
あるスポーツ競技の特定のシューズが日本中の老若男女の間で大きな話題となる。こんなことがかつてあっただろうか。厚底シューズとして注目を浴びた「ナイキ ヴェイパーフライ シリーズ」は、商品開発だけでなくマーケティングにおいても“常識”に対する挑戦だった。
参加した全210人の選手のうち177人、約85%が厚底シューズだった――。2020年の正月に開催された東京箱根間往復大学駅伝(以下、箱根駅伝)。白熱したレース内容もさることながら、大きな話題となったのが、「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」(以下、ネクスト%)が圧倒的なシェアを占めていたことだろう。
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17年までの箱根駅伝でのナイキのシェアは2割未満。アシックスとミズノの2強だったが、ナイキが同年7月に厚底シューズの初代モデル「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」を発売し、18年に約3割で一気にトップに。19年は約4割と2位以下に大きな差をつけた。そして、19年7月にネクスト%が発売され、20年には約85%という驚異的なシェアとなった。
このナイキ ヴェイパーフライ シリーズはソールの厚みとシューズ下部に埋めこまれたカーボンプレートによって、高い反発力とクッション性の両方を実現したことが特徴。ナイキが17年に実施した、マラソン世界記録(2時間1分39秒)保持者であるエリウド・キプチョゲ選手(ケニア)と2時間の壁を破ることを目指したプロジェクト「Breaking2」のために開発されたものだ(このときの記録は2時間25秒だったが、19年に再挑戦して1時間59分40秒を記録した)。
18年にこのシューズをはいたキプチョゲ選手がマラソン世界記録を更新。同年、東京マラソンでこのシューズをはいた設楽悠太選手が16年ぶりに日本記録を更新し、その約7カ月後の同年10月に大迫傑選手がやはりこのシューズで日本記録をさらに更新する様子がメディアで大々的に報道され、着用する選手が増えていった。
そして、東京五輪の出場権をかけて19年9月に開催された「マラソングランドチャンピオンシップ」。鮮やかなピンクという斬新なカラーリングをまとったネクスト%を名だたる選手が着用して出場し、ゴールした男子上位10人中8人が着用。東京五輪に向けてマラソンをはじめとするランニング競技への注目が高まる中、ナイキの一人勝ち状態と厚底シューズのインパクトがメディアを通じて一気に日本中に伝わった。
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