映画『朝が来る』で、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞した18歳の蒔田彩珠。7歳の時より子役として活動を始め、是枝裕和監督作品に4度にわたって出演するなど、その実力を開花させた。Huluオリジナルのオムニバスドラマ「息をひそめて」など今後も話題作への出演が続く彼女に、今の率直な思いを聞いた。

蒔田 彩珠
まきた・あじゅ。2002年8月7日生まれ、神奈川県出身。09年より子役として活動し、ドラマ「ゴーイング マイ ホーム」や、映画『三度目の殺人』、映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、映画『万引き家族』など話題作に数多く出演。映画『朝が来る』で、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』(21年5月17日放送開始)に、ヒロインの妹・永浦未知役で出演する。

――映画『朝が来る』で望まぬ妊娠をし、出産した子供を、子供に恵まれない夫婦に特別養子縁組に出すという14歳の片倉ひかり役を演じた蒔田彩珠。みずみずしかった少女が傷を負い、深い闇を抱え、大人になっていく様を見事に演じ、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞した。

――デビューは7歳の時。子役として活動する兄の影響で芸能事務所に所属した。以降、めきめきと頭角を現し、『3度目の殺人』や『万引き家族』など、日本を代表する映画監督・是枝裕和氏の作品に4度出演していることでも知られる生粋の実力派。2021年、さらなる飛躍が期待される18歳だ。

蒔田 10歳の時に「ゴーイング マイ ホーム」(フジテレビ系)というドラマに出させていただいたんですが、そこで是枝監督と出会えたことが一番の転機だったと思います。それまでは、お母さんに付いて撮影現場に行って、どこか遊び半分なところもあったと思うんです。でも、「ゴーイング マイ ホーム」の現場で半年間くらい、自分の役のことを深く考えたり、真剣に向き合っている大人の俳優の方々を目の当たりにしたりして、自分もそうやって役と向き合って、俳優というお仕事をしっかりと続けていきたいなって思ったんです。その時が、初めて役者というお仕事が自分にとって一番楽しいことだと知ったタイミングだった気がします。

――役作りで大事にしているのは、「考えるのではなく気持ちで演じる」ということ。そのスタイルを意識するきっかけも是枝監督からの言葉だった。

蒔田 是枝監督に「せりふは覚えて話すのではなく、相手にこう言われたからこういうせりふが出てくる、っていう経緯をちゃんとたどることが大事だよ」と言われたんです。そうやって作品に入り込むことが大事だと気付かされました。別の機会では、事務所の社長に「役の過去を想像するのが大事だ」って言われたこともあって。それまでは台本に書かれていることしか意識していなかったんですが、脚本に書かれてないその役の過去や背景を想像するようになりました。そうしてからの方が、気持ちの振り幅が広くなり、気持ちを乗せて演じやすくなりました。

――最新作は21年4月23日から配信されるオムニバスドラマ、Huluオリジナル「息をひそめて」。第4話「この町のことが好きじゃなかった」に出演し、母を1年前に亡くし、光石研演じる父と2人で暮らす高校3年生・三隅夕河を演じている。

蒔田 夕河はコロナの影響で大学の始業が延びてしまい、1年前にお母さんを亡くしていることもあって、やり場のない気持ちを抱えている。そんな中で、ウーバーイーツのバイトを始めて心機一転しようとしているところに、「ちゃんと新しいことに挑戦できる子なんだな」と思いました。でも、前向きな気持ちで始めたそのバイトもうまくいかないことがある。せりふが多い役ではないですが、気持ちの波はしっかりとあるので、そこを大事に演じたつもりです。

 父親役の光石さんは撮影現場で色々な人にニコニコして話しかけて、場の空気をパッと明るくしてくださる方。今回の撮影は団地の中で籠もるシーンが多かったんですが、光石さんの明るさにみんな助けられていたと思います。私もやっぱり常に明るくいたいと思っているので、現場ではずっとしゃべっているんです(笑)。現場が楽しくないと、お芝居も楽しくなくなってしまうと思うので。

映画『四月の永い夢』などで注目を集める若手映画監督、中川龍太郎氏が監督・脚本を手掛けたHuluオリジナルドラマ「息をひそめて」。第4話で蒔田は、コロナ禍で大学進学を前に授業開始が延期され、閉鎖的な環境に息苦しさを感じる中、暇つぶしにウーバーイーツの配達員を始める三隅夕河(写真下左)を演じる
映画『四月の永い夢』などで注目を集める若手映画監督、中川龍太郎氏が監督・脚本を手掛けたHuluオリジナルドラマ「息をひそめて」。第4話で蒔田は、コロナ禍で大学進学を前に授業開始が延期され、閉鎖的な環境に息苦しさを感じる中、暇つぶしにウーバーイーツの配達員を始める三隅夕河(写真下左)を演じる

