国内出張するため、久しぶりに東京駅を訪れた。新店も含めて無数の店が軒を連ねている。ただ多いこともあるのか、それぞれ知恵を絞って差異化を図っているようなのに、よく見ても違いが分かりづらい。同質化しているのは、アパレルだけでなく、他業界でも同様と感じた。

(写真/Shutterstock)
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 アパレルの同質化について、前回は消費者が多様化を求めているのに、業界がそれに応じきれていないことに触れた。なぜなのか。

 要因の1つは、バブル崩壊を機に東日本大震災、リーマン・ショック、そしてコロナ禍と厳しい状況が続く中、リスクを避けるため、手堅い商品に偏るようになってきたことが挙げられる。今の延長線上に見えている売れ筋を作り、ある程度の売り上げを確保し、前年割れを食い止めようとした。それが負に働いたのだ。

 そもそもファッションには、寒暖の調節やビジネスシーンへの対応といった“コモディティー”としての側面と、自己を表現する“アイデンティティー”的な側面がある。前者の典型的な事例は「ユニクロ」だろう。ユニクロは良質な服を低価格で展開しているが、高品質の服を相応の価格でという方向性もコモディティーに含まれる。

 一方、アイデンティティーには「こんなものが欲しかった」「思いがけない自分を引き出せた」「着てみたいとワクワクした」という、いわば人の感性に働きかける要素が含まれる。機能性というより、デザインという創造性が問われる領域と言える。

 多くのアパレル企業の前に立ちはだかる壁は、このコモディティーとアイデンティティーのどちらにおいても、独自の価値を打ち出せていないところにある。