日経クロストレンドでは、2018年、19年に続き、20年もゴールデンボンバーの歌広場淳さんにインタビューを実施。彼の目から見たゲームおよびeスポーツの今と、本業の音楽を含むイベントへの新型コロナウイルス感染症の影響について、3回にわたって語ってもらった。
ヴィジュアル系エアーバンド「ゴールデンボンバー」のメンバーとして活躍する歌広場淳さん。彼のもう一つの側面が、対戦格闘ゲームのすご腕プレーヤーであることだ。
日経クロストレンドでは2018年から毎年、東京ゲームショウ(TGS)の時期に歌広場淳さんの短期連載を掲載。同イベントをリポートしてもらうとともに、あるときはプレーヤーとして、またあるときは関連イベントやメディアに出演するコメンテーターとして、ゲームやeスポーツに関わっている彼の目から見た、eスポーツの現状や課題、可能性を聞いてきた。
3年目となる2020年も同様の連載を開設。興隆期を経て社会に定着しつつあるeスポーツの今と、新型コロナウイルス感染症の影響をテーマに据えた。すると、話はeスポーツを取り巻く状況の変化から歌広場さんのゲームとの向き合い方、さらにはeスポーツに限らない、彼の本業であるライブイベントも含めた、エンターテインメントビジネス全般の新しい在り方にまで及んだ。こちらはその第1回目。
多彩なパンチを期待していた2020年
――2020年も3分の2が終わりましたが、19年から20年にかけてのeスポーツの状況をどう見ていますか。
歌広場淳さん(以下、歌広場) 18年が「eスポーツ元年」といわれるほど盛り上がった年なら、19年はそれを受けて広める年でしたね。eスポーツに関わる多くの方たちの努力もあって、実際、この2年で格段に広まったと素直に実感しています。
東京ゲームショウの特設ステージのようなeスポーツファン以外の人も集まる場で多くの観客を集めた大会が開かれたり、テレビ番組などでeスポーツを取り上げることが増えたりしました。その結果、それまで興味のなかった人が偶然eスポーツに触れたり、世界規模の大会が開催されるゲームもあることを知ったりと、eスポーツの裾野が広がるきっかけが多く生まれました。それに伴って、eスポーツを含め、ゲーム全般の奥深さを知ってもらうための闘い方というか、見せ方が変わってきていると感じています。
ボクサーに例えると、18年は「eスポーツってこういうものだ」というストレートでしか勝負していなかったのが、相手の意識の外側から攻めるフックのようなパンチも繰り出せるようになったというか。
だからこそ、20年はさらに多彩なパンチが飛び出す年になると思っていたんですけど……。
――新型コロナウイルス感染症の流行で、状況が激変してしまいました。
歌広場 大きく舵(かじ)を切らざるを得ない状況になりましたね。ただ、僕自身も苦しむことになったパンデミックの中、ゲーム業界は逆に活気づいているのが興味深いです。
今までゲームにさほど興味を抱いていなかった人も、外出自粛中はゲームで遊ぶのが珍しいことではなくなったようです。これには、eスポーツが注目され、ゲームがいろいろなメディアに登場するようになったことも影響していると思います。
日本を征服する勢いを感じた『あつ森』
――かつてゲームをやっていた人のカムバックもあれば、新たにゲームに興味を持った人も増えた印象です。
歌広場 ゲームが改めて見直された感がありましたし、「ゲームの進化に置いて行かれた」と思い込んでいた人たちがたくさんいたことも判明しましたね(笑)。
ゲームをするきっかけを探っていた人がこれを機に復活し、一気に1日に何時間も遊ぶヘビーゲーマーになった例は僕の周りにもいますから、結構多いんじゃないでしょうか?
