NHK連続テレビ小説「あまちゃん」のブレイクから8年、今や数々の作品で主演を務める女優に急成長を遂げた有村架純。2021年は、主演映画『花束みたいな恋をした』がクチコミで評判が広がりヒット。出演した映画『るろうに剣心 最終章 The Final』『同 The Beginning』の2作品も、興行収入は合計70億円に迫った。その裏で本人が秘めている、30代に向けての思いとは。

※日経トレンディ2021年12月号の記事を再構成

日経トレンディが「今年の顔」に選んだ有村架純
日経トレンディが「今年の顔」に選んだ有村架純
女優 有村架純
1993年2月13日、兵庫県生まれ。2010年女優デビュー。13年NHK連続テレビ小説「あまちゃん」でブレイク。16年、映画『映画 ビリギャル』で第39回日本アカデミー賞優秀主演女優賞、新人俳優賞を受賞。映画『ストロボ・エッジ』『映画 ビリギャル』の演技により第58回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。同年、ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」で民放ドラマに初主演。主な出演作にドラマ「中学聖日記」「姉ちゃんの恋人」『映画 太陽の子』など。21年11月20日よりWOWOWオリジナルドラマ「前科者─新米保護司・阿部佳代─」に主演

──「今年の顔」に有村架純を選出させてもらいました。2021年の出演映画『花束みたいな恋をした』(以下、『花束』)、『るろうに剣心 最終章 The Final』『同 The Beginning』(以下、『るろう』)がヒットを記録しています。邦画(実写)の映画興行収入ランキングトップ3に、この2作品が入るという快挙を成し遂げました(21年10月現在)。また、4月期のドラマ「コントが始まる」(日本テレビ系)では、従来のイメージを破る役柄を好演。今年の活躍についてどう感じますか。

有村架純(以下、有村) 自分としては、やっていることはいつもどおりなので、実は選んでいただいたと伺って初めて「あ、そうなんだ」と思ってしまったぐらい、いまひとつ状況をのみ込めていなくて(笑)、人ごとみたいに思ってしまっているところがあります。『るろう』はコロナのため1年遅れての公開でしたし、『花束』も、もちろんスタッフ、キャストで一つ一つ大事に撮った作品ですが、取り組み方についてはいつもどおり変化がないんです。でも、インスタグラムなどに、日本だけでなく海外の方からも「素敵でした」とか「心に残りました」というコメントをたくさん頂いて、それはとてもうれしかったです。よかったなぁと感じるとともに、私もすごく感謝しています。

──『花束』は、若い男女のラブストーリーで、決して派手とは言えない作品です。この物語が多くの人の心に染みたことについてどう感じますか。

有村 ここで描かれている二人の気持ちは、誰もが抱いたことのある感情だと思います。それを、二人と共有しながら、青春を思い出して胸がチクッとしたり、懐かしい日々にいとおしさを感じたりする。それはもう、坂元裕二さんが書かれた脚本、土井裕泰監督が切り取られたカット、色々なことが絶妙に合致して生み出された世界ですよね。何か一つでも違ったら、全く違ったものになったと思います。コロナもあって、人とつながることの大切さや、愛の形が、より多くの方に真っすぐ響いてくれたのかもしれません。

──有村架純と菅田将暉の間では普段と変わらない撮影だったんですか。

有村 そうですね。菅田(将暉)くんも私も「ヒットさせようぜ!」みたいな気持ちでやっていたわけではなくて(笑)、ただ考えていたことは、登場人物の麦と絹として生きること、そして、1カ月半の撮影期間で、5年間の時間の流れにどう説得力を持たせるかということだけでした。なので、待ち時間の間もずっと実際には体感できない5年分を何とかそこで埋めようと、お互いに距離を詰めてコミュニケーションをとっていました。二人のシーンが多かったので、必然的にそれについてしゃべることも多かったんですけど、ほかには「絵しりとり」をしたり(笑)、私が自分のギターを現場に持ち込んでいたので、教えてもらったりしていましたね。

