アパレルの未来について、ファッション業界紙「WWDJAPAN」の村上要編集長は「マイノリティーを自覚し、それでも恐れず、誇れる社会になればよい。“1%から見るファッション”を認め合うことが大事」と言う。1%を小さいと捉える向きもあるが、1%を確実に獲得できれば、それなりの規模のマーケットでブランドを確立できるのだ。

 本連載では常識にとらわれないアプローチで存在感を発揮しているアパレル業界の“革命者”たちの熱量の原点を探り、それをどのようにしてビジネスにつなげていったかを掘り下げていく。今回は前回に引き続き、ファッション業界紙「WWDJAPAN」編集長の村上要氏。

WWDJAPANの村上要編集長は1977年静岡県生まれ。東北大学教育学部を卒業後、静岡新聞社に入社。退職後は渡米して、ニューヨーク州立ファッション工科大学でファッション・コミュニケーションを学ぶ。現地でのファッション誌やライフスタイル誌の編集アシスタントを経験後、帰国。INFASパブリケーションズに入社し、2017年「WWDJAPAN.com」編集長に就任。21年4月、プリント、デジタルメディアを統括するWWDJAPAN編集長に就き、現在に至る
WWDJAPANの村上要編集長は1977年静岡県生まれ。東北大学教育学部を卒業後、静岡新聞社に入社。退職後は渡米して、ニューヨーク州立ファッション工科大学でファッション・コミュニケーションを学ぶ。現地でのファッション誌やライフスタイル誌の編集アシスタントを経験後、帰国。INFASパブリケーションズに入社し、2017年「WWDJAPAN.com」編集長に就任。21年4月、プリント、デジタルメディアを統括するWWDJAPAN編集長に就き、現在に至る

なぜ服が売れなくなったのか

 2017年、村上さんはWWDJAPANのウェブ媒体である「WWDJAPAN.com」の編集長に。その頃から、「担っている役割はファッション&ビューティー業界の裾野を広げること」と強く感じるようになった。業界の中に留まることなく、幅広い層に情報が届くことを意識している。編集長になり、手がけるテリトリーが広がったこともあるが、それ以上に、世の中の動きを見ていて、服が以前のように売れなくなってきている。それはなぜなのかを考えたことが大きかったという。

 「業界にいる僕たちが、特殊な存在と自覚することが大事」という村上さんの言葉にドキッとさせられた。そもそも皆が高額品に等しく興味を抱いているわけではなく、誰もがブランドものを着たいと思っているわけではない。「10万円もするコートを買ったり、30万円以上の時計を買ったり、カタカナのブランド名が普段の会話の中でたくさん登場するような人は、世の中のほんの一部にすぎない」と村上さん。かつてはトレンド=流行にのっていることがカッコ良さの一部を担っていた時代もあったが、今はそうではなくなっている。業界内の閉じた世界にいると、そういう事実を忘れがちなのだ。

 アパレルの周辺を取材していると、過去からのやり方を踏襲しているだけという企業は少なくないし、コロナが終われば元に戻ると考えている向きもある。しかし「この趨勢はコロナ以前から進んでいたことであり、逆行することはもはやない。世界に目を開いていれば、過去の成功体験は通用しない時代が迫りつつあることにもっと早く気づけたし、そこに向かって新しい試みを打てていたはず」と村上さん。時代はとっくに次のステージに向かっている。

 若手ファッションデザイナーを取材しているときに、「上の世代(そこには筆者の世代も入っている)が安穏としていたことが、私たちを取り巻く今の苦しい状況をつくっている」と言われたことを思い出した。反省する一方で、伝えていくべきことや、応援できることを考えねばと思ったのだ。「まだ伝えきれていないことがあるし、若い世代も含め、きちんと伝えるのが、ファッション&ビューティー業界の裾野を広げることにつながると思っています」という村上さんは、早くからそれを実践してきた。規模は大きくないものの果敢に道を切り開いている企業や強い志をもって前に進んでいるブランド、新世代のリーダーたちを、WWDJAPANは積極的に取り上げているのだ。

 「“伝える”というより“届ける”に近い感覚、ユーザーのライフスタイルや情報の消費の仕方を想像しています」と村上さんは言う。村上さんの言う「届ける」には、上から目線で「伝える」のではなく、こちらから歩み寄って渡す姿勢が感じ取れる。軽やかな口語体で、近しい人とおしゃべりしているような気安さがあること、業界特有の専門用語やカタカナ用語が少ないことなど、村上さん独特の文体は、そこを意識してのことと思い及んだ。

ヒエラルキーで欲望をかき立てていた時代の終わり

 昨今、アパレル業界の周辺には、明るい話題が少ないと感じる。「アパレル無用論」「百貨店衰退論」など、メディアからバッシングと思えるようなネガティブな指摘を受けることが増えている。これからの業界について、村上さんはどう見ているのか。

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