「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を企業理念とするファッションブランド「マザーハウス」。その理念の背後には、創業者の山口絵理子氏がずっと抱えてきた「マイノリティーにも生きる価値はある」という思いがあった。
本連載ではこれまで、半年サイクルやセール前倒し、商品の同質化、デジタルシフトへの遅れなど、苦境に立たされているアパレル業界の問題点を指摘してきた。しかし、希望もある。鍵となるのは、常識にとらわれないアプローチで存在感を発揮しているアパレル業界の“革命者”たち。
今回からは、そんな革命者たちの熱量の原点を探り、それをどのようにしてビジネスにつなげていったかを探っていきたい。第1回は「マザーハウス」の創業者で代表兼チーフデザイナーの山口絵理子氏だ。
途上国から世界に通用するブランドをつくる
愛用しているころんとした形状のバッグ。角にゆるやかな丸みがついていて、見た目にやさしく持ち歩きやすい。青みがかったグレーの革使いが、控えめながら上品なたたずまいだ。本体と持ち手をつなぐパーツやファスナーの付け方などに、きめ細かい技が施されている。
これは2020年、「マザーハウス」で手に入れたもの。「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とするファッションブランドだ。製造から販売まで自社で行うことを主軸にし、セールを行わないなどアパレル業界の常識と異なるやり方をとっている。
店の前を通ったことは何度もあるのに、中に入って商品を手に取ったのは初めてだった。何となく敬遠していたのだ。理由をひもといてみた。
1つは、筆者がファッション業界に身を置くがゆえの先入観に染まっていたこと。エコやサステナブルといったエシカル(倫理的)なコンセプトとセンスや感度は同居しづらいという感覚があり、マザーハウスをその文脈でとらえていたのだ。
ひょんなことから創業者で代表兼チーフデザイナーの山口絵理子さんと会うことになり、事前に店を訪れて商品を手に取ってみたころ、センスも感度も備えていて、思い込みにすぎなかったと反省しきり。気に入って手に入れ、日々使うようになった。
もうひとつは「途上国のため」というメッセージが強過ぎると感じ、正論に対して斜に構える持ち前の性格が邪魔をしていたこと。マザーハウスのメッセージを“いかにも正論”ととらえてしまっていた。
ところが、山口さんの話に心が動いた。マザーハウスの企業理念の背後には、「マイノリティーにも生きる価値はある」という思いがあったのだ。「人と違うこと」や「多様な価値観」を尊重し、体当たりで実践してきた。そのうえで質やセンスを大事にしたものづくりにこだわり、価値を上げることにエネルギーを注いできたのだ。
幼少期に感じた「人と違ってはいけないの?」
「『人と違ってなぜいけないの?』と思う子で、“前へならえ”ができなかったんです」――。山口さんの口から飛び出した幼い頃のエピソードだ。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー