エンターテインメント業界にも押し寄せるDXの波。エンタメの最前線で今まさに変革を起こそうとしている旗手は、何を考えているのか。エンタメDXを得意分野の一つとするFIREBUG(東京・渋谷)代表取締役プロデューサーの佐藤詳悟が、日本テレビ放送網で視聴者と番組とをつなぐデジタル推進活動を行うICT戦略本部部長の高谷和男氏を直撃。テレビ局が推し進めるDXの現状を、洗いざらい語ってもらった。

日本テレビ放送網ICT戦略本部部長の高谷和男氏(左)を、FIREBUG代表取締役プロデューサーの佐藤詳悟氏(右)が取材した
日本テレビ放送網ICT戦略本部部長の高谷和男氏(左)を、FIREBUG代表取締役プロデューサーの佐藤詳悟氏(右)が取材した

佐藤 詳悟(以下、佐藤) デジタル技術を駆使して新たなイノベーションを起こすDX(デジタルトランスフォーメーション)とどう向き合うかについては、テレビ業界にとっても重要な課題になっています。ネット関連のデジタルサービスを活用する点に関して、日本テレビは在京キー局の中でも動きが早く、攻めている印象があります。

 中でも2021年4月のクールは、ドラマ『コントが始まる』を筆頭に20〜30代の若い人たちが見たいと思う番組が一気に増え、しかもネットを使った話題づくりを積極的に仕掛けたように思います。

高谷 和男(以下、高谷) 『コントが始まる』は、若い世代から支持を得た19年1月期の『3年A組—今から皆さんは、人質です—』のスタッフが手がけたドラマであり、そこにDXの視点も加味した新たなデジタル施策にトライしました。今回はSNS上で出演者やスタッフと視聴者とがつながる場を設け、それをネタ元にして配信コンテンツを制作するアプローチでした。ドラマと不思議にリンクする独特な場が醸成され、ファンがより深くドラマに没頭するコンテンツとして大きな反響がありました。

 実は日本テレビでは、04年から「どの層に見られているのか」を重視するコアターゲット戦略を打ち出して社内指標としてきた歴史があります。また、他局に先駆けて、「どれくらいの世帯が番組を見ているか」から「どれくらい多くの人が番組を見たか」を重視する個人視聴率戦略に振り切りました。加えて現在は、SNSやYouTubeなどを通じたエンゲージメントや広告スポンサーの評価など、他の指標もしっかりと分析しながらやっています。

 その意味で、若い人にドラマを見てもらおうという明確な意図を持って挑戦的なテーマで制作した『3年A組―今から皆さんは、人質です―』は、長年にわたってコアターゲットに向けた番組制作を試行錯誤しながらやってきた一連の活動の結実と言えます。その成功体験を踏まえて制作され、さらにDX的なアプローチにもチャレンジしたドラマが『コントが始まる』だったのです。

対談ゲスト:高谷 和男氏
日本テレビ放送網 ICT戦略本部部長
1994年、日本テレビ放送網入社。ディレクター、プロデューサーとして音楽やバラエティーを中心に数多くの番組制作に携わる。2015年にはHJホールディングスに出向しHulu編成部長に就任。19年に日本テレビ編成局編成部担当部長として放送の現場に復帰。20年10月からICT戦略本部部長としてデジタル推進活動を統括する

佐藤 若者のテレビ離れが叫ばれて久しいですが、コンテンツそのものが若者に向いていなかったから離れているだけで、若者に向けて本気でつくったらファンは確実に増えていくということですね。

高谷 生活環境の変化やテクノロジーの進化によって、リビングルームでリアルタイムで見るという意味でのテレビ離れが起きているのは事実です。本当の危機は、テレビ離れではなく、テレビコンテンツ離れにあります。ただ様々なデジタルプラットフォームにおいて、YouTube番組のようにコンテンツ自体が支持されている現状を踏まえると、まだまだ勝機はあると思っています。

ドラマ『コントが始まる』 (c)NTV(Huluで全話配信中)
ドラマ『コントが始まる』 (c)NTV(Huluで全話配信中)

佐藤 面白いコンテンツであれば見てもらえる。その根本は変わらない、と。

高谷 その通りです。結果に一喜一憂もしますが、今の人が見て面白いと思うかどうかという根本に立ち返り、デジタルも視野に入れたコンテンツを設計する。それが今のテレビ業界にとっての正解なんだと思います。

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