今や日本を代表する格闘家の一人であり、圧倒的な人気を誇る朝倉海。2017年に格闘技イベント「RIZIN」のリングにデビューするや、瞬く間にRIZINを代表するトップファイターに名を連ねた。21年6月13日に開催される「RIZIN.28」(東京ドーム)でスタートするバンタム級グランプリの中心人物となる朝倉海に、RIZIN人気を後押しするYouTube活動の裏側や試合への意気込みを聞いた。
※日経トレンディ2021年6月号の記事を基に再構成
小学生の頃に2年ほど相撲と空手を習ったことがあるのみで、競技スポーツの経験は無いに等しかった朝倉海。兄・未来の影響で高校時代に格闘技を始め、独自のスタイルを磨いてきた。各地の不良を中心としたアマチュア、セミプロの選手が集う格闘技団体・THE OUTSIDER時代は、60キログラム級では無敗を誇るなど早くから実力が注目され、2017年にRIZINデビューを果たす。以降、果敢なファイトで有数の人気選手となった。
――RIZINは20年大みそかの大会が、テレビの平均視聴率で前年を大きく上回りました。要因はどこにありますか。
僕と堀口恭司選手のベルトを懸けた再戦も話題になったと思いますが、YouTubeの影響も大きいと思いますね。僕も自分のチャンネルの動画を1日か2日に1回アップしていますが、街を歩いていても小学生から70代ぐらいの方まで、幅広い年齢層の方から声を掛けられるようになりました。兄(朝倉未来)も含めて、格闘家が自分で情報を発信してファンを獲得していく時代にシフトしてきたと思います。
――19年6月にYouTubeチャンネルを開設しています。始めようと思ったきっかけを教えてください。
格闘技をもっと広めたいと思ったことが一番ですね。格闘技に携わる人たちはみんなすごく一生懸命やっているのに、多くの人に見てもらえていないというのを実感していたので、広めるためにはYouTubeはいいのかなと。
――開設から2年を待たずに登録者数は90万人を突破しました。再生数は意識していますか?
意識しています。登録者数が一気に伸びたのは、新宿でたばこのポイ捨てを注意する動画や、ぼったくりバーに潜入した動画など、「格闘家だからこそ危ないところに踏み込める」というキャラクターを生かした内容ですね。さすがに、危険もあるのでもうやらないつもりですが(笑)。
コメント欄なども見て、こういう動画は届かないんだなとか分析して、視聴者がどういうことを求めているのかを想像しながら自分たちで企画を考えています。特にYouTubeの急上昇ランキングは注視していて、人気の動画は必ず分析するようにしています。チャンネル登録者数は21年中に150万人ぐらいにしたいですね。
――YouTubeを通じて他の格闘家とコラボしたり、スパーリングしたりしていますね。
色々な分野の方とのコラボは、面白いと思ってもらえるコンテンツとしてやっている部分もありますが、YouTubeを格闘技の勉強の場にもしています。僕自身が学びたい人に会いに行き、技術を取り入れたりしています。競技が違う場合はそのまま使えない技もありますが、僕の中で使えるものを総合格闘技の中にアジャストしていくようにしています。
例えば、カーフキック(膝下の筋肉を蹴り上げるローキックの一種)や蹴りの威力を上げる方法を空手家の方に習ったり、実戦的な武術・ジークンドーの技も試合で使えそうだなと思いました。実は僕の格闘技スタイルは色々なものをミックスしていて、唯一無二の自分のスタイルを確立しているんです。いろんな分野のいいところを自分の中に落とし込んでいくようにしています。
――動きやすさと上品なデザインを両立したアパレルブランド「EN MER(エンメール)」も立ち上げるなど、格闘技だけにはとどまらない様々な分野で活躍されています。
実はアパレルブランドも、格闘技を広めるための一環です。僕自身もともと服は好きなのですが、服を見て「これいいな」と思ってもらって、そこから格闘技を知ってもらえたらいい。格闘技に入ってもらうために色々な入り口を増やしたいんです。今はまだアイテム数は少ないですが、シーズンごとに展開し、将来的には店に卸して店舗で買えるようにしたいですね。
素材やデザインといったファッション性を追求して、あえて高価格帯のブランドにしています。いわゆるファングッズとしてのTシャツやパーカーという考え方で作る方法もありましたが、安くて手に取りやすい価格設定の服を作って、僕の名前で既存のファンの人だけに売れるのでは意味がないかなと思っています。実際にファッション好きな人にも響いて、完売商品も出ました。今のところ狙い通りに進んでいると思います。
KO決着必至の熱い試合展開が魅力
――21年のRIZINの注目ポイントを教えてください。
