話術のプロとして真っ先に挙がる職業の一つが、ラジオDJだ。30年以上にわたりラジオDJを務め、「GROOVE LINE」でJ-WAVEの夕方の顔として長年活躍するピストン西沢氏に、話し方のテクニックを聞いた。話のうまさは先天的なものではなく、練習次第で誰でも身に付けることができる。

※日経トレンディ2021年5月号の記事を再構成
ピストン西沢 氏
ディスクジョッキー(DJ)
大学在学中からクラブDJとして活動し、30年以上にわたりラジオDJとして活躍。硬軟織り交ぜたトークとともに、多くの人気DJたちからリスペクトされるオリジナルなミックスは健在

 話術のプロといえる職業の一つが、ラジオのディスクジョッキー(DJ)だ。音声SNSが盛り上がっている時代だからこそ、熟練のプロの技にも注目したい。そこで、ラジオDJを30年以上務め、「GROOVE LINE」でJ-WAVE(81.3FM)の夕方の顔として長年活躍するピストン西沢氏に話を聞いた。

 実は企業相手に多くのプレゼンをしているピストン西沢氏。取材直前にも、某一部上場自動車会社の宣伝部にオンラインでプレゼンをしていたという。まずは、プレゼンで相手を口説き落とすテクニックの話から。

──ピストン西沢さんがプレゼンをされるときは、どんなことを意識しているのでしょうか。

ピストン西沢: 目の前で話を聞いている担当者を口説くという意識がすごく大事。プレゼンは「プレゼンをする人 対 会社」という構図を思い描く人もいると思いますが、そうではない。プレゼンをする人と会社の入り口にいる担当者という、「人 対 人」。相手をうまく口説くことこそが、プレゼンを成功させる秘訣です。

 相手に「僕はものすごくこれに懸けたくなりました」とか、シンプルに「面白かった」と言ってもらえれば、その人が牽引役になって、社内で話をまとめてくれる可能性がありますよね。そのためには相手を興奮させる、温度を上げる話し方をすることです。

話に「見出し」を付けて相手の注意を引け

──そのための具体的な話し方のテクニックを教えてください。

ピストン西沢: プレゼンは一方通行になってはいけません。50:50(フィフティーフィフティー)で話して、相手に「それでいくとね」と逆提案されるとか、話に入ってきてもらいながら進むことが理想的です。

 そのためのテクニックとしては、まず間を空けることです。話をしている内容も、文章にすると句読点がありますよね。このときにしっかり間を空ける。そうすると、相手は「はい」と相槌を打ちます。これだけでもう会話に参加している。すると、おのずと相手の話を引き出せるはずです。相手が参加するスペースというのをつくってあげることが大事なんです。この間が適切だと、相手も気持ちがいいんですよ。

 相手の注意を引くためのテクニックとしては、話に「見出し」を付けるという方法があります。インターネットの記事の見出しなんて、それで読者を引っ張り込むわけですよね。話すときも一緒です。「これ知ってますか」とか「いや違うんですよ」といった相手の興味を引くフレーズを、大きな声でゆっくり話して本文と違う聞こえ方にしたり、本文と離すために間を空けたりして、強調して話すんです。

 「面白い話があるんですよ」とか大げさなのは墓穴を掘ります。あまり大きい見出しを付けすぎないことも意識したいです。ちなみに僕がラジオで話すときは、見出しの先をどんな展開にするかはよく考えていません。自分が見えないところに球を投げて、全力で取りに行っているような感じです。これがうまくいったときに、刺激ややりがいを感じます。慣れてくると、見出しを付けることでとても魅力的な話し方になると思います。

 相手の趣向のようなものを把握することも一つの手です。例えば、相手が野球好きなら、「じゃあ野球の話で例えてみましょう」と、その人が興味を持って、それをリアルにイメージしてもらえるような話し方ができるじゃないですか。

 「休日、何されているんですか。それに例えて、この話を理解していただけるようにさせていただきます」とストレートに聞いたっていい。ただ会話の流れの中で、自然に聞き出す努力は必要でしょうね。相手に対してぎまんや嫌悪感を持たせないことは、当然ながらとても大事。テクニカルな部分は絶対に見せてはいけないです。

 あとは冒頭。一番良いところを小出しに見せる。肝心な部分に入るまで寄り道が多いと、聞いている側は飽きてしまいます。YouTubeの動画が最初の30秒、もしかしたら5秒、10秒が命といわれていて、そこでつまらないとはじかれてしまうのと一緒です。

