1854年、パリにある1軒の旅行かばん専門店からスタートしたルイ・ヴィトンはいかにして世界的ラグジュアリーブランドになったのか。そこには卸ビジネスから直営店ビジネスへ、バッグブランドからファッションブランドへという大きな戦略的転換があった。

 「ルイ・ヴィトン」をはじめ、「クリスチャン・ディオール」「フェンディ」など、数々のラグジュアリーブランドを傘下に持つ仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(以下、LVMH)が2020年10月29日、米宝飾品大手ティファニーの買収で合意したと発表した。

 この巨大なラグジュアリーブランドグループを率いているのは、ベルナール・アルノー氏。ファッション業界におけるラグジュアリーブランドの今を築いたと言っても過言ではない。今回はルイ・ヴィトンを例に、ラグジュアリーブランドビジネスの変遷に触れていく。送り手である業界にとっても、受け手である消費者にとっても、ファッションの一翼を担う重要な存在だからだ。

直営店戦略でビジネスが一気に拡大

 ルイ・ヴィトンの始まりは、創業者であるルイ・ヴィトンが1854年、パリに旅行かばん専門店を構えたことにある。主に貴族層に向け、高度な職人技を用いた旅行かばんを提供する。それがルイ・ヴィトンの原点だった。

 その後、産業革命で富を築いたブルジョワ層の顧客が増え、手がける商品も旅行かばん以外のバッグに拡大。高級ブランドしての地位を築いていった。そして、ルイ・ヴィトンを象徴するLとVの文字を組み合わせた「モノグラム」が1896年に登場。これがブランドと切っても切り離せないアイコン的存在となっていったのである。

 第2次世界大戦後、時代が大きな転換期を迎える中、ルイ・ヴィトンは高級ブランドビジネスの先駆けとなる新しい戦略に打って出た。1970年代から直営店ビジネスに大きく舵(かじ)を切ったのだ。これによって「限られた場所で手に入れられる高級ブランド」というポジションを築くとともに、直営販売によって利益率を上げることができた。

 80年代にはさらなるビジネス拡大を図ろうと、シャンパンで名高い「ヴーヴ・クリコ」と合併した。ルイ・ヴィトンとヴーヴ・クリコは歴史と伝統をもつ、フランスを代表する高級ブランドという共通項を持ちながら、領域は異なる。異なる領域の企業と組むことで業容の幅と奥行きを広げたのだ。さらに87年には、コニャックやシャンパンを主体としたモエ・ヘネシーと合併し、LVMHとなった。

ルイ・ヴィトンを象徴する「モノグラム」
ルイ・ヴィトンを象徴する「モノグラム」

バッグブランドからファッションブランドへ

 そして次なる手を打とうというタイミングで、ルイ・ヴィトンに強い関心を持っていたアルノー氏に買収を仕掛けられたのだ。LVMHとアルノー氏の間で壮絶な戦いとなり、業界内外から大きな注目を集めた。89年、LVMHはアルノー氏の掌中に。アルノー氏の指揮に取って代わったルイ・ヴィトンは、ファッションブランド化戦略に踏み込んだのだ。

 著名で力のあるファッションデザイナーを起用し、ブランドの顔として売り込むプロモーションを行う。年2回行われるパリ・コレクションに参加し、話題を呼ぶ内容にする。デザイナーの力量あってこそ、コレクションショーは評価を得て人気を呼ぶのだが、これも、戦略的な販促活動の一環として活用する。ルイ・ヴィトンの取った戦略は巧みだった。半年に1回、パリコレという華やかな舞台で新商品を発表することによって、知名度と注目度を上げ、付加価値を高めようとした。

 それとともに、ファッション業界のサイクルをバッグに取り入れた。アパレルと一緒に新作のバッグを発表することで、半年前のものは古いモデルであり、次のコレクションに新しい価値がある。そういうメッセージを発信し、バッグへの購買意欲をかき立てた。服はもとより、バッグも靴も香水も「流行の最先端であることが付加価値である」と強烈に発信し続けることで、半年ごとに消費しては次の流行に移っていくファッションの歯車を、ブランドづくりに生かしたのだ。

 これが成功を収めることで、他の高級ブランドもファッションビジネスに参入するようになる。「ロエベ」「ボッテガ・ヴェネタ」といった、バッグなどのレザーグッズをルーツにしているブランドがファッション性を強化した発信を行うようになり、業界の大きなうねりを成していった。

 そしてLVMHを筆頭に、大資本がラグジュアリーブランドを取り巻くビジネスを仕切るようになり、もともと独立系だったブランドが次々と大資本グループに買収され、巨大な勢力を競うようになった。

ラグジュアリービジネスは企業グループ間の競争に

 今や多くのブランドが創業一族の手を離れ、ファミリービジネス=家業ではなくなってしまった。その中には、高田賢三が興した「ケンゾー」のように、自分の名前を冠しているにもかかわらず、デザイナーのポジションを明け渡すケースも出てきた。

 大きな資金力を持ったブランド企業グループは、ブランドの価値を測ってさらなる利益を生み出す余地ありと判断すれば、あらゆる手を使って買収する。そして、付加価値化によって利益拡大を図る。ブランド間の苛烈な競争のもと、ビジネス拡大にしのぎを削るようになっていった。

 具体的には、ブランドロゴを前面に出した商品を次々と出す。アーティストやセレブリティーとのコラボ商品を数量限定で発売する。よりコストの低い国でつくるなど、生産の効率化を図る。ラグジュアリーなイメージのある高額な商品とともに、リーズナブルな商品を用意する。憧れる層が少し背伸びすれば買うことができる商品を組み込むことで、ブランドの新規顧客を獲得するためだ。さらに、ラグジュアリー感を演出するために、俳優やモデルなどを使った広告を大々的に行い、ブランドストーリーを発信する。こういった策を次々と打っていくのである。

 老舗ブランドは伝統という枠組みにとらわれ、新しいことに挑戦する気風が弱まってくる場合がある。抜群の品質のものをつくり、顧客から信頼を寄せられてきたブランドが、時代に取り残されてしまうのだ。

 ファミリービジネスを続けてきたブランドの中にも、古いビジネスを踏襲しているだけでイメージも売り上げも下降気味というところがある。“守り”続けるだけで、時代の変化を読み切れなかった。もっと言えば、今の消費者が求めるものを、“攻め”として送り出せなかった。そういったブランドが大企業グループの傘下に入ることで、時代にフィットした若々しいイメージに生まれ変わることは少なくない。ルイ・ヴィトンは大企業グループの緻密なマーケティング戦略のもとで成長した。そんな見方もできるだろう。

 だが、大企業グループの下ではファミリービジネスの良さが薄まってしまう危険性もある。一度なくなったものは、再び取り戻そうと思っても簡単にはできないのである。次号では、そのあたりの事情をひもといてみようと思う。

(写真/Shutterstock)

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