テレビCMの世界が激変している。世帯視聴率だけが主な指標だった時代から一変、「個人視聴率」「視聴質」といった新たなテレビ視聴データが登場した。さらに大きな変革をもたらしそうなのが、2020年2月にスタートした「SAS(スマート・アド・セールス)」だ。本連載では4回にわたって、SASの可能性を追求する。
欧米では既に「テレビへの揺り戻し」が起きているようだ。その要因となっているのがプライバシー保護。GDPR(一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)が相次ぎ施行され、CPRA(カリフォルニア州プライバシー権利法、CCPA2.0とも呼ばれる)も準備が進む。こうした規制により、デジタル広告のデータ活用にブレーキがかかっている。
また、20年6月には英蘭ユニリーバや米ベライゾンといった大手広告主が、憎悪をあおる投稿(ヘイトスピーチ)への対応が不十分であることなどを理由にFacebookやTwitterへの出稿を原則停止すると発表。ネット広告への不信感が募る中、テレビCMの価値が再評価されている。
個人視聴率化とバイイングは別問題
国内でもテレビCMの復権を目指す動きが活発化している。例えば、20年3月からビデオリサーチの個人視聴率調査が全国に広がった。これによってテレビCMがデジタルマーケティングに限りなく近づきつつある。
しかし、振り返れば、テレビ視聴データは世帯視聴率しかなかったわけではない。調査エリアは限られていたものの、個人視聴率自体は20数年前から存在している。実際に筆者が1997~98年頃にマーケティングを支援した通信キャリアのテレビCMキャンペーンにおいても、個人視聴率データを活用した。
テレビCMのプランニングでは「逆L(土日と夜を対象とした放送プランニング)」「コの字(朝、夜、土日を対象としたプランニング)」「全日(すべての日時)」という3つの方法がよく使われる。
支援した通信キャリアはこの3つに分かれていたテレビCMのプランニングを止め、単価の安い全日型で時間帯を広めに各テレビ局にスポットCM枠(番組に関係なく局が定める時間に挿入されるCM枠)を発注。そして、確定したスポットCM枠に対して、それぞれ個人視聴率と世帯視聴率の両方を見ながら、(1)携帯電話(当時はスマートフォンではなく、ビジネスパーソン向け)、(2)ポケベル(成人男女、学生など)、(3)キッズ用商品(主婦中心)の3商品から最適なテレビCM素材を指定する、というものである。
この手法によって効率性が増し、同額予算でも従来の手法で発注した場合より10%以上も多くテレビCM枠を購入できた。さらに単純なまとめ買いで単価を下げ、コストを圧縮する方法とは一線を画し、商品ごとのターゲット層へのリーチ拡大にも大きく貢献した。
ただし、この手法が成立するのには条件があった。欲しいテレビCM枠を「自由に買うことができなかった」ため、97年当時はあらかじめテレビCM枠を購入し、その後に最適なターゲット効率を勘案したテレビCM素材を人力で割り付けていくしかなかったのだ。これを大きく変えるのがSASだ。
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