マザーハウス(東京・台東)はバングラデシュに自社工場を持ち、ものづくりから販売までを一貫して行っている。なぜか。代表兼チーフデザイナーの山口絵理子氏がやりたいのは良質なものづくりに取り組むことでバングラデシュの人を喜ばせ、顧客にも喜んでもらう。いわば“喜びの循環”をつくることにあったのだ。

 本連載では常識にとらわれないアプローチで存在感を発揮しているアパレル業界の“革命者”たちの熱量の原点を探り、それをどのようにしてビジネスにつなげていったかを探っていく。今回は前回に引き続き、「マザーハウス」の創業者で代表兼チーフデザイナーの山口絵理子氏。

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 その後のマザーハウスはメディア露出が増えて少しずつ広まっていったが、ここでまた次のハードルが見えてきた。「取り上げてくれるのは、もっぱら商品でなく私のことばかりでした」。途上国の恵まれない人を支援する、社会のために貢献するといったストーリーが前面に出ていて商品のことは後回し。買ってくれた顧客の反応も「貧しい国の人を助けたい」「何らかの社会貢献をしたい」という内容が多く、バッグに価値を感じて愛用している姿は見えてこない。これでは自分のやりたいことと違う。「商品で勝負できていない」と気づかされたという。

マザーハウス代表兼チーフデザイナーの山口絵理子氏。1981年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ワシントンの国際機関でのインターンを経てバングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程修了。2年後帰国し、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションとして、2006年にマザーハウスを設立。現在、途上国6カ国(バングラデシュに加え、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマー)の自社工場・提携工房でジュート(黄麻)やレザーのバッグ、ストール、ジュエリー、アパレルのデザイン・生産を行う。国内外41店舗で販売を展開(21年5月時点)。世界経済フォーラム「Young Global Leader (YGL) 2008」選出。ハーバードビジネススクールクラブ・オブ・ジャパン アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2012受賞
マザーハウス代表兼チーフデザイナーの山口絵理子氏。1981年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ワシントンの国際機関でのインターンを経てバングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程修了。2年後帰国し、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションとして、2006年にマザーハウスを設立。現在、途上国6カ国(バングラデシュに加え、ネパール、インドネシア、スリランカ、インド、ミャンマー)の自社工場・提携工房でジュート(黄麻)やレザーのバッグ、ストール、ジュエリー、アパレルのデザイン・生産を行う。国内外41店舗で販売を展開(21年5月時点)。世界経済フォーラム「Young Global Leader (YGL) 2008」選出。ハーバードビジネススクールクラブ・オブ・ジャパン アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2012受賞

 そもそも山口さんは、バッグデザインはもとより、ファッションやデザインにまつわる勉強や修業を一切せずに、ここまで進んできた。何とかやれてはきたが、さらに前進するためには、革を含めたバッグの専門的な知識と技術を身に付け、自分が最高と思えるバッグを作らなければならない。これと決めたらあらゆる手を尽くすのが山口さん流。バッグ職人のための学校に入り、修業に励んだ。

 そして目指したのは、飽きがこず、トレンドに左右されない、年代・世代を超えて愛用されるもの。確固たる独自性を持った商品だけが長く愛用してもらえると考えてのことだった。だが、それを形にするのは容易ではない。デザイン力や技術力だけでなく、バングラデシュの工場を動かす統率力も求められ、全エネルギーを注いで取り組んだ。

誇りを持って作ったものには命がある

 マザーハウスは2007年、東京・入谷に直営店をオープンし、顧客とじかに接する場をつくった。直営店ビジネスは家賃や販売員も含めてコストも労力もかかるが、ブランドの志やものづくりにまつわるストーリーを伝えられるし、顧客の反応や要望をダイレクトに受けられる。山口さんが大事にしてきた思いを実現するために必要なことだった。

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