業務スーパーを運営する神戸物産は、フランチャイズチェーン(FC)展開を始めて約20年で売上高3000億円以上を稼ぐまでになった。同店の前身である食品スーパーを1981年にオープンさせ、2001年には神戸物産を創業して16年まで経営に専念、今は日本の食料・エネルギー問題解決を大義名分とする会社を率いる沼田昭二氏に話を聞いた。

※日経トレンディ2021年10月号の記事を再構成

業務スーパー 創業者 沼田昭二氏
町おこしエネルギー(兵庫県加古川市)会長兼社長。1954年兵庫県生まれ、兵庫県立高砂高校卒業後、三越に入社。81年食品スーパー創業。業務スーパーをFC方式で全国展開し、外食事業や国内に20を超える食品工場も運営。2012年に長男の博和氏に社長職を引き継ぎ、以降は最高経営責任者(CEO)として博和氏とダブルトップで経営に携わる。16年、日本が問題として抱える「食料自給率とエネルギー自給率の低さ」を解決することを大義名分とした町おこしエネルギーを設立

——業務スーパーでは、例えば2キログラムとボリュームのある鶏肉が1000円を切る価格で売られています。こうした安さは人気の理由の一つですが、やはりコスト削減の徹底によるものでしょうか。

沼田昭二(以下、沼田) コスト削減といえば、私が神戸物産の社長を務めていた頃、工場などに「利益の出し方」という紙を貼り、その一つとして「ロス・無駄・非効率を無くす事」と書き出していましたね。現在の(沼田)博和社長も貼ってくれています。

 ただ、コスト意識を社内に浸透させた結果、その削減ができるようになったと言いたいわけではありません。これは従業員に「ロス、無駄、非効率について考えてください」とただお願いするためです。電気代がどうとか、そういったコスト管理が私は苦手。人件費に関わる従業員の面接をしたこともなければ、給料をいくらにするといったことに関与したこともありません。

——社内で散見される無駄なコストが気になりませんか。

沼田 従業員が経営者に望むことは何だと思いますか。「世のため、人のため」というのが事業の大前提。そのうえで会社を大きくして昇格するポジションを用意することだと私は考えています。

 そのために必要なのは母数、つまり売り上げの拡大です。電気代や水道代を気にしなくても、同じ従業員数で売り上げを2倍にすれば、コストは単純計算で半分にできます。

——拡大させることで、結果的にコスト率を下げる?

沼田 スケールメリットという考え方があります。でも、それだけを追求したあるスーパーはうまくいきませんでした。土地を買ったから、バブルが弾けて担保物件は潰れてしまった。経営で難しいのは、売り上げを大きくすることと、世の中の影響を受けないことを両立させる点にある。

 神戸物産はFCの本部しかやりません。業績が良いときは利益を加盟店と分け合うことになりますが、逆に業績が悪い場合もダメージは抑えられます。店舗数が増えても、ベースのコストは基本的にほとんど変わりません。

——売り上げを伸ばすという考え方自体は、大抵の経営者が持つ目標です。

沼田 私が経営者として独立したのは20歳で、10万円を借金してのスタートでした。その後、23歳で100万円ほどため、26歳の頃には1000万円、30歳で1億円の大台に乗せました。

 その間には行商で苦労した時期もありましたね。最初に始めた商売は寝具販売。地元の兵庫から上京し、野宿しながら日本橋の問屋を何軒も回りましたが、相手にしてくれるところはありませんでした。そこで訪ねたのが、繊維産業が盛んだった愛知県の蒲郡。取引先としての信用は私になかったものの、メーカーに頼み込んで布団カバー4ケースを兵庫に送ってもらい、中古の軽トラックに積んで団地で売り歩く。そこから始まりました。

 布団カバーを売り切ると、得たお金を蒲郡に送って商品を再び届けてもらう。そんな調子で少しずつ信用してもらえるようになったと思ったら、まさかのオイルショックです。日本を襲った景気後退の影響を受け、次に食品の行商に取り組みました。市場に行って新鮮な野菜を仕入れては、あちこちの団地で売る日が続きました。この過程で、どんなに一生懸命努力して質素倹約にしても、分母=売り上げを増やさないと話にならないと悟ったのです。

 会社でも家庭でもベースのコストは必ず発生します。それを削減しようとしたところで、どうでしょう。例えば新幹線をグリーン車から普通車に変えたところで、どれだけの効果を期待できますか。

——売り上げを伸ばしてコスト率を下げる場合、実現方法は?

