日本の百貨店の価値は“時代の半歩先を行く新しさ”と“上質で豊かな暮らし”を提案するところにあり、買い物という行為そのものを変える画期的業態だった。しかしバブル崩壊後、それまで世界の最先端を行っていた百貨店に“上質さ”を提案する余裕はなかった。
百貨店の未来について、明るい話題を耳にすることがめっきり減った。大手アパレル企業の中には、百貨店の売り場を減らしてECに注力するところが後を絶たないし、地方の百貨店が閉店というニュースも次々と報じられている。事実としてはそうなのだが、百貨店の存在意義を問うような極端な意見もあり、どこか居心地の悪さを感じる。
なぜなら、日本の小売業やブランドビジネスを語るにあたり、百貨店が果たしてきた役割は外せないからだ。アジアだけでなく欧米も含め、他国に与えた影響も小さくない。また、アパレル業界に限らず、衣食住にまつわる“百貨”がテリトリーであることから、百貨店というブランドが他産業へ及ぼしてきた影響は見逃せないものがある。
百貨店の魅力はどこにあったのか。なぜそれが弱まってしまったのか。そして、復活する可能性があるのかについて考えてみたい。
“半歩先行く新しさ”と“上質で豊かな暮らし”が価値
消費者から見た百貨店という業態の強みは、“時代の半歩先を行く新しさ”と“上質で豊かな暮らし”を提案するところにあった。「わくわくドキドキがある」「何か新しいものに出合える」など、心動かす驚きや発見がある。時代に先駆けた“夢”を、商品のセレクトや売り場作り、接客を通して描いてくれる。自分が何となく抱いている潜在的な欲望をかたちにし、目の前に差し出してくれる場だったのである。
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