ネガティブで人見知りな草薙航基のキャラクターが受け、2019年頃から人気が上昇、さらなるブレイクが予想されるお笑いコンビ、宮下草薙。その人気の源泉ともいえる番組が、毎週金曜深夜に放送中の「宮下草薙の15分」(文化放送)だ。ツッコミ役・宮下兼史鷹とボケ役・草薙がただ15分間トークをするだけのシンプルな内容だが、当初3カ月限定の予定が改編を乗り越え今も続く。彼らがなぜ人気を博しているのか。

※日経トレンディ別冊「すごいラジオ大研究100」の記事を再構成

宮下兼史鷹(右)と草薙航基(左)
宮下兼史鷹(右)と草薙航基(左)
文化放送「宮下草薙の15分」は毎週・金曜26時45分~27時に放送中
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宮下草薙
みやしたくさなぎ。1991年生まれで愛知県出身の草薙航基(くさなぎ・こうき)と、90年生まれで群馬県出身の宮下兼史鷹(みやした・けんしょう)からなるお笑いコンビ。2016年、もともとピン芸人として活動していた宮下が、コンビの結成と解消を繰り返していた草薙に声を掛け結成

――20年1月スタートのラジオ番組「宮下草薙の15分」は、20年9月に日経トレンディが実施した「好きなラジオ番組ランキング」で9位にランクインしました。ラジオはどんな存在ですか。

草薙 ラジオが始まる前は、2人でテレビ番組に出ていても、宮下のトークがカットされることもあって、宮下ってどういう人なのかがイマイチ伝わっていない気がしていたんです。でも、ラジオはカットされないので、「宮下ってこんなやつなんだな」というのが浸透していった気がします。「ちゃんと仕切れるんだ」「意外と話せるんだ」と受け取ってもらえて、宮下がそういう役割を担う形が増えた。

 以前はなぜか僕が仕切り役になってて、しかも全然うまくいかなくて、収録後、逃げるように現場から立ち去ることも多かったんです(笑)。でも、最近はカンペに「宮下仕切りで」って書いてあることも増えてて、実際、宮下がちゃんと仕切っています。僕はすごくやりやすくなりました。

宮下 自分としては、まだまだちゃんと仕切れてないと思っているんですが(笑)。でも、業界の人によく「ラジオ面白かったよ」と言ってもらえる機会が多くなりました。テレビの収録現場でも、もしかしたらスタッフさんの誰かが僕たちのラジオを聴いてくれていて、それで、「僕の話も求めてくれてるんじゃないか」と。そう思うことで、気持ち的に話しやすくなりましたね。昔はあまり求められてない感じがしていましたから(笑)。

 そしてやっぱり、テレビ番組でトークがカットされちゃったり、うまくいかなかったりするときは、「宮下草薙の15分」が憩いの場になります。そこでの15分間のトークで、もやもやしていた気持ちを昇華できる。戻る場所があることが僕のメンタル面の強化にもつながっています。

草薙 だから、ラジオで失敗したときこそヤバいんだよね。テレビの失敗はラジオで話せるけど、ラジオで失敗したときは、話せる場所が無いから。

宮下 すがるものが無い(笑)。でも「ラジオがうまくいかない」っていう悩みを『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日)で取り上げられたこともあったよね。結局、循環してるんです(笑)。

自宅で2人のセルフラジオを録音。「こんな変な声なの?」と仰天!

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──宮下さんはもともとラジオ好きだったそうですね。

宮下 芸人になる前に、好きな芸人さんのラジオをよく聴いていたんです。芸人さんが一番面白いのはラジオだっていう感覚があったんですよ。一番聴いたのは、おぎやはぎさんの「メガネびいき」(TBSラジオ)。だから、芸人になったとき、まずはラジオのレギュラーが欲しかったんですよね。

 草薙とコンビを組む前の養成所時代、ラジオをやりたいが故に、2人でセルフラジオのような会話を録ったことがあったんです。草薙とはまだ漫才も作ってなかったのに。そのためにすごくいいマイクを買った。自分の部屋の収録環境をしっかり整えて草薙を呼んで、2人の会話を録って聴いてみたんです。そうしたら草薙が「え? 俺ってこんな変な声なの?」って、初めて自分の声が変だと気付いて、慌てて「すぐ消してくれ! こんな変な声のやつのラジオは流せない」って言い始めた(笑)。

