2020年2月にスタートしたSAS(スマート・アド・セールス)。従来のテレビCMと全く異なるこの新しいバイイング手法は、テレビCM復権の救世主として期待値が高い。しかし、より積極的に活用されるようになるためには広告主、広告会社、テレビ局のそれぞれが持つ課題を解決していく必要がありそうだ。

(写真/Shutterstock)
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 SASの基となるASS(アドバンス・スポット・セールス)の開始から数えれば2年以上が経過したが、その価値が市場に十分浸透したとは言い難い。既存のテレビCMの買い付け方と比較して単価が高いという認識が広がっており、検討すらされないこともあるようだ。結論から言えば「高い枠もあるが、安い枠もある」。広告主に伝わっている情報が少々不足しているように思う。SASが積極活用されるにはいくつかの課題がある。テレビCMに関わるステークホルダーごとに課題を見ていこう。

 まず、広告主だ。現状、多くの広告主は、担当する広告会社からの情報、知見やノウハウに依存しがちだ。しかし、SASの登場をきっかけとして、テレビCMのDX(デジタルトランスフォーメーション)は進んだ。広告主はテレビCMの成果などのデータを取得しやすくなり、テレビ視聴データを用いて自ら最適なプランニングをすることも可能となるのだ。

 具体的には、データを用いたスポットCM(番組に関係なく、期間や放送時間で買い付けるテレビCM枠)の見直しが一例として挙げられる。スポットCMは放送時間帯で料金が異なる「タイムランク」というものが存在する。例えば、19~23時の時間帯は「Aランク」と呼ばれ、最も価格が高いが、広告主には人気がある。

SASで現状のプランニングの見直しが可能

 しかし、個人視聴率が指標化されてくると、このAタイムが本当に必要かどうかを再考できる。仮に自社のターゲットを F1(20~34歳の女性)と定め、SASを使い、より効率が良いテレビCM枠をプランニングしてみる。すると、Aタイムを買い付けなくても、十分なリーチが獲得できることが分かることもある。高額なテレビCM枠を使わない分、視聴率単価の大幅な低下が期待できるわけだ。そして、SASでは、このプランは理想値ではなく、実際にそのまま購入することができるのである。

 SASの登場によって、これまで分かりづらかったテレビCM枠の価格は、一部ではあるが透明性のあるものとなった。また、どの枠が購入可能なのかもオープンになった。しかし、実際のテレビCM枠の購入に当たっては広告会社を経由する商流は変わらない。そうした商流が一般的である以上、SASがより活用され、さらに発展をしていくためにはビジネスパートナーである広告会社との共存を図っていく必要性がある。従って、広告主は自らの知見を高め、テレビCM取引に対するインハウス(自社内)の機能を強化するなど、下図のような広告会社と伴走しながらも、テレビCMを活用できる体制を築くべきだろう。

SASを有効活用していくには、従来のウオーターフォール型の体制では不十分。広告主はインハウスで知見をため、広告会社と一丸となってプランニングできる体制を築く必要がある
SASを有効活用していくには、従来のウオーターフォール型の体制では不十分。広告主はインハウスで知見をため、広告会社と一丸となってプランニングできる体制を築く必要がある

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