沼田 1番は商品力です。例えば、神戸物産の完全子会社が2014年から販売する水ようかんやコーヒーゼリーなどのオリジナルデザートは1リットルの牛乳パックに入っていて、独自性がある。加えて約3カ月も日持ちします。製造技術や機械自体がオンリーワンだから実現できました。これと同じものを大手乳業メーカーは作れません。充てんして冷やして固めるだけでは、賞味期限が持たない。

 あるいは別の完全子会社が作る卵焼きは、1カ月も日持ちする。加熱殺菌せず、高品質のままでです。こうした技術を、競合他社はまねできません。

 1回作ったら、永久に利用できたり、使ってもらえたりすることしかしない。経営者としての自分の仕事をそう決めています。

 作ることは難しく、費用も時間もかかる。でも、この仕組み化が大事です。すべての経営者がこうあるべきだと言いたいわけではありません。しかしこれが経営者の私の仕事と考えていて、得意でもある。一方、電気代は苦手だから、従業員に考えてほしい(笑)。

コストダウンを狙った冷凍ケースの秘密とは

——そうした仕組み化の中で、特にコストダウンを強く狙ったものはありますか。

沼田 業務スーパーの店内にある冷凍ケースは、届いた商品が丸ごと入るようにするため、当時の一般的な冷凍ケースの1.5倍以上深くしています。設計から神戸物産で行い、ファンの角度を変えるなど、様々な独自の凍結防止技術を盛り込みました。

業務スーパー独自の冷凍ケース。店に届いた商品が丸ごと入り、品出しの効率化を図れる
業務スーパー独自の冷凍ケース。店に届いた商品が丸ごと入り、品出しの効率化を図れる

 期待できるコスト削減効果は品出しの効率化、すなわち人件費の削減です。商品が店に届くと一部を売り場に並べ、残りはバックヤードに保管するのが一般的。しかし、並べて1回、残りを保管して2回、売り切れたら再び売り場に補充して3回と従業員の負担が大きい。オリジナルの冷凍ケースなら届いた商品が丸ごと入るので、1回の作業で済みます。

 冷凍ケースそのもののコストも、汎用品を買うよりも圧倒的に抑えられています。汎用品は様々な要望に応えるようになっていて、神戸物産オリジナルの冷凍ケースはそうした仕様・機能を省いている。

 また、冷凍ケースを造る工場の1日の生産ロット数を聞いて、その分を発注するようにしています。普通は発注側が希望数を伝えますが、神戸物産はいわば受注側の希望を受け入れるのでそれよりも安くできるのです。

——初期投資を安く抑えたうえ、人件費削減が永続的に続く。隙がないですね。

沼田 売り上げ拡大に加えて、トータルコストを抑える仕組みの積み重ねもあり、業務スーパーの平均販管費比率(販売費および一般管理費が売上高に占める割合)は14%を実現させています。国内で20%を下回る食品スーパーはほぼゼロで、22〜25%が一般的。ローコスト経営で知られる米小売り最大手のウォルマートでも16%程度です。

 私が幸運だったのは、このウォルマートに30代で出合ったこと。当時は業務スーパーを始める前で、別の食品スーパーを経営していました。そして日本の食品加工会社と組んで、中国に建てた工場で製品を作り、商社を通して売るビジネスもやっていた。ウォルマートもその商社と取引をしていて、それがご縁で彼らが私たちの工場を見学しに来たのです。

米小売最大手ウォルマートとの出合いが、超効率経営を目指す転機になった
米小売最大手ウォルマートとの出合いが、超効率経営を目指す転機になった

 お互いのビジネスを紹介し合って驚いたのは、ウォルマートの極めて効率的な経営でした。一例を挙げましょう。彼らは店で販売する商品の仕入れを3カ月先、半年先までの長期スパンで見通して計画していました。そのうえで、納入するメーカーに対して値下げをきっちり要求する。これが彼らの強さの源泉です。

 しかし日本のスーパーはこのような仕入れ方をしません。「1カ月後に納品してほしい」と当たり前のように頼み、メーカーはその要望にどうにかして応じます。日本のこのようなやり取りを、もしもウォルマートが聞いたら信じられないと答えるでしょう。「短期スパンで生産計画を立てているということは、そのまま計画性が低いということを表す。メーカーであれば、長期で計画すると製造能力に余裕が出てくる点に気付くはず。それを上手に生かせば、もっと安く作れる」と考えるからです。

 30代でウォルマートの考え方に触れ、彼らが様々なシーンで効率性を追求していることを知りました。そのすごさに衝撃を受けた私は、「経営を根本的に見直さないといけない。今のやり方では、構造的に限界がある」と反省しました。