草薙 いいマイクだから、声がすごく鮮明に録音されてね。そこで初めて、「あ、俺ってキャラ芸人なんだ」って思ったんですよね。僕は顔出しもあまりしたくなくて、ネタを披露するときも、YouTubeとかに映像無しでアップしてもらえないかなって思っていたくらい。芸人なのに何言ってるんだって感じですけど。

 ラジオは顔が出ないのでいいですね。しかも「宮下草薙の15分」は出演者も僕たち2人だけだし、スタッフも、ディレクターさんとアシスタントさんと、僕たちのマネジャーしか現場にいない。みんな優しくて空気みたいな雰囲気の方なので、リラックスできるんです。テレビはスタッフも多いし、スタジオの奥の方でスーツ着て鬼みたいな顔で腕組んでる人がいたりして、萎縮しちゃうこともあるから(笑)。

15分“完走”できたのは、この1年間で1回か2回

宮下 僕はもともと長く話す方が好きで、それでラジオ番組に引かれていたところもあったんです。収録では、毎回のトークテーマに沿って話す内容を考えて臨んでいるんですね。でもいかんせん相手が草薙なので、ちゃんと話を聞いてもらえなかったり、途中でケンカになったりしてしまうことも多くて、15分なのに完走できたことはほぼ無いですね(笑)。自分が設定したゴールテープを切れたと思ったのは、この1年間で多分1回か2回くらい。

 唯一、「用意した話を完璧に話し切れたな」と思えたのは、彼女とディズニーランドに遊びに行ったことを話した回。話の内容自体も良かったと思いますし、草薙も楽しく聞いてくれたのが大きかった(笑)。草薙の笑いのツボは信用しているんですが、「面白がってくれるだろう」と予想して持っていっても、疲れていたり、機嫌が悪かったりするときはあまり聞いてくれない。

草薙 機嫌が悪いんじゃなくて、調子が悪いの(笑)。番組の収録に入って、「今日はこういう感じか」って分かって、調子がつかめるまでにだいたい12分くらいかかるんですよ。その間にもう1回分の収録は終わっちゃう。調子の上げ方も分からないから、そこから調整しようもない。

宮下 そうやって1年やってきました。番組全体の手応えとしても、「あ、これはつかんだな」という回があると思ったら、次はまたうまくいかなくて、「あれ、全然つかんでなかった」と。最近録った3本の出来がひどくて、つかんだと思っていたものをすぐに捨てました(笑)。

草薙 3本録りの1本目でしくじると、3本目の終わりまで引きずるしね(笑)。でもちょっとずつ慣れて、最初は2本が限界だったけど、今は3本録りできるようになりました。

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──トークの中で、ケンカが起きることも珍しくないですね。殺伐としているわけではなく、たわいない兄弟ゲンカのようでほっこりします。

宮下 ケンカって言っても、政治で激論してるわけじゃなくて、取るに足らない小競り合いというか(笑)。他からしたらどうでもいい、くだらないことを2人でガヤガヤ言ってるだけだから、そう思ってもらえるのかもしれないですね。

草薙 僕もできればケンカはしたくないんです(笑)。でも、普段の楽屋でもあんな感じなんですよね。お互いに色々言い合っているうちに、「あ、この次の言葉を返したら絶対ケンカになるな」って分かるんです。収録だと我慢しますけど、普段は我慢しない。ラジオってそのちょうど真ん中の感じで、我慢せずに言っちゃうときがある。それでケンカになって、「あ、収録中だった」って後で困るんですけど(笑)。

宮下 テレビで話しても全然伝わらないようなどうでもいい話も、ラジオだったらしますからね。それがいい意味で素っぽいのかもしれないですね。

草薙 今から5年以上前、コンビを組む前の養成所時代に、ライブ後に2人で同期の家に泊まりに行ったことがあったんです。そのときはまだ仲良くなかったんですけど、一軒家の2階に2人で布団を敷いて寝て、朝までずっとしゃべってた。それがすごく楽しくて、そこで仲良くなったんです。ラジオはそのときの感覚でやっているようなところもあるんですよね。

