
「マーケター・オブ・ザ・イヤー2020」3人目は、「ゴキブリムエンダー」をヒットに結びつけた大日本除虫菊(金鳥・大阪市)マーケティング部課長の奥平亮太氏。あえてターゲットを絞り込むことで、潜在顧客の掘り起こしにつなげた。「マーケティングは顧客の問題解決」という原点を具現化したヒット商品と言える。
「にっくきあいつらを一網打尽にしたい。でも面倒なことはしたくない」。これが日本人大多数に共通する思いだろう。そんな願いをかなえる画期的な商品が、老若男女にヒットしている。大日本除虫菊が送り出した空間噴射式のゴキブリ駆除剤「ゴキブリムエンダー」だ。
2020年2月の発売から半年で約80万個(8月末時点・インテージSRI調べ)、販売額で約12億円を達成。出荷数は当初、計画に対して2倍以上で推移していたが、9月に入っても1.4倍と好調を維持している。
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07年に発売した、つるだけの簡単虫よけ剤「虫コナーズ」が大ヒットし、殺虫剤市場に新たなカテゴリーを確立した同社。ゴキブリムエンダーは、その虫コナーズに匹敵する大型商品と位置づけている。
革新的だからこそターゲットは手堅く
ゴキブリムエンダー最大の特長は、6畳当たりワンプッシュずつを4回室内に噴射するだけで、ゴキブリを一網打尽できる点だ。ゴキブリに直接噴射して退治するエアゾールと異なり、動いているゴキブリを見ることなく退治できる。
まとめて駆除するタイプとしては、殺虫成分を含む煙や霧を部屋中に行き渡らせる「くん煙剤」があり、02年ごろにはゴキブリ駆除剤市場で最大シェアを誇っていた。ところが、00年のピーク時に184億円だったくん煙剤市場は、09年に81億円、19年には41億円と右肩下がりで縮小。ここ数年は同社の「コンバット」のような毒餌剤がくん煙剤に代わり、市場をけん引してきた。
同社の研究所でムエンダーが着想されたのは、すでにくん煙剤離れが顕著だった07年ごろ。「当時、部屋の中の見えないゴキブリまで退治できるのはくん煙剤しかなかった。ただ、くん煙剤だと準備も片付けも面倒なうえ、使用中は外出しなければならず、不便。もっと簡単に使えて安全性の高いものはできないか、という開発者の思いから開発が始まった」と、同社マーケティング部課長の奥平亮太氏は振り返る。
そこで、蚊取り線香や殺虫スプレーで使われている安全性の高いピレスロイド系薬剤を使用。無煙処方でも、くん煙剤と同等の効果が得られるスプレータイプの画期的な駆除剤を、約10年がかりで完成させた。
今まで世になかった商品を、いかに市場に認知させられるか。開発者の強い思いを引き継いだ奥平氏ら担当チームがひねり出した答えは、マーケティングの王道ともいえる問題解決型の戦略だった。
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