
三菱鉛筆は、全40色展開の水性サインペン「EMOTT(エモット)」や、超極細の油性ボールペン「JETSTREAM EDGE(ジェットストリーム エッジ)」の売れ行きが好調だ。いずれも機能性だけでなく、デザイン性を高めたシリーズでユーザーの支持を集めている。デザインに注力した背景や狙いについて、三菱鉛筆の数原滋彦社長に聞いた。
三菱鉛筆 代表取締役社長
2019年発売の「EMOTT(エモット)」や「JETSTREAM EDGE(ジェットストリーム エッジ)」が好調ですね。いずれもデザイン性の高さが際立ちます。こうした商品を開発した背景から教えてください。
私たちは創業当時から、技術に関する研究開発に投資してきました。日々の研究によって、滑らかな書き味の油性ボールペン「ジェットストリーム」をはじめ、芯が回って先がとがり続けるシャーペンシル「クルトガ」などが誕生し、おかげさまで大変多くのお客様に愛用いただいています。ただ、近年は機能的価値のみを訴求しても、以前ほどお客様に響いていない印象があります。それは、文具市場が成熟し、機能性の高い筆記具が充足されてきたからでしょう。
技術に関する研究開発は、これまで通り継続していきます。書き心地の良さや使いやすさといった機能的な価値の高さは、三菱鉛筆ブランドの根幹だからです。ただ、どれほど機能的価値を高めても、購入して使ってもらわなければ実感してもらえません。選ばれる文具になるために、お客様の心を動かすデザインやストーリーなど「情緒的価値」を付加することも必要だと感じています。
鍵になるのはストーリー
情緒的価値を付加する理由は、業績が低迷しているといった経営的な理由もあるのでしょうか。
経営的な数字の判断からではありません。市場の成熟や少子化、ECの台頭によるBtoB需要の縮小、デジタル化の加速による鉛筆やペンのニーズが減少する可能性など、将来に対する危機感を複合的に持っているからです。そもそも進化のためには、常に新しいチャレンジは必要だと思っています。
売り上げについては、今年は新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って伸び悩んでいますが、19年までは特に問題はありませんでした。売り上げや出荷数のピークは、00年頃。それと比較すると近年の数字は確かに落ちていますが、利益水準が最も高かったのは4年前です。
00年頃まで筆記具以外の文具や雑貨を扱っていたのですが、筆記具に特化する戦略に切り替えたことが奏功しています。リーマンショックや地震などの自然災害があっても、経営に影響するほどの大きな打撃を受けていません。企業体質が筋肉質になったとも言えるでしょう。
私たちの商売は単価が安いので、1つの商品がヒットしても、いわゆる「V字回復」は難しい。ジェットストリームも今では経営の柱となっていますが、今年で発売から14年。基幹商品を育てるのには時間がかかるものなのです。エモットやエッジが売れているといっても、まだ経営を左右するような段階ではありません。だからこそ、種をまくようにいくつも丁寧に商品を育てる必要があるんです。
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