目的ありきであれば、EC(電子商取引)が圧倒的な優位。しかし、人は思いもかけないものに出合いたいと考えているし、そこに価値や意味を感じるものだ。それこそ、買い回りで生活提案できる百貨店の力の見せどころではないだろうか。

 秋冬物のセール時期に2度目の緊急事態宣言が重なったこともあり、主要百貨店各社の2021年1月の売り上げは前年同月比で概ね約2~3割減で終わった。お客がいなくて手持ち無沙汰にしている販売員の風情は、百貨店が今置かれている状況を映し出している。

 前回は百貨店のルーツを遡り、そもそもの強みはどこにあったのかに触れた。消費者から見た百貨店の価値は、“半歩先を行く新しさ”と“上質で豊かな暮らし”を提案してくれるところにあった。90年代に入ってバブル経済が崩壊するまでは、日本の百貨店は国内に限らず、世界レベルから見ても抜きんでた先見性を持ち、強みを存分に発揮してきた。それが平成不況あたりをターニングポイントとして、徐々に弱まってきた。右肩上がりだった売り上げが前年割れするようになり、新しいことに挑戦する余裕と気概が少しずつなくなっていったのだ。

 筆者がもったいないと感じるのは、70年代から百貨店が標榜してきたライフスタイルの提案だ。“上質で豊かな暮らし”は、これからより強く求められてくるものの1つだから。百貨店にはアパレルや化粧品から生活雑貨や食品まで、ラグジュアリーブランドから国内ブランドまで、そして大御所ブランドから新進気鋭のブランドまでそろっている。これだけの幅と奥行きで品ぞろえしている業態は、百貨店以外にはなかなかない。コロナ禍においても、家具や雑貨が好調な動きを示していると聞く。分野を超えて売り場を編集することで、独自のライフスタイル提案を行える可能性は大いにあると思うのだ。

 なのに、ここ数年の百貨店の売り場を振り返ると、ライフスタイルを提案しているようには見えない。かえって後退してしまった感さえある。何がそれを妨げているのか。

 理由はいくつか考えられるが、大きいのは旧態依然とした組織の在り方だ。百貨店の組織は基本的にフロア別、商品カテゴリー別に分かれていて、そこを横断して何かを行うのは難しい。どの組織にもありがちなことだが、もともと意味があって分化してきた組織が、いつの間にか縦割りの壁としてたちはだかっている。この組織形態が時代にフィットしていないこと、硬直化していることに気づいてはいるものの、根本的な改革をするには至っていない。

 それを象徴するのが、売り場構成だろう。1階は服飾雑貨と化粧品、2階から3、4階くらいまでが婦人服、その上階が紳士服、さらにその上階がインテリア雑貨、そして地下1階は食品といった区分と構成がほとんどの百貨店で何十年も変わっていないのである。それが利用客の安心感につながっているとも言えるが、悪く言えば今のライフスタイルとはずれた区分になっている。

 その中で売り上げ効率が重視され、化粧品売り場が婦人服売り場にも広がっている一方、独自の視点でセレクトした商品を置く「自主編集売り場」などは縮小あるいは廃止される傾向に。リビングや趣味関連のフロアも縮小され、ファストファッションや大型家電店に取って代わられている。

 そういった意味では売り場構成が改編されてはいるのだが、分野を超えてライフスタイルを提案する売り場はほとんどない。例えば化粧品売り場を広げるにあたり、いっそのことアパレルと化粧品を編集し、ミックスした売り場をつくる。そんな可能性もあると思うのだが、同じフロア内で婦人服と化粧品が同居しているだけに見える。

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