コクヨIoT文具「しゅくだいやる気ペン」が高額でも売れる理由(画像)

小学校の低中学年を狙ったコクヨのIoT文具「しゅくだいやる気ペン」が好調だ。加速度センサーを内蔵した機器を市販の鉛筆に取り付けて使い、振動回数などからアプリで勉強への取り組みを“見える化”。6980円(税込み)で年間約1万台を販売した。アプリをストーリー仕立てのゲームにしてゴールを設定し、親が褒めるきっかけづくりにしたことが、子供のやる気に結び付いた。

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「しゅくだいやる気ペン」は、市販の鉛筆に機器を取り付けるだけで済む
「しゅくだいやる気ペン」は、市販の鉛筆に機器を取り付けるだけで済む

 インターネットと連動させるIoT機器として、最近は歯ブラシなどが出てきている。加速度センサーを内蔵した機器を歯ブラシに取り付け、歯ブラシを持った手の動きを検知。スマートフォンの専用アプリでデータを把握し、正しい歯磨きにつながっているかどうかを判断するというものだ(関連記事: アスクルがライオン「IoT歯ブラシ」のデータ活用を支援)。

やる気パワーがたまるとLEDが10段階で発光。やる気を“見える化”している
やる気パワーがたまるとLEDが10段階で発光。やる気を“見える化”している

 しゅくだいやる気ペン(以下、やる気ペン)も、考え方や構造はほとんど同じ。市販の鉛筆に機器を取り付け、鉛筆を持った手の動きを検知することで、勉強に取り組んでいる姿勢を独自のアルゴリズムでデータ化。やる気として表現している。具体的なアルゴリズムは明らかにしないが、手の動きや時間などに基づくようだ。

 他社のIoT機器と大きく異なる点は、データをどうやって小学生のやる気につなげているかにある。単に子供を追い込むだけでは、やる気は出てこないし、親子の関係は悪化するばかりだろう。そこで「親が子供を褒めるためのコミュニケーションツール」として全体の仕組みやアプリをデザイン。親子のコミュニケーション向上が、子供のやる気につながる、と考えた。

 「当社としてもIoT文具は初めての経験。テクノロジーはIoT歯ブラシなどと同じだと思うが、子供のやる気を育てるための“体験のデザイン”に力を入れた」と、開発を手掛けたコクヨ事業推進センターネットソリューション事業部ネットステーショナリーグループグループリーダーの中井信彦氏は言う。体験のデザインとはプロダクトやグラフィックと異なり、新しい体験をユーザーに味わってもらうように仕掛けを考えること。やる気を見える化し、努力すれば報われることを子供に体験させようとした。

 例えば、やる気ペンで勉強を続けると「やる気パワー」が蓄積され、機器のLEDの色が変化する。緑や赤、青と10段階でやる気が見えるようになる。やる気ペンをスマホのアプリに注ぐようにかざせば、やる気パワーに応じて画面の木が成長してりんごの実が育っていく。さらに実の数によってアプリ内のキャラクターが力を得て、すごろく形式の「やる気の庭」を進むというゲームも用意。全18ステージがあり、やる気に応じて途中でさまざまなアイテムを収集でき、ゴールに達すれば親から「ごほうび」をもらえるようにしている。子供はもっと勉強をやりたくなるという。

 やる気の状況は毎日、アプリ画面のカレンダーにも表示される。親は 勉強の進み具合を確認でき、ゴールの達成以外にも、褒めるポイントを発見しやすくなった。2019年7月に発売後、同年10月に実施したユーザーへの調査では「家庭学習のサポートになった」と84%が回答した他、「子供を褒める機会が増えた」は72%になるなど好評だった。

当初は子供の見守りツールとして開発した

 開発プロジェクトは16年夏にスタート。当初は単にIoTで何かできないか、という期待から始まり、子供向け市場は想定していなかった。メンバーはオフィス文具をIoTにすると何ができるかを議論。はさみやホチキス、カッターのIoT化など幅広く考えた。このうちの1つが筆記具だった。

