃありません。

――テレビからネットの時代になって、出る側と見る側の距離が近づいたように思います。その分、出演者のキャラクターに共感しやすくなったのかもしれません。

歌広場 リアルタイムの動画配信やZoomを使ったイベントなど、コロナ禍で生まれた新しい取り組みには特に、いつもと違った面を見せても許される感じがします。「あいつ飲んだら人が変わるよな」なんてところを見せても許される感じですね(笑)。

※この記事は「金爆・歌広場淳が語る アフターコロナのライブイベントの形」(10月1日公開予定)に続きます。

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