本連載ではテレビCM枠の新たな買い付け方法である「SAS(スマート・アド・セールス)」がテレビCM市場に与える影響や、市場に浸透する上での課題などを解説してきた。最終回では、SASの進化を予測したい。すなわち取引の機械化、プログラマティック取引実現の可能性だ。実現されればテレビCMはデジタルマーケティングにさらに近づくことになる。

 これまでテレビCM出稿は番組提供とスポットCMの2種類しか選択肢がなかった。そのため、2つは対比的にメリットとデメリットが語られてきた。しかし、SASという新たな選択肢が加わったことで、広告主はより戦略的にテレビCMの活用方法や評価基準を持てるようになるだろう。そこで、一度、テレビCM枠の買い付け法を整理したい。

 テレビCM枠を買い付ける選択基準の要素は、「量」「日時・期間」「質(番組・内容)」「人・属性」の4つである。それらの基準とテレビCM枠の特性を踏まえ、下図のように整理した。

テレビCM枠の特性に合わせて、「量」「日時・期間」「質(番組・内容)」「人・属性」の4つ軸で整理した
テレビCM枠の特性に合わせて、「量」「日時・期間」「質(番組・内容)」「人・属性」の4つ軸で整理した

 まず、量と番組・内容で考える場合、同額予算なら、条件を絞らないほうがテレビCM枠を最も多く購入でき、枠の単価も安くなる。放送日時などを指定して枠を絞り込むにつれて単価は上昇していく。スポットCMなら、すべての日時のテレビCM枠を購入の対象とする「全日形」は最も単価が安い。朝、夜、土日を対象とした「コの字形」、夜の特定の時間帯だけを対象とするような「一の字形」など、買い付ける時間を狭めるほど、単価が上がる。

 一方、自社のブランドとの相性など質を求める場合に利用されるのが番組提供だ。その番組に共感したり、内容に期待したりする場合に提供社として名を連ねる。自社ブランドの成長と共にある、将来へ向けた投資と捉えるべきであろう。質、放送時間などを突き詰めた先は1社提供番組である。共同提供もおおむね考え方は同じだが、番組枠、すなわち放送日時を買っている要素がやや強まる。同じ枠でも、内容次第で視聴層が大きく変わってしまうリスクもあるからだ。

 ここまでは従来のテレビCMの話。SASが登場し、人・属性など広告主がテレビCMを届けたいターゲットに絞ったテレビCM枠の買い付け方法が加わった。これまでテレビCMは自社のターゲット層を多く含む枠といった具合に、間接的なターゲティングでしか出稿できなかった。そのため、日時・期間や番組・内容で取捨選択していくしかなかった。SASの登場で、狙いたいターゲットが含まれる枠を視聴データで絞って買い付けできるようになりつつある。究極形は「アドレサブル広告」だ。これは、視聴者属性や企業が持つ顧客データなどを基に、個別のテレビ端末ごとに企業が持つ顧客データにひも付けて広告を配信する手法。現在のテレビCMでは実現の可能性はまだ低い。

 これらの新たな手法は従来の買い付け方法との対立軸と捉えるのではなく、視聴データを基にする買い付けが可能となったことで、スポットCMの使い方や提供番組の選び方も進化すると考えていくべきある。

テレビCM枠に占めるSASの割合は数%

 SASの課題は割り当てられている枠がまだまだ少ないということだ。まず、テレビCM枠の総量は、日本民間放送連盟放送基準で週間の総放送時間の18%以内と上限が定められている。ここから試算すると、1週間のテレビCMの放送時間は30時間程度になる。実際にCM時間がどれくらいであったかを集計したのが下図である。参考例で、著者調べでは1週間のCM総量は29.5時間であり、番組提供枠が32%、スポットCM枠は56%という比率だった。残りの12%は番組宣伝枠である。

テレビの総放送時間におけるテレビCMの放送時間は約30時間。その内訳ではスポットCMが過半を占める。2020年5月の1週間を集計(関東地区)
テレビの総放送時間におけるテレビCMの放送時間は約30時間。その内訳ではスポットCMが過半を占める。2020年5月の1週間を集計(関東地区)

 そのうちSASで購入できる枠はテレビ局によって差はあるが、スポットCM枠のうち5~20%前後がSASでの取引と試算している。現在、SASはスポットCM枠からの割り当てが中心だ。だが、視聴データを基にした、テレビCM 枠の買い付け方法が広告主に受け入れられるようになると、SASの需要は必ず高まるはずである。割当量が増えれば、取引は機械化、すなわちプログラマティック取引に向かうことになるだろう。

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