
「マーケター・オブ・ザ・イヤー2020」の1人目は、「バーミキュラ フライパン」の開発を手掛けた愛知ドビー(名古屋市)の土方智晴副社長。低価格帯商品が圧倒的なシェアを占める市場で、なぜ1万5000円超えのフライパンが発売2カ月で5万個を売り上げるヒットとなったのか。
販売個数は想定の4倍、納品まで4カ月待ち
2010年に誰でも簡単に無水調理ができる鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」、16年に米のうま味を最大限に引き出すと話題になった炊飯器「ライスポット」をヒットさせた愛知ドビー。ブランド誕生から10年後に発売した「バーミキュラ フライパン」が、予想を超える大ヒットを記録している。販売個数は想定の約4倍の10万個超で、納品まで4カ月待ち(20年9月末時点)。これを改善すべく、月1万個まで増産した。21年1月から生産体制をさらに強化し、月1.5万個の生産を目指している。海外からの引き合いも増えており、さらなる増産も視野に入れているという。
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フライパン市場では「おいしさ」が重視されていなかった
フライパンの開発自体は10年ほど前から視野に入れていたが、大きなコンセプトを思いつかないでいた。そんな中、きっかけとなったのは、土方氏がフライパンで炒め物を作ったところ、おいしくなかったこと。「なぜフライパンで調理すると味のクオリティーが下がるのか。使ったフライパンが悪かったのではと考えて市場で『良い』とされているフライパンを調べた結果、こびりつきにくさにフォーカスしていて、料理をおいしく仕上げることはあまり重視されていないことに気づいた」(土方氏)。
同社のスローガンは「家庭料理の復権」。ただバーミキュラの鍋で無水調理すると20~30分はかかるので、忙しい人たちは平日の手料理には使いづらい。最も身近な調理器具であるフライパンでクオリティーの高い料理ができるようになれば、家庭料理の復権につながるのでは――。そう考えて開発に着手した。
フライパン市場で主流となっているフッ素樹脂加工のフライパンは軽くて使いやすい半面、コーティングが剥がれるとすぐに買い替えなければならない消耗品となっている。そこで同社では調理性能に加え、使いやすさと「生涯を共にできる耐久性」を目標にした。
圧倒的な調理性能を実現するために、まず「焼くとはどういうことか」を掘り下げて考えたという。「料理とは極言すれば、食材への熱の伝わり方をコントロールすること。実験を重ね、食材から出た余分な水分をどれだけ短時間で蒸発させることができるかが高い調理性能の肝だと気づいた」(土方氏)。プロのフライパン料理がおいしいのは、高い火力と鍋振りの技術で水分を瞬時に飛ばすからだ。家庭の火力と調理技術でそれを実現するために、水がなじむ特殊な性質を持つ新開発のホーローと、蓄熱性が非常に高い鋳鉄を組み合わせた。
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