僕自身も参戦するRIZINのバンタム級グランプリがスタートして、1回戦が東京ドームと丸善インテックアリーナ大阪で行われます。日本のバンタム級トップ戦線にいる強者が16人集まっているので、見応えのあるトーナメントになると思います。
実は、トーナメントに出場すること自体には葛藤がありました。海外に挑戦したいという思いが強かったんです。ただ、堀口選手に負けた状態で海外に挑戦するのも違うと思いましたし、こういうコロナ禍で、一番盛り上がっている階級のグランプリに出場して勝ち進んでいくことが、日本の格闘技を盛り上げることにつながるのではないかと思って決意しました。絶対に優勝しなければいけない、という強い思いはあります。圧倒的な形で優勝して、僕個人の闘いであるとは思いますが、ファンに期待してもらって、日本の格闘技界代表として海外に挑戦したいですから。
――試合でファンに見せたいポイントはありますか。
20年の大みそかの敗戦で、足りないものを補っていくにはどうしたらいいか、練習環境から考えさせられました。ジム(所属するトライフォース赤坂)にも環境をすごく整えてもらえましたし、例えばブレイブジムの宮田和幸さんがレスリングを教えに来てくれるなど、出稽古の形で専門分野の方がそれぞれの技術を教えてくれるといった、周囲からのサポートも得られています。それらを一つ一つ取り入れてすべての面で成長しているので、トーナメントの色々な場面で見せられると思います。
――1戦目の相手は渡部修斗選手に決まりました。試合の見どころを教えてください。
僕は打撃が得意で、対戦相手の渡部選手は寝技が得意という対照的なファイトスタイル。どちらが自分の得意な形に持っていけるかどうかという分かりやすい試合になると思います。僕は打撃でKOするところを見せたいですし、寝技も強化しているのでチャンスがあれば1本も狙っていきます。いずれにしても判定決着ではない、スピード感のある試合がしたいですね。
色々な格闘技の中でも総合格闘技はグローブが一番薄くて、一発で決着がつくケースが多いし、寝技の展開になれば一瞬で一本勝ちが決まることもあります。他には無い緊張感があって、一瞬たりとも目を離せない面白さが魅力です。技術的なことが分からない人でも十分に楽しめると思います。特に僕の試合は打撃でのKO決着が多く、熱い試合が多いのでぜひ見てください。
カーフキックに注目して試合を見るのも面白い
――20年からカーフキックが話題です。これによって、試合の展開が変わることもあるのでしょうか。
今、格闘家の間でも空前のブームとなっているのがカーフキックです(笑)。膝から下の筋肉を蹴るローキックの一種で、これが決まると2、3発で動けなくなってしまいます。世界中の選手が試合で使うようになっていて、どう使いこなし、どう対応するのかを全員が考えている状況だと思います。
僕自身もカーフキックの存在は知っていましたが、そこまで強く警戒はしていなかったので、大みそかの試合でこれほど危険な技なのかと再認識させられました。もちろん、対策は万全です。毎日の練習でやっているので、逆に蹴るのが得意になりましたね(笑)。その結果、試合の組み立て方も変わってくるので、玄人の人は見どころの一つとして注目するのも面白いと思います。
――朝倉兄弟と言えば、格闘技ファンの間では相手選手の分析力に定評があります。
昔は結構大振りだったり、むきになっている部分もあったりしましたが、最近は試合構成をしっかり練ってから挑みますし、冷静に戦えるようになりました。対戦相手の分析は誰もがすると思いますが、分析できてもそれを実行できるかはまた別のセンス。僕は頭の中で描いている作戦を実行するのが得意な方ですし、バランス感覚と反応スピードが強みなので、得意の打撃を使って強みを生かしたい。今回も色々な作戦を用意しています。
――兄・未来さんからアドバイスを受けることもありますか。
一緒に練習しているので、「こうやった方がいいよ」とか「こういう技よくない?」といったアドバイスをくれることもありますね。YouTubeでも時々コラボをしていますが、練習中などに話していて、「今日できる?」みたいな感じでふっと始められるので。
――将来の目標は。
海外に挑戦して、北米のBELLATORや世界最高峰と言われているUFCに参戦したいです。この競技をやっているからには、そこを目指さないと。まずは21年に日本でチャンピオンになって、22年はRIZIN、そして日本の格闘技界を代表して、外に出て世界を獲っていきたいです。
(写真/平岩 享、(c)RIZIN FF)

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