――『あつまれ どうぶつの森』(あつ森)のように親しみやすいゲームがこの時期に出た影響も大きそうです。
歌広場 僕は対戦ゲームがメインなのでそこまで遊んだことがないのですが、すごい訴求力があるようですね。
あまり良い趣味ではないと自覚しつつも、関わり合いのないミュージシャンやモデル、芸能人の方々のSNSを見るのが僕は好きなんですが、そういう方たちはプロフィル欄でアマゾンの「ほしい物リスト」を公開しているケースが多いんですよ。そこには十中八九、Nintendo Switchと『あつまれ どうぶつの森』が並んでいて、それを見ると「なるほどなぁ」と感じます。
一見ゲームをやりそうもない人までが同じように挙げているのを見ると「とんでもないことが起きているな」と。こういった層の人たちにまで届いたからNintendo Switchは品切れになったんですよね(関連記事「日本ゲーム大賞、令和初の作品は『あつまれ どうぶつの森』【TGS2020】」) 。
配信者としてコンテンツ制作の難しさを知る
――19年のインタビューでは「動画配信を始める」と宣言されていました(関連記事:金爆・歌広場淳、eスポーツの魅力は「下手でもいい」こと)。
歌広場 昨年の僕の誕生日だった19年8月30日に、総合ゲームエンタメ集団「ReMG(レムジー)」への加入を発表しました。以来、ReMGのYouTubeチャンネルに出演しています。20年8月27日にはReMGのサポートの下、僕のYouTubeチャンネル「戦う広場 ようつべ本店」も開設しました。
ReMGは、プロゲーマーではなく、ゲームを好きなアーティストが集まることで、ゲームの魅力を違う角度から見せられるんじゃないか、今まで届かなかった層に魅力を伝えられるんじゃないかと考えて始めた活動です。
音楽とゲームって本来、かなり近いカルチャーだと思うんですよ。だから、いろんなアーティストと力を合わせることで、エンターテインメントとしてもっと面白くジャンル化できるのではないかと考えています。
――その活動もちょうど1年になりますね。
歌広場 1年間、配信や動画制作をやってみて改めて感じたのは、有名人と何かをやると今までとは違う人が見てくれるってことですね。
一緒に活動している人たちはゲームのスペシャリストというわけではないけれど、見せることのスペシャリストではあると思うんですよ。おかげで僕がTwitterで騒ぐだけでは笑われてしまっていたようなことでも、耳を傾けてくれる人が増えてきました。
例えば、「『ストリートファイターⅤ』におけるキャラクターごとの中パンチの性能差」みたいなことをつぶやいたとしますよね? すると、「何を言っているか分からない」とファンの方がコメントし、それを見た格闘ゲームファンが「こんな話も分からないのか」と反応する。今まではこんな構図がありました。
でも、他のミュージシャンと接する中で同じ発言をすると、ファンの方たちも「相変わらず何を言っているか分からないけど、(歌広場さんが)強いことは分かる」といった反応に変わることがあるんです。そうなると、Twitter上の構図も変わります。こうした流れは僕個人にとってはプラスになっていますね。
――動画の配信には慣れましたか?
歌広場 配信者として魅力的なコンテンツを作るには時間が必要だってことがつくづく身に染みました(笑)。題材に関係なく、企画があってタレントがいて機材があれば誰でも配信に参入できると思っている人が多いですが、そんなわけありませんよね。
ゴールデンボンバーの活動に生かす意味もあって、以前からゲームに限らずいろんな動画配信を見て来ました。今回、コンテンツを消費する側から提供する側になってみたら、有名な配信者たちが毎週、あるいは毎日コンスタントに動画をアップするのがどれだけすごいことなのか、改めて実感しています。
――コンスタントに作り続ける大変さですね。
歌広場 手がかかるということもありますが、それとは別に「見て面白い試合はなかなかない」ということが分かりました。
僕自身、プレーヤーとして毎試合、本気で挑んでいますし、どこかしらに衝撃を受ける部分も必ずあります。でも、それが必ずしも訴求力のあるコンテンツになるわけではない。いいか悪いかは別としても、有名人がわーきゃー言っていることが受けることもあるんだと改めて思いました。
ただ、その意味でもReMGはいいメンバーの中に加えていただけたと思います。有名人が出ていて、かつゲームの面白さをきちんと伝えられるバランスを探るというのも、ReMG結成当初からのコンセプトの1つですから。
動画配信で得た多角的な視点とは?