宮下 あのときはすごかったよね。あの感じだったら、「宮下草薙の4時間」とかでもいける(笑)。

草薙 そう、4時間くらいずっとしゃべってて、そのうちの3時間50分くらいは笑ってたよね。

宮下 そのときに「こんなやつなんだ」と、お互い思った。あれ、録音しときたかったな。その音声を聞いたうえで、今のラジオを聴いてもらえたら、「こいつら話すのうまくなったな」と思ってもらえると思います(笑)。

 実は今でもあのときみたいな感触がある回もあります。「どんな魔法が使いたいですか?」というリスナーさんからのトークテーマに基づいて話した回があったんですけど、僕が「人をソフトカルビにする」とか「ハラミにする」とか言って(笑)。その回は、とにかくずっとどうでもいい話を2人で笑いながらしてましたね。

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下ネタも炎上トークもナシの理由は?

──トークの魅力として、下ネタが無く、老若男女が安心して聴いていられる「人を傷つけない」という面があると思います。

宮下 草薙はどの芸人よりも炎上を恐れているので(笑)。

草薙 恐れているというか、面倒くさいからね。

宮下 それで気を使い過ぎて疲れてるよね。下ネタが出ないのも、草薙が苦手だから。僕は、例えばトム・ブラウンさんのラジオ番組に出してもらったとしたら、ガンガン下ネタを言いたいくらいなんですけど(笑)。

草薙 あまり下ネタを面白いと思ってないんですよね。そう思ってるやつが無理やり言っても面白くないだろうし。受けたことも無いし。あと、“気にしぃ”なんで、自分が言われて嫌なことは言わないようにしてます。気を使う仕事をこれまでたくさんしてきて、渡辺謙さんや加賀まりこさんみたいな大物とロケに行ったり、大企業の社長に年収を聞きに行ったりとか(笑)、そういう中で、自然とすごく気を使うようになりましたね。

宮下 でも草薙はSNSをやってないので、もし炎上するようなことがあったとしても、燃える家が無いんですよ(笑)。だからそんなに炎上を恐れて気を使わなくてもいいのに。

草薙 もし僕に、「炎上するかもしれないけど、一定数の人にどうしても届けたい」というくらいの話があれば別ですけど、そこまでしてしたい話も無いので(笑)。何か話したいことがあったら宮下に話すくらいでいい。

宮下 僕にしてくれた話をラジオで草薙に振るときがあるんですけど、草薙自身がそのことを思い出せないことも多いですね(笑)。身内には気を使わないんですよ。最近驚いたのは、おもむろに「おまえ、貯金いくら?」って聞いてきて。どれだけ仲良くても、貯金額ってそんなにはっきり聞かないじゃないですか。

草薙 ほんと悪かった(笑)。それが変なことって分からなかった。

──今感じるラジオの魅力とは?

宮下 好きな芸人さんのラジオを追っていると、テレビで話していた“鉄板の話”の完全版を聴けるんです。だいたい、そぎ落としてない方が面白いんですよ。話のある部分を広げたくても、テレビだと尺の問題もあって短くしたり、編集されたりするから。あと、コンビでのラジオだと、相方はやっぱり「ここを広げたいんだろうな」と察するので、その掛け合いでさらに面白くなったりする。どの芸人さんも、相方を笑わそうとしてるときが一番楽しそうだし。そういう芸人さんの戯れの真の面白さが味わえるのがラジオだと思います。

草薙 僕が所属している太田プロの先輩には、ラジオで冠番組を持っている人も数多くいて、手本がたくさんいる。みんなそれぞれのスタイルでやられているんですね。仕事の中には、僕たち2人の意向というよりは、「こういう形でお願いします」と言われるものも当然ある。そんな中で、「宮下草薙の15分」は2人でやってるので、「こういう感じじゃないとダメ」というのがない。自分たちが今一番やりやすいことができる。だから、僕にとってもすごく好きな仕事ですね。

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(写真/タナカヨシトモ)

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