 そこから私は、ウォルマートの販管費比率16%を必ず下回ると心に決めたのです。早速、着手したのは店舗運営にロスや非効率な部分はないかと改めてゼロから考え、無駄を徹底的に省くこと。例えば、売り場のレイアウトはお客様からは見えない場所も含め、最も効率の良い配置を見つけました。図面を何度も引くという、試行錯誤しながらの地道な作業を続け、2年近くかけてようやく発見できた。また、オリジナル商品は、パッケージや梱包する段ボール箱のサイズを什器の規格をベースに決めて、隙間なく陳列できるようにしました。こうしたことを積み重ねたからこそ、販管費比率がウォルマートを下回る14%台をキープできるようになったのです。

——売り上げ拡大とコスト削減を同時に追求していく。半ば、アクセルとブレーキを同時に踏むようなもので難しいですね。

沼田 コスト削減にばかり夢中になってはいけません。会社を大きくするには、積極的な投資の継続が絶対に必要。しかも現在の延長線にあるものではなく、今後もっと大きくなるだろうことに常に投資するのです。

 私はこれまで、「税引き前利益の半分を、次のビジネススタイルを生み出すために使う」という考えを絶えず実践してきました。相応の結果を出すには、ある程度の金額を注ぎ込む必要があります。かといって真面目な経営者にありがちですが、やり過ぎて利益のすべてを投資に回すと、失敗したときのダメージが大きい。私のやり方ならば、仮に失敗しても大きな支障はありません。

 そもそもの話をすると、私は「失敗は必ず起きる、当たり前のもの」と考えています。あらゆるものが高い完成度で仕上がっている現代において、新しい挑戦は正直に言ってほとんど成功しません。実際、私のこれまでを振り返ると10のうち9は失敗でした。けれども気にしたことはありません。誤解を招くかもしれませんが、失敗するためにやっているとも言えます。

 大事なのは次に生きる有意義な失敗をするということです。失敗から学びを得られれば、「投資に見合った回収ができた」ことと同義です。10のうち成功した1つが利益を出し続けていけばトータルはプラスになりますから、9の失敗やロスは気にしなくていいのです。

■M&A(合併・買収)を実施し、国内製造商品を相次いで投入
■M&A(合併・買収)を実施し、国内製造商品を相次いで投入
■人気の「天然酵母食パン」を製造する麦パン工房
■人気の「天然酵母食パン」を製造する麦パン工房
沼田昭二氏が神戸物産時代に買収した食品メーカーから生まれたヒット商品は多い

人気店を潰して得た教訓

——なかなか理解しにくいのですが、象徴的な経験は?

沼田 飲食店の経営に失敗した経験をお話ししましょう。業務スーパーの強さの一つである高い利益率に寄与している要因に、低い出店コストが挙げられますが、それは当時の失敗経験が基になっています。

 業務スーパーを展開する前、いろいろな形態の飲食店を経営していた時期がありました。その中の1店である「真」というバイキングレストランは、オープン当初は繁盛したものの、最終的に潰してしまいました。どんな人気店でも、よほどのことがない限り、売り上げは次第に伸び悩みます。「真」も例外ではなく、特に私を苦しめたのが1億5000万円程度かけた出店コストでした。

 オープン当初の好調な売り上げをずっと維持できる可能性が高くはないことを踏まえれば、ざっくりした数字になりますが、どんな場合でも出店コストは3年から5年で回収すべきでしょう。1億5000万円もの大金をかければ店舗の見栄えが良くなるのは確かですが、今思えば明らかにかけ過ぎでした。回収期間が延びるから、多店舗展開を考えている場合、次の店舗開発になかなか着手できない問題も出てきます。

 この反省を生かして業務スーパーの出店コストは6000万円から7000万円に収めました。見栄えが良いとは言えないかもしれませんが、早い店なら1年、ほとんどの店が2、3年で回収できるようになりました。

——21年には出店数が900を超えるなど、業務スーパーの勢いには目を見張るものがあります。創業者として、今後をどう見ていますか。

沼田 業務スーパーのFC契約は相手を法人に絞り、様々な小売業の加盟店と組む仕組みにしました。単体でも利益を出せるビジネスモデルとして業務スーパーをつくりましたが、ドラッグストアや酒販店、ホームセンターなどと組んで、市場での競争力がさらに高まる店舗にするためです。そして神戸物産は本部運営に徹してきました。

 こうした加盟店と組んで実現する幅広い品ぞろえは、人口減少時代でも今まで取れなかったニーズをカバーできる。より小さな商圏への出店も可能です。商品力強化の手を緩めない限り、成長は続けられると思っています。

■神戸市にある「業務スーパー フレッシュ石守 伊川谷店」
■神戸市にある「業務スーパー フレッシュ石守 伊川谷店」
21年8月末時点で3店しかない直営店の1つ。前身は沼田昭二氏が1986年にオープンした食品スーパー「フレッシュ石守」の1店舗だった
注)本記事は、日経トップリーダーの20年9月号と21年3〜5月号に掲載された記事を再編集したもの

(写真/松田 弘、PIXTA)

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