鮮やかなマーケティングで、ネスレ日本を急成長させた高岡浩三氏がコロナ禍の中、「ビジネスプロデューサー」として再始動した。最大の使命と心得るのは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を、日本企業のイノベーションにつなげること。日本有数のマーケターは今、何を考えているのか。単独インタビューで口を開いた。

高岡 浩三(たかおか こうぞう)氏
ケイアンドカンパニー代表取締役
1983年、神戸大学経営学部卒。同年、ネスレ日本入社。各種ブランドマネジャーなどを経てネスレコンフェクショナリーのマーケティング本部長として「キットカット」受験キャンペーンを成功させる。2005年、ネスレコンフェクショナリー代表取締役社長。10年11月ネスレ日本代表取締役社長兼CEOに就任。「ネスカフェ アンバサダー」などネスカフェの新しいビジネスモデルを構築し、14年に日本マーケティング大賞。20年3月に退社

 1枚のチョコレートが、受験生のお守りになった。ネスレの「キットカット」である。「きっと勝とう!」。そんなメッセージを込めて、キットカットを贈り合う。バレンタインではなく、受験シーズンに飛ぶようにチョコレートが売れる、世界でも類を見ない社会現象を生み出したのが、高岡浩三氏だ。

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 1983年にネスレ日本に入社し、30歳で同社史上最年少部長に昇格。2010年11月には、生え抜きの日本人社員として初めてネスレ日本の社長兼CEO(最高経営責任者)に就任した。コーヒーマシンを無料でオフィスに貸し出し、専用カプセルの定期購入などで代金を回収する全く新しいビジネスモデル「ネスカフェ アンバサダー」を立ち上げ、インスタントコーヒーをオフィス市場に持ち込んだ。

 「ジャパンミラクル」。スイスのネスレ本社がそうたたえるほど、ネスレ日本の業績を飛躍的に引き上げた高岡氏は20年3月末、60歳の定年を機に引退した。

よもやのオンライン退任会見

 退任発表の場は20年3月10日。後任の深谷龍彦氏とともに、春の事業戦略発表会に姿を見せた。ちょうどそのころだった。新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、感染状況は日増しに悪化。そうした事情も考慮したのだろう。当時はまだ珍しいオンラインでの退任会見に踏み切った。

 よもやの幕切れとなったが、高岡氏の表情は終始、晴れやかだった。これからどう生きていくのか。会見の席上、明らかにしたのは日本企業のDXを支援すること。そのためにケイアンドカンパニー(兵庫県西宮市)を設立し、代表に座った。

 高岡氏にとってDXとは、あくまでもイノベーションを起こすためのツールである。「DXといっても、今の日本はデジタライゼーションとデジタルトランスフォーメーションがごっちゃになっている。政府が進めると言っているデジタル化は、デジタルトランスフォーメーションでもなんでもなくて、紙でやっていることを、デジタルにするデジタライゼーションにすぎない」

イノベーションかリノベーションか

 イノベーションとはなんなのか。高岡氏の答えは明快だ。「顧客が諦めている問題を解決すること」に尽きる。「毎年、日経さんがヒット商品番付を発表するじゃないですか。実は僕、あそこにネスレの商品が入るのが嫌で(笑)。なぜかというと、実は過去にさかのぼって調べたことがあるんですよ。仮にあそこで大関や横綱に選ばれても2、3年後に見たらほとんどが消えている。それが、本当のヒット商品ですかということなんです。実は、世の中のほとんどのヒット商品はリノベーションであって、イノベーションではない

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