日経トレンディが選ぶ2021年の「今年の顔」の一人は、山田裕貴。21年は映画『東京リベンジャーズ』で、不良組織の副総長、ドラケン役を好演。テレビドラマ「ここは今から倫理です。」(NHK)で主演を務める他、数多くの番組に出演してきた。その強い力を放つ瞳で、何を見据えているのか。
※日経トレンディ2021年12月号の記事を再構成
2019年のNHK連続テレビ小説「なつぞら」で全国区の顔となって以来、振り幅の広い役柄を演じ分け注目を集める山田裕貴。21年は、実写映画ナンバーワンの興行成績を収めた『東京リベンジャーズ』で、不良組織の副総長、ドラケン役を好演した。テレビドラマでは「ハコヅメ~たたかう!交番女子~」や「特捜9」などの人気作に出演、主演ドラマの「ここは今から倫理です。」(NHK)は、新しい時代の哲学を問うドラマとして注目を集めた。
――21年の活躍から、日経トレンディは「今年の顔」に山田裕貴を選出しました。
山田裕貴(以下、山田) えっ?「今年の顔」って僕なのか、とちょっとびっくりしています。だって、『東京リベンジャーズ』で共演した匠海っち(北村匠海)はすごかったし、(吉沢)亮は大河もやってるし。それに比べると、自分なんてまだまだです。でも、自分なりにその理由を考えてみると、もちろん『東リベ』で多くの人に存在を知っていただけたということはありますが、加えて今年はデビュー10周年にあたり、出演作品数も100作品をちょうど超えたところなんです。10年かけて、そのすべての作品に、一つ一つ同じ思いを注いでやってきた。その積み重ねが今年の顔に結びついたのかもしれません。
――『東京リベンジャーズ』は、累計発行部数4000万部突破の大人気漫画の実写映画。山田が演じるのは、金色の辮髪(べんぱつ)でこめかみに龍の入れ墨を施した、不良軍団「東京卍會」の副総長ドラケン。こわもてながら、懐の深い人物で、吉沢亮演じる総長のマイキーの右腕であり、北村匠海演じる主人公タケミチの運命を握るという役どころです。
山田 試写を見終わったときは、スクリーンに映ったみんなの出来があまりに良くて、それぞれキャラクターが立っていて圧倒されました。インパクトを残さないといけない役柄なのに、「ダメだ、こりゃ」とちょっと弱気になりました。公開後見ていただいた方から、「ドラケンがよかった」という感想がたくさん届いたときはうれしかったです。カリスマ性のある役で、しかも原作漫画の熱烈なファンがいっぱいいる。これはやっぱり怖いですよ。
だからドラケン役に決まったときに、髪型は当然自毛であの辮髪を再現しますか?やるでしょ!?とマネージャーさんに確認しました。カツラはありえないです。身長は足りないけど、底上げすればなんとかなるだろう、と。15センチメートルくらい底上げしたブーツで、あのアクションをこなしましたが、見ていただく人の思いに応えるというのはそういうことだと思うので、外見はとにかく漫画の再現性を高めることを考えました。
■映画『東京リベンジャーズ』
■「断髪式動画」を公開
一方、内面については、ほかのどんな役をやるときも同じですが、あらゆる角度から考え抜きます。例えば、僕の一番好きなドラケンのセリフ「下げる頭持ってなくてもいい。人を想う“心”は持て」。ぶち切れそうになっているマイキーを諭す言葉ですが、なぜ、高校生のドラケンがこんな言葉を吐けるのか。
原作漫画によると、ドラケンの実家は風俗のお店なんです。だったら、酸いも甘いも噛み分けた大人に囲まれて育っているから、たぶん年齢よりも早く大人になっただろうし、大人になることで自分を守ってきたはずだ。そういう観点から、落ち着いていて、闘うときだけは龍のように闘う、でも、本質的には「心」で動く人、というドラケン像をつくりました。例えば集会の場面では、一点を見つめず、全員の顔に眼差しを向けるようにする、なぜならドラケンなら、そうするはずだから。こんなふうに考えて考えて、セリフや行動の背景にあるものをつかんでいきました。
おかしかったのは、僕の母親の映画の感想が「ドラケンって、アンタみたいなことを言う人だね」だったこと。昔から親しい人は分かってくれていると思いますが、僕は心理学とか哲学、偉人の名言の類いが好きで、いつも考えていて、会話をするとそれがぽろぽろ出てくるんです。
漫画を読んだときから、ドラケンが一番好きで演じるならドラケンをやりたいと思ったのは、ハートの部分に自分と近しいものを感じていたからなのかもしれません。
実は主演をやらせていただいた「ここは今から倫理です。」は、「自分が普段考えていることをセリフとして口にできる」という意味で、特別な作品なんです。
――高校で倫理を教える物静かな教師・高柳と生徒たちの、新しい時代の成長のドラマですね。生徒たちは自傷行為、イジメ、ドラッグ、合意のないセックスなど、それぞれが問題を抱えています。高柳が投げかける倫理と哲学の言葉が、生徒たちの人生をサバイバルするための武器へと変わっていきます。
山田 高柳という教師は、倫理そのものみたいな人間で、叱ったり教え込んだりすることは倫理的でないからやらず、生徒が自分で選択してよりよく生きられるように諭していきます。哲学者の言葉をアドバイスとして生徒に投げかけるときも、「こうしなさい」ではなく、「あなたが選びなさい」「あなたが自分で闘いなさい」。そして、生徒たちは自分で考えて変わっていく。
僕は自分のやっていることが「お芝居をしている」とは考えず「その役を生きている」という感覚でいるんですが、高柳の生き方はまるで自分を見ているようだったなあと思いました。これを言うとすごくおこがましいですが、高柳のセリフと同じような内容のことを、自分でも前から口にすることがありました。
例えば「分からないかもしれない、でも、分かろうとすることはできる」とか、「一番大切なことは、考え続けることだ」とか。パスカルに怒られちゃうかもしれませんが、台本を読んで、ああ同じようなことを以前僕も口にしていたぞ、と共感したことが何度もありました。レベルはもちろん大きく異なるけれど、それぞれのレベルで考え抜けば、誰もが行きつけるものなのかもしれません。
僕は、先ほども話したように、哲学とか心理学、目に見えない力、宇宙みたいなものに強烈にひかれて、手当たり次第インプットしてものすごく考えた時期があります。その後も考えることはずっと続けていて、それがなんとなく21年の今につながっているのかな、とも思います。「人間あきらめちゃいけない」といつも思っているんですけど、それは高柳の倫理の言葉で言えば「思考し続けてください」。同じことは、「ワンピース」でも描かれているし、「エヴァンゲリオン」にも出てきます。いろんなインプットがあって、考えて、今の僕がいる。そう思うと、やっぱり俳優って「心」なんです。
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