●プロラジオDJが伝授、伝わるしゃべり
●プロラジオDJが伝授、伝わるしゃべり
ピストン西沢氏のYouTubeチャンネル「ピスチャンネル」でも、話し方の動画を公開中。他にもクルマに関する動画など、多彩なテーマを扱っている

ピストン西沢: ベタなことかもしれませんが、冒頭の挨拶で「今日のプレゼンを楽しみにしてきました」と言うのも有効です。相手は、「じゃあ聞いてやろうか」と思いますよね。

 こうして相手の温度が上がったところで押し込むのがプレゼンの基本。「こいつは何を言ってるんだ」と思われているうちは、いくら押しても意味はない。納得してもらうまでは、丁寧に少しずつ話をしていく。相手が関心を持ったな、心を許したなと思ったら、そこから一気に押すんです。

 相手の温度を測るのは難しいです。表情とか、「なるほど」という一言とか、こればかりは人によって様々。そこを見抜けるようにならないと、会話術は上達しないです。

──こうした話し方は努力で身に付けられるのでしょうか。

ピストン西沢: 昔、僕の話し方に興味を持ってもらえて、番組を聞いていた脳伝達科学の先生に取材されたことがあります。そこで僕も驚いたのですが、今のように話せるのは先天的ではなく、「練習のたまものですね」と言われたんです。

 もともと僕は話すのが好きでした。ただ、早口で情報量を詰め込んでも展開がバラバラ。構成をまとめきれなかったのが素人の時代でした。

 この世界に入ってから番組の原稿にコラム、番組やプロモーションの企画書、パワポなんて週に3回くらい新しいものを作っています。こういったものを山ほど書いたんですよ。それこそ生放送の原稿なんて、一番抱えてたときは週7日すべて生放送があって、月50~60本書いていました。1秒でも早く上げないと寝られないし遊べないし。一生懸命仕事して、せっかくお金が入ってきてクルマを買ったのに、乗れないじゃねえかと思ってました(笑)。

 ただ僕自身は、こうして原稿を山ほど書くことで今のような話し方を身に付けたと思っています。話すときも書くときも、構成の考え方は同じなんです。文章は普通、5回も10回も直しながら決めていきますよね。でも、それを山ほどやったら1回目で完成度の高い原稿が書けるようになった。すると原稿が無くても、話の構成をすぐ頭の中でまとめて、見出しも付けて、まとまった話ができるようになりました。

 普通のビジネスパーソンは原稿を書く機会はほぼ無いと思うけれど、企画書でもいいんです。とにかくたくさん書く。どんなことでも企画書にする。

 そのときのポイントは、以前作ったものの踏襲で作らないこと。空白の状態から始めるか、パワーポイントならテンプレートを使ってもいいけれど、毎回同じものじゃなくて色々試す。どういう内容を並べて、それを自分でどう説明して、相手を巻き込みながら進められるか。それを何度も考えることが重要なんです。

ラジオもプレゼンと同じ。一方通行では面白くない

──プレゼンの話し方を聞いてきましたが、ラジオでの話し方も共通している部分があるのでしょうか。

ピストン西沢: ラジオもプレゼンと一緒で、一人で話し続けているだけだとあまり面白くないです。これは二人で出演した方がいいということではなく、相手がいるということを一人が演出する。つまり一人で二役になったりとか、相手の気持ちをくみながら話したりとか、とにかく存在を意識しながらしゃべるということが大切なんです。

 何事もコミュニケーションは楽しくないといけないですよね。ビジネスシーンだってプレゼンだけではなく、会議なんかつまらないと思っている人、多いんじゃないですか。特にオンラインの会議。それは一人が話し続けるだけになりがちだからです。一方通行になるので面白くないんですね。帰結するところは一つで、相手を楽しませること、おもてなしなんです。

話し方の4つの掟
  1. 相手が参加するスペースをつくる
  2. 話に「見出し」を付けて、相手を引き込む
  3. 相手の趣向を聞き出し、それに合わせて話す
  4. 冒頭で肝心な話を小出しにする

 「日経トレンディ2021年5月号」(4月2日発売)では、巻頭特集で「ヒット企業直伝! 最強の話し方・会議・プレゼン」と題し、仕事のトークスキルを磨き上げる技やノウハウの数々を紹介している。テレワークが浸透した今、会議やプレゼンといったコミュニケーションの方法もアップデートしたい。この時代にヒットを連発する好調企業、そしてピストン西沢氏のような話術のプロたちに、仕事がうまく進む話し方のコツを聞いた。さらに、仕事のコミュニケーションに役立つ最新の機器やサービスも取り上げている。

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