 一方で、共働き世帯の増加という社会の動きから、子供の見守り需要が増加すると判断。筆記具をIoT化することで、子供が勉強している様子を親がスマホで見守れる機能を付けようとした。だが、試作品を作ってユーザーに調査した結果、需要がほとんどないことが分かったという。見守るより、むしろ子供の教育に積極的に関わりたいと望んでいる親が多かった。

しゅくだいやる気ペンのパッケージと、機器に鉛筆を組み込んだ状態。価格は価格6980円(税込み)で、自社ECサイトやAmazonで販売している
しゅくだいやる気ペンのパッケージと、機器に鉛筆を組み込んだ状態。価格は価格6980円(税込み)で、自社ECサイトやAmazonで販売している

 中井氏は、IoT化した筆記具で一番幸せになるユーザーは誰かと考えた。すると浮かんできたのは子供たちだった。今まで親のほうに目線を向けていたが、子供のほうに思い切ってシフト。ペンをスマホにかざすと数字が出るといった簡単なアプリを先に開発してユーザー調査したところ、子供たちは笑顔で操作していた。これで開発の方向性が決まったという。やる気ペンのハードも重要だが、まずはアプリをしっかりと開発し、勉強が楽しくなるようにした。「アプリを重視して全体を開発するというスタイルは今までなかった。これまでの開発プロセスでは、ハードが中心でアプリは最後だったから、考え方の大転換だった」(中井氏)

たまったやる気パワーをアプリ画面に“注ぐ”と、木が成長してりんごの実ができる仕掛けを盛り込んだ。ストーリーやゲームは、クリエイティブ集団のワントゥーテン(京都市)と開発
たまったやる気パワーをアプリ画面に“注ぐ”と、木が成長してりんごの実ができる仕掛けを盛り込んだ。ストーリーやゲームは、クリエイティブ集団のワントゥーテン(京都市)と開発
たまったやる気に応じてアイテムをもらえる、すごろく形式のゲーム。楽しく勉強できるようになる
たまったやる気に応じてアイテムをもらえる、すごろく形式のゲーム。楽しく勉強できるようになる

 開発途中ではクラウドファンディング「READYFOR」も活用。やる気ペンについて、料金を払っても意見を言いたい親子を募集した。少数でいいから本気の意見が欲しかったという。試作品を見せたところ、「着眼点はいいけど、子供が長続きしないのでは」という疑問が出てきた。そこでさまざまなゲームを試行し、最終的にすごろく形式にしたという。すごろくにすれば、ゴールに向けて子供は喜んで勉強する。ゴールの「ごほうび」は親が考える。「家族で水族館に行く」といった「ごほうび」を設定すれば、親子のコミュニケーションはますます深まり、子供のやる気も高まるだろう。「やる気ペンは、子供が使うと自然にやる気が出てくるような“魔法のつえ”ではない。親が子供を褒めることでやる気が出てくるため、親がいかに子供をフォローできるかが問われる」(中井氏)

親もやる気の状況を把握できるため、子供をほめやすくなるという
親もやる気の状況を把握できるため、子供をほめやすくなるという
 20年6月にはやる気の庭に、新たなステージ「スペシャルの庭」を追加した。スペシャルの庭では、さまざまな分野で活躍している“やる気の達人たち”とコラボレーションをして、達人らが熱中している世界をすごろく形式にした。子供に知識だけではなく、未知の世界に向き合うわくわく感や、広い世界に飛び出して自ら学ぶことの楽しさを感じてもらえるようにした。第1弾として、JAMSTEC(海洋研究開発機構)とコラボ。海と地球の探求をテーマとした「うみのふしぎの庭」をつくった。海底を探検し、海の環境問題や深海生物、地球内部の不思議な体験を得られるようにしている。今後ともステージを増やし、子供のやる気を育てていく。

(写真提供/コクヨ)