――それはこの1年でゲームの見せ方が分かってきたということでもありますか?
歌広場 そうですね。1年前は僕らReMGも、そして僕らをゲストに呼んでくださるような、ゲームを題材にテレビ番組を制作する人たちも分かっていなかったでしょうね。
番組制作にしても、「ここにゲームの解説をもう少し挟んだほうがいいんじゃないか」といったお話をさせていただいたり、僕らの考え方をきちんと伝えながら試行錯誤したりしてきた結果、テレビ番組の作り方もだいぶ変わってきたと思います。
ゲームをプレーしているところをいかに工夫して見せるかで、メーカーが想定するゲーム本来の楽しみ方とは別のもの、「他人のプレーを見るという遊び」が生まれた。これが今まで以上に広く知られるようになってきたと感じています。
――プレーヤーがゲームに感じる楽しさは、演出や解説でそれを言語化して伝える努力をしないと伝わらないということですね。
歌広場 そうですね。特に格闘ゲームでは説明がなければ分からないことがたくさんあります。例えば、1つの基本技を出すのに、実は2つのボタンを同時押ししていることがあります。
これはいくつかの状況に対応するための“保険”としての入力操作ですが、画面で見ても分かりません。こういったことは格闘ゲーマーには常識だったとしても、視聴者、特に僕や他のアーティストを通してゲームを知ったライトな人たちには伝わらない。そうなると“翻訳者”が必要だし、できればその翻訳者は適度にジョークを交えて伝えられたほうがいいんですよ。何を言っているか分からなくても、ニュアンスは伝わることがあるし、伝えようと努力していることは分かりますからね。
こうした感覚を、プレーヤー目線でも、クリエイター目線でも、さらには視聴者目線でも持てたんですね。いろんな視点でゲームに触れられるようになりました。
配信者としても活動した1年からたどり着いた答えをまとめるなら、「ゲームは知らずに見ても面白いものになり得る。でも、知ってから見れば100倍面白い」ということでしょうね。
――では今は100倍面白く見せるための方法を磨いているわけですね。
歌広場 そういうところはありますね。ReMGの活動も新しいフェーズに入りました。先に言ったように、ReMGサポートの下、僕個人のYouTubeチャンネルを開設する流れも出てきたわけですから。
今の時代に新しいことを始めようとすると、誰もが必ず「何をしたいの?」という質問にさらされますが、19年から20年の僕は「まず動いてみること」がしたかったんでしょうね。
その結果どうなるかは分からないけれど、頭で考えているだけより実際に動いている分、いろんな意味で健康的な状態だと思っています。
――“見せる”ことを突き詰めるのは、本業であるゴールデンボンバーとしての活動にも通ずるものがありそうですね。
歌広場 そうですね。ゴールデンボンバーってステージ上ではおバカだったり破天荒だったりして見えるパフォーマンスをしますが、そのためにメンバーが3時間以上、ときには5時間も打ち合わせをするんです。頭を悩ましているって言うと「この人たち頑張ってるんだ」と思われて、笑えるものも笑えなくなっちゃうから、そういう舞台裏の話は積極的にはしませんけどね。
こういう見せるための準備や工夫が、ゲームを題材にした番組などの制作には今までなかったんじゃないかと思うんです。言ってしまえば、「はやっているみたいだからeスポーツを取り上げようぜ!」でなんとかなっていた。それが19年までの状況です。
――そこから一歩進んで、見せる側の理解が全体的に深まってきた。
歌広場 見せる側に共有されている“大前提”ができたんだと思います。格闘ゲームでも、パンチやキックのボタンを操作して闘うゲームという“前提”が共有されているから、「パンチボタンを使わずに闘ったらどうなるのか」という話ができるわけですから。
何事も“型”があってこその“型破り”。ゲームやeスポーツを見せる番組にその型ができてきた。これは結構すごいことです。これからは見せ方にさまざまな工夫ができるようになるのではと期待しています。
※この記事は「金爆・歌広場淳「動画配信は『見えない人』をどう喜ばせるか」」(9月30日公開予定)に続きます。
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