 あと、二人ともフィルムカメラを持っていたので、ずっと何かしらを写真に撮っていました。あとでメイキングにも使っていただけることになったので、撮っておいてよかったなって。

 5年間で一番変化があるのが菅田くん演じる麦です。就活など分かりやすい人生の転機があって、撮影していても目や雰囲気が変わっていくのが分かる。それには胸が痛くなりましたね。麦と絹って、互いの共通の趣味や好きなことについてだったらいくらでも盛り上がれるけど、それ以外の、人生や自分自身のことについては、あまり話しているシーンがないんです。ずっとそういうフワフワした、地に足が着いていない感じがあって、「これって合っているのかな? フワフワしているけど大丈夫かな?」と、菅田くんとも話をしながら撮影が進みました。でもしばらくして、これこそが麦と絹が体感していたことなんじゃないかと気付いたんです。出会ったときの高揚感のまま進んでいく。二人で「大丈夫かな、これ」と不安になりながら進んでいく過程は、麦と絹と一緒に答えを見つけていくような感じでした。

クチコミでヒット映画となった

■映画『花束みたいな恋をした』
終電を逃したことから偶然に出会った麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。好きな本や音楽、映画があまりにも共通していることに驚き、一瞬で恋に落ちる。15年の出会いから二人の「最高の5年間」を丁寧に描き、幅広い層の心をつかんだ
終電を逃したことから偶然に出会った麦(菅田将暉)と絹(有村架純)。好きな本や音楽、映画があまりにも共通していることに驚き、一瞬で恋に落ちる。15年の出会いから二人の「最高の5年間」を丁寧に描き、幅広い層の心をつかんだ
『花束みたいな恋をした』Blu-ray豪華版2枚組:7480円、DVD豪華版2枚組:6380円、DVD通常版4180円(いずれも税込み) 発売元:TBSスパークル 販売元:TCエンタテインメント (c)2021「花束みたいな恋をした」製作委員会
『花束みたいな恋をした』Blu-ray豪華版2枚組:7480円、DVD豪華版2枚組:6380円、DVD通常版4180円(いずれも税込み) 発売元:TBSスパークル 販売元:TCエンタテインメント (c)2021「花束みたいな恋をした」製作委員会

──『るろう』では、佐藤健演じる剣心の、後の生き方をつくった雪代巴という女性を演じられて、その完璧な美しさが絶賛されました。

有村 これはドラマ「中学聖日記」が終わって、次の作品だったんですけど、自分の中でまだ、巴という女性を演じるために必要な技術や持ち合わせがなかったんです。大友啓史監督に呼んでいただいたことは光栄でしたが、10年続いているシリーズの大作ですし、途中参加ですし、もう毎日、プレッシャーに押し潰されそうになりました。

 でもいざ現場に入ってみたら、周りは雪代巴という人物をずっと大切にされてきたスタッフさんばかりでしたし、その方たちが私の芝居を見て「巴がいる」って言ってくださったんです。そのときには「ああ、ここにいていいんだな」とすごく救われました。足を引っ張ったら嫌だなとか、色々な不安要素を抱えていたのですが、自分が台本を読んだときに持った巴の感情を大事にしよう、その一点だけで演じていこうと心が決まりました。

 これまでも「陽」よりは「陰」の、気持ちをあまり見せないような役どころが多かったのですが、自分の表現方法に迷いを感じていた時期でもありました。隠している気持ちをどこまで出していいのかいけないのか、1ミリでも変わると違ってくるのだろうという繊細なゾーンをずっと演じてきて、悩んだりしていました。そうやって悩み抜いて演じた結果、原作のファンの方にも受け入れていただけた。それが本当に幸せだなと思いますし、何より、大友監督しかり、(佐藤)健さんしかり、シリーズ第1作からやってこられた方々が「これで終われる」という気持ちになってくださった。そのことだけで私は十分満足しているんです。

考えていたのは、登場人物として生きること
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