当初は子供の見守りツールとして開発した

 開発プロジェクトは16年夏にスタート。当初は単にIoTで何かできないか、という期待から始まり、子供向け市場は想定していなかった。メンバーはオフィス文具をIoTにすると何ができるかを議論。はさみやホチキス、カッターのIoT化など幅広く考えた。このうちの1つが筆記具だった。

 一方で、共働き世帯の増加という社会の動きから、子供の見守り需要が増加すると判断。筆記具をIoT化することで、子供が勉強している様子を親がスマホで見守れる機能を付けようとした。だが、試作品を作ってユーザーに調査した結果、需要がほとんどないことが分かったという。見守るより、むしろ子供の教育に積極的に関わりたいと望んでいる親が多かった。

しゅくだいやる気ペンのパッケージと、機器に鉛筆を組み込んだ状態。価格は価格6980円(税込み)で、自社ECサイトやAmazonで販売している
しゅくだいやる気ペンのパッケージと、機器に鉛筆を組み込んだ状態。価格は価格6980円(税込み)で、自社ECサイトやAmazonで販売している

 中井氏は、IoT化した筆記具で一番幸せになるユーザーは誰かと考えた。すると浮かんできたのは子供たちだった。今まで親のほうに目線を向けていたが、子供のほうに思い切ってシフト。ペンをスマホにかざすと数字が出るといった簡単なアプリを先に開発してユーザー調査したところ、子供たちは笑顔で操作していた。これで開発の方向性が決まったという。やる気ペンのハードも重要だが、まずはアプリをしっかりと開発し、勉強が楽しくなるようにした。「アプリを重視して全体を開発するというスタイルは今までなかった。これまでの開発プロセスでは、ハードが中心でアプリは最後だったから、考え方の大転換だった」(中井氏)

たまったやる気パワーをアプリ画面に“注ぐ”と、木が成長してりんごの実ができる仕掛けを盛り込んだ。ストーリーやゲームは、クリエイティブ集団のワントゥーテン(京都市)と開発
たまったやる気パワーをアプリ画面に“注ぐ”と、木が成長してりんごの実ができる仕掛けを盛り込んだ。ストーリーやゲームは、クリエイティブ集団のワントゥーテン(京都市)と開発
たまったやる気に応じてアイテムをもらえる、すごろく形式のゲーム。楽しく勉強できるようになる
たまったやる気に応じてアイテムをもらえる、すごろく形式のゲーム。楽しく勉強できるようになる

 開発途中ではクラウドファンディング「READYFOR」も活用。やる気ペンについて、料金を払っても意見を言いたい親子を募集した。少数でいいから本気の意見が欲しかったという。試作品を見せたところ、「着眼点はいいけど、子供が長続きしないのでは」という疑問が出てきた。そこでさまざまなゲームを試行し、最終的にすごろく形式にしたという。すごろくにすれば、ゴールに向けて子供は喜んで勉強する。ゴールの「ごほうび」は親が考える。「家族で水族館に行く」といった「ごほうび」を設定すれば、親子のコミュニケーションはますます深まり、子供のやる気も高まるだろう。「やる気ペンは、子供が使うと自然にやる気が出てくるような“魔法のつえ”ではない。親が子供を褒めることでやる気が出てくるため、親がいかに子供をフォローできるかが問われる」(中井氏)

親もやる気の状況を把握できるため、子供をほめやすくなるという
親もやる気の状況を把握できるため、子供をほめやすくなるという
 20年6月にはやる気の庭に、新たなステージ「スペシャルの庭」を追加した。スペシャルの庭では、さまざまな分野で活躍している“やる気の達人たち”とコラボレーションをして、達人らが熱中している世界をすごろく形式にした。子供に知識だけではなく、未知の世界に向き合うわくわく感や、広い世界に飛び出して自ら学ぶことの楽しさを感じてもらえるようにした。第1弾として、JAMSTEC(海洋研究開発機構)とコラボ。海と地球の探求をテーマとした「うみのふしぎの庭」をつくった。海底を探検し、海の環境問題や深海生物、地球内部の不思議な体験を得られるようにしている。今後ともステージを増やし、子供のやる気を育てていく。

(写真提供/コクヨ)