 お仕事に対して、「楽しいからやってるんだ」っていう気持ちをずっと忘れたくないんです。自分もそうですし、もし自分に子供がいたとしたら、やっぱり自分の楽しいことをやってほしいって思いますね。仕事をしていて一番好きな瞬間は、カメラの前に立って、 自分というものが完全に抜けて、100%その役になれたと感じた時です。

『朝が来る』は映画を3本同時に撮っているようだった

――プライベートでは、高校をこの3月に卒業したばかり。陰のある繊細な役を演じることも多い蒔田だが、当人は明るさ満点といった印象が強い。

蒔田 初めの1年間だけ、普通の高校に通っていました。朝起きて高校に行ったり、文化祭や体育祭といったものに参加したり、高校生の役を演じることが多いので、いわゆる高校生活がどういうものなのかを体験できたのは良かったと思います。高校の一番の思い出は、すごく大きな公園が近くにあって、そこで同級生たちとグダグダと過ごしたことですかね。何か特別なことをするわけじゃないけど、高校生だからこそ何もしないで公園で過ごせることの醍醐味を味わえたというか。

 この4月からは学生という枠が自分から無くなってしまったので、大人の仲間入りだなと思って気を引き締めていこうと思っています。年齢的にはできることが増えるので早く大人になりたいんですけど、色々と悩んでしまったりするのは苦手なので、気持ち的には子供のままでいたいんです(笑)。あまり考え込まない、明るく楽しい大人になりたいです。

 役柄を引きずったことは一度もないですね。「思うように演じられなかったな」と思って落ち込むこともあるんですけど、いつまでももやもやしていても仕方ないので、「次はこうしよう」って反省して寝ると、翌日は前向きな気持ちになります。飼っている犬たちに癒やされて全部忘れさせてくれるっていうのもありますし、周りの人に「今日こういうことがあったんだよね」って話して吐き出してから寝ると忘れます(笑)。

――これまでで一番印象に残っている役は、やはり日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞した『朝が来る』のひかり役だという。14歳から20歳まで、6年間を演じた。

蒔田 3本くらいの映画を同時に撮ったみたいな感覚でした(笑)。撮影前は役を背負わなきゃっていう気持ちもあってしんどいところはあったんですけど、撮影が始まったら身を任せるように演じられた気がしましたね。<お芝居>っていう感じじゃなくて、ひかりとして生活していたというか。これまでと違うお芝居ができた手応えがありました。

 ひかりは自分の気持ちは後回しで、人の気持ちを一番に考える子。例えば、仲良くなった友達に借金の肩代わりをさせられたら普通は恨んでしまうと思うんですが、一緒に過ごした楽しい思い出が残っているから、その友達が残していった服を大切に着る。自分がいろんなことを経験したように、みんなにも色々あるんだと考えるというか。ひかりのそういう優しさや、強さなのか、弱さなのか分からない部分は最後まで大事にしたいなと思いましたね。どんなに傷ついて、やさぐれてしまったとしても、ひかりにとって一番大事なその部分が無くなったら、もうひかりじゃなくなっちゃうと思いながら演じていました。

 この作品が思ってもみなかったくらい幅広い層の方に見ていただけたことはすごくうれしいし、賞という目に見える形で評価してもらえて報われた感じはありました。もちろん賞が欲しくてやっているわけではないので、ラッキーなおまけみたいな感じなんですけど(笑)、受賞をきっかけに、より多くの人に作品を見てもらえることになるんだということを知りました。授賞式というものを経験してまたこの舞台に戻ってきたいと思ったので、次は主演でそういう評価がもらえるように頑張りたいです。

ヒットをつくる人の素顔

最近ヒットしているものは?

20年の春の緊急事態宣言の時に、初めて作品が延期されたり、中止になったりすることを経験しました。それで新しいことを始めようと思って、水彩画を描き始めたんです。今でも休みの日に描いていますね。女の子の絵を描くことが多いです。

座右の書は?

13、14歳くらいの時に母に薦められて初めて読んだ漫画『ホットロード』(集英社)が大好きです。最近自分で買ってまた読んだんですけど、主人公たちは子供でも大人でもないようなはざまの年齢で。それが今の自分に重なる部分があって、色々と考えさせられます。

(写真/洞澤 佐智子=CROSSOVER Inc.)

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