エンターテインメント業界の最前線で変革を起こす旗手を、エンタメDX(デジタルトランスフォーメーション)を得意とするFIREBUG(東京・渋谷)代表取締役プロデューサーの佐藤詳悟氏が直撃。NiziUや優里、DISH//などの楽曲をヒットさせたソニー・ミュージックレーベルズ代表取締役の辻野学氏に、音楽業界でデジタル技術を活用してヒットを飛ばすための法則を聞いた。

ソニー・ミュージックレーベルズ代表取締役の辻野学氏(右)をFIREBUG代表取締役プロデューサーの佐藤詳悟氏(左)が直撃した
ソニー・ミュージックレーベルズ代表取締役の辻野学氏(左)をFIREBUG代表取締役プロデューサーの佐藤詳悟氏(右)が直撃した

佐藤詳悟(以下、佐藤) 国内ではストリーミング型が追い風となり音楽配信サービスの売り上げが7年連続でプラス成長を続けています。そんな中ソニーミュージックグループは、最近ですとNiziUや優里に代表されるように、SNSなどで若い世代に支持され存在感を増すアーティストをうまくプロデュースしているように感じます。デジタル技術を駆使して音楽市場を動かし、ヒットを量産する秘訣はどこにあるのでしょうか。

辻野学(以下、辻野) 2020年、ソニーミュージックグループの音楽部門は、おかげさまで確かにたくさんのヒット曲に恵まれました。持論を申し上げると、ヒットは“ツキ”です。ツキではありますが、まぐれではありません。エンターテインメント業界は、確信をもって何かを送り出せば必ずヒットさせられるほど、甘い業界ではありません。ツキを呼ぶためには、常に何かを考え、何かに対してひたむきに取り組む。この考え方は19年に私がソニー・ミュージックレーベルズ(以下、SML)の代表取締役に就任したときからずっとチームに伝え続けてきたことなんです。それがようやく花開き始めた1年だったと思っています。

ソニー・ミュージックレーベルズ代表取締役の辻野学氏
ソニー・ミュージックレーベルズ代表取締役の辻野学氏
対談ゲスト:辻野 学氏
ソニー・ミュージックレーベルズ 代表取締役
1996年、ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)入社。2014年にレーベルの一つであるソニー・ミュージックレコーズの代表に就任。19年、ソニーミュージックグループの8つのレーベルを統括するソニー・ミュージックレーベルズの代表取締役就任。20年からは、ソニーミュージックグループの「アーティスト&ミュージック」部門全般を執行役員として担当する

佐藤 今の時代に楽曲をヒットさせるために、社員はどう振る舞うべきだと考えていますか。

辻野 シンプルに言うと、「個の力を重んじる」ということです。その結果、社員のマインドが大きく変わりました。ユーザーのエンターテインメントに対する趣味趣向が多様化している現代において、作り手側が持つ個の力こそがゼロイチを生み出すきっかけになります。個のユニークな発想と、メジャーレーベルならではの圧倒的な総合力を掛け合わせる。その結果として、ヒットにつなげていくのです。

 実は大げさなことはしていなくて、スタッフ一人ひとりに考えることと普段から個人的に好きなことを大切にしてもらっています。レコード会社の役割は、その創成期から今までに、ある種ルーティン化してしまった部分が否めません。いいアーティストに出会い、いい曲やいい音楽を作り、マスメディアにブッキングし、ヒットへとつなげていく——。もはやこのようなルーティーンだけでは、デジタル時代を生きるユーザーにエンターテインメントを楽しんでいただくことは難しくなりました。だからこそ、他と差別化できるゼロイチを生む斬新なアイデアや面白いプロモーションの企画を常日ごろから考えることこそが大切じゃないかと。この思いを、ずっと自分のチームに伝えています。

佐藤 レコード会社の在り方に対する危機感は、いつごろから感じていましたか?

辻野 最近の若い人たちは、マスなものに対して「大人のにおいがする」「押し付けられているような気がする」と言うことが多くなりました。今は「面白い!」「すごい!」「誰かに教えたい!」といった、SNSを中心とした反応が楽曲をヒットさせるに当たって大きな影響力を持っています。その反応を引き起こすようなアプローチが、果たして今のレコード会社にできているだろうか。そんな空気を肌で感じ始めたのは、09年に当時ブログ閲覧でギネス登録された遊助(上地雄輔)を担当した頃で、ネット上のファンダム(熱心なファンによって形成される文化)の力を思い知りました。

「レコード会社としては音楽配信プラットフォームが目指すことのさらに上をいかなければならない」
「レコード会社としては音楽配信プラットフォームが目指すことのさらに上をいかなければならない」

 ストリーミング型サービスがこれだけ隆盛を誇り、そのチャートを消費者が注目する中で、レコード会社としては音楽配信プラットフォームが目指すことのさらに上をいかなければならない。コンテンツサプライヤーとして、今何ができるか。それを真剣に考えなければいけない時代になったということです。

佐藤 音楽業界のコンテンツ制作にはルール、つまりフォーマットがありますよね。ここ数年は、物理的なCDからストリーミング型配信へとフォーマットが大きく変わりました。その変化を十分に理解せずにコンテンツを作るとズレた感じになってしまうというわけですね。

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