2019年の初開催時から約10万人を動員した新たな音楽フェスティバルが「日比谷音楽祭」だ。その実行委員長を務めるのは、数々の有名アーティストをブレークに導いてきた音楽プロデューサーの亀田誠治氏。20年はコロナ禍で中止となったが、21年は5月29、30日にオンライン生配信の形で開催される。なぜトップアーティストが集結するフェスを無料で開催するのか、オンラインライブの可能性をどう見ているのか。率直な思いを聞いた。

亀田 誠治 氏
音楽プロデューサー、ベーシスト
かめだ・せいじ。1964年6月3日生まれ、米国ニューヨーク出身。89年に音楽プロデューサーおよびベーシストとして活動を開始。椎名林檎、平井堅、スピッツ他数多くのアーティストの作品を手掛け、ヒット曲を生み出す。2007年、15年には「輝く!日本レコード大賞」で編曲賞を受賞。04年にベーシストとして「東京事変」に参加

 椎名林檎、平井堅、スピッツなど有名アーティストをブレークへと導いた音楽プロデューサー、亀田誠治氏の新しい挑戦が、自らが実行委員長を務める音楽フェス「日比谷音楽祭」だ。2019年の初開催時には、約10万人の動員を記録。20年はコロナ禍の影響で中止となったが、同年5月30日にはニッポン放送でYouTube生配信と連動したラジオ特別番組「日比谷音楽祭 ON RADIO/ONLINE」を実施した。21年は5月29、30日に無観客オンライン生配信で開催される。


――亀田さんが実行委員長を務める音楽フェス「日比谷音楽祭」は、クラウドファンディングや企業の協賛・助成金により無料開催を実現しています。それはなぜでしょうか。

亀田 (定額で楽曲が聴き放題になる)サブスクリプションサービスやYouTubeなどの拡大で、音楽が無料になっていく傾向が強まっています。ただ、その無料に乗っかろうと思ったのではなく、僕は常々むしろ逆のことを考えていました。今は無料で音楽を楽しむことが当たり前になりすぎていることもあり、音楽業界の予算は縮小傾向にあります。これからデビューするアーティストのレコーディング予算は、信じられないくらい低い。大成功を収めてきた大ヒットアーティストも新しい作品がつくれない状況で、みなさん独立して自分たちでツアーをしながら生計を立てるなどゆがんだ状態です。

 さらにお金が無いことで、クリエーティブのダイナミズムも小さくなってきている。バブル期を称賛するわけではないけれど、「ここにお金を使うとこんなことが起きるの?」という驚きが減少している状況に危機感を覚えました。

 なぜ音楽業界はお金が無い状態なのか。それはCD販売やコンサート、グッズの売り上げ、ファンクラブなどアーティストとファンの間だけ、音楽業界の中だけでお金を循環させているからです。ならば、リスナーがCD・グッズ購入とは別に応援できる仕組みがあったり、企業がスポンサーについたり、K-POPのように国から助成金が出たりする状況がつくれないかと考えました。音楽業界の外でお金の循環をつくり、音楽業界が活性化すれば、ダイナミックな発想でクリエーティブなものづくりが行われていくのではないかと。

 そこで日比谷音楽祭を、「音楽業界のお金の新しい循環モデル・実験の場にしよう」と思い立ちました。音楽業界の外から資金を募り、大規模な音楽フェスを無料で運営。無料でありながらトップアーティストを集結させ、みなさんにはチャリティーではなくしっかりギャランティーをお支払いしています。

亀田氏が実行委員長を務める音楽フェス「日比谷音楽祭」。桜井和寿やGLAY、Little Glee Monsterなど、各世代のトップアーティストが集結する
亀田氏が実行委員長を務める音楽フェス「日比谷音楽祭」。桜井和寿やGLAY、Little Glee Monsterなど、各世代のトップアーティストが集結する

 無料ということで、これまでフェスなどに積極的には参加してこなかったような人が多く集まれば、今までは興味が無かったアーティストの魅力をそこで発見し、CDを新たに購入したり、コンサートに行ったり、サブスクで有料会員になったりすることにつながります。

 そうして使われたお金がレコード会社やスタッフなどに行き渡り、潤沢な制作費の中でダイナミックなクリエーティブが生まれる。同時に若いアーティストやクリエーターたちにもお金が分配されれば、さらに新しいクリエーティブが生まれる。そして、新しく生まれた音楽文化をお客様のもとに還元するため、日比谷音楽祭をまた無料で開催する、という循環が生まれます。

 そのためにも、クラウドファンディングに一般の方々、特にすでに音楽に興味がある方々に参加いただくことは重要です。そうして資金を集め、日比谷音楽祭が無料で開催できると、結局は音楽業界の外からのお金の流入につながるからです。ささやかな金額でも音楽やアーティストにお金を払って応援に参加してもらいたい。「自分たちが日比谷音楽祭を開催した、音楽業界を活性化させた、未来の音楽文化の創生に貢献した」という達成感を味わってほしい。21年のクラウドファンディングは開始早々に第一目標金額500万円を達成し、ネクストゴールの1000万円に向け現在は約680万円の支援が集まっています(5月22日時点)。

 「有観客は中止となってしまいましたが、オンライン配信頑張ってください」「○○さんを応援したいから支援します」などコメントが寄せられ、音楽祭全体を応援する人・各アーティストを応援する人など、様々な関わり方の広がりに手応えを感じています。2、3年後はクラウドファンディングの比率を増やし、企業の協賛金に並ぶくらいにしていきたいです。

この記事は会員限定(無料)です。

9
この記事をいいね!する

日経トレンディ7月号

【最新号のご案内】日経トレンディ 2023年7月号
【巻頭特集】ずるい!ChatGPT仕事術
【第2特集】得する旅行術
【第3特集】シン・ツーリズム
【SPECIAL】山田涼介インタビュー
発行・発売日:2023年6月2日
特別定価:850円(紙版、税込み)
Amazonで購入する