リテール業界に地殻変動を起こし始めている「D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)」モデルは、顧客基点のビジネスフレームワークが成長の源泉となっている。D2Cは商品開発、広告宣伝、商品改善のあらゆる工程で顧客の声を重視する。D2Cモデルの登場で顧客との接点であるSNSの活用も大きく変わりつつある。

(写真/Shutterstock)
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 新型コロナウイルス感染症拡大によって生活者の意識や行動が一変し、企業のマーケティング活動は変革を余儀なくされている。移動や接触が制限される「新しい生活様式」の社会では、デジタル化やEC化への早急な取り組みが適者生存への大きな鍵となるだろう。

 しかし、デジタル広告の効率性と生活者の消費行動の変化は、コロナショック以前より始まっていた。ダイレクトマーケティングを中心に、デジタル広告の効率性を突き詰め、高成果を追い求めてきた既存のEC事業者の間では、新規顧客の獲得効率の低迷に悩み始める企業も増え始めている。

 一方で、既存顧客のLTV(顧客生涯価値)向上に焦点を絞り、長期的な関係性の構築に向けて、顧客基点の商品体験の創出や継続的な価値提供に投資する企業が台頭し始めた。顧客基点のビジネスフレームワークこそが、リテール業界に地殻変動を起こし始めているD2Cモデルの登場だ。

 D2Cとは言葉の通り、生活者(コンシューマー)に対して商品を直接的(ダイレクト)に販売する仕組みを意味し、自社で企画・製造した商品をECサイトなどの自社チャネルで販売するモデルと説明されることが多い。だが、その定義だけでは従来の通販ビジネスとの差分が明確ではなく、D2Cの本質的な価値は見えてこない。2000年代後半から米国を中心に、スタートアップ企業が展開するビジネスモデルとして勃興したため、一過性のトレンドのように扱われることも少なくない。だが、従来のECモデルとの違いを正しく理解することで、今の時代に求められる事業成長のヒントを得られる。

プロダクトアウトから顧客基点へ

 従来型のマーケティングモデルでは新規顧客獲得を担うマーケティング部門、CRM(顧客関係管理)部門、商品開発部門など、目的によって組織やミッション、KPI(重要業績評価指標)が異なることが一般的だ。そのため、商品体験を軸にして部署横断で改善を図ることは困難なケースが多い。対してD2Cモデルは事業のタッチポイントすべてを顧客体験を軸とした「顧客基点」で見直し、従来モデルとは根本的に異なった事業や組織として設計されている。

D2Cモデルは、ブランドに必要なあらゆる接点が顧客起点で設計されているのが特徴だ
D2Cモデルは、ブランドに必要なあらゆる接点が顧客起点で設計されているのが特徴だ

 自社ECサイトを販売チャネルのメインにし、商品の評価などを顧客から直接吸い上げられる環境を整えることで、購買状況や利用状況、嗜好の変化といった顧客にまつわるさまざまなデータを収集・分析する。自社商品を購入してくれた顧客を知り、そしてつながり続けるために顧客の反応を分析し、顧客の期待に応え、顧客に寄り添った商品や体験を提供し続ける。

D2Cモデルで原価構造に変化

 また、売り切り型が中心の従来のマーケティングモデルでは販売の初期段階から一定量の生産を行う必要があり、あらかじめ廃棄コストを原価に含める必要があった。ほかにも、サプライチェーンにおける中間マージンや外注コスト、店舗販促における棚取りや送客といった認知獲得のための広告費用など、大量生産ゆえに必要となる費用が原価を圧迫していた。しかも、消費者の好みが多様化し、変化も早い現代においては、多額の広告費をかけても必ず売れて利益が出るとは限らずリスクが大きい。結果、最大公約数的に無難な企画にせざるを得ず、ブランドの個性が希薄化してしまうという悪循環があった。

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