成功が客を呼ぶ カスタマーサクセス

BtoB(企業向け)事業者から広まったカスタマーサクセスという新しいマーケティングの概念は大企業にも広まりつつある。丸井グループやタニタといった先進企業は、カスタマーサクセスの専門部署を設置した。カスタマーサクセスという新しい文化を全社的に浸透させ、LTV(顧客生涯価値)経営へと転換を図ろうとしている。

丸井グループはLTV(顧客生涯価値)経営実現に向け、2018年にカスタマーサクセス部を設置した
丸井グループはLTV(顧客生涯価値)経営実現に向け、2018年にカスタマーサクセス部を設置した

 デジタル技術を活用した「売らない店」を標榜する店舗改革など、従来の小売業からのモデル転換を進める丸井グループ。同社が目指すのはリカーリングレベニュー(継続的収入)を収益の柱とした「LTV経営」の実現だ。これまでの小売業は店舗に来店した顧客に商品を販売する、売り切り型モデル。売り上げは来店客数などに左右されるため、将来の収益予測が立てにくかった。丸井はここから脱却を図ろうとしている。

前回(第2回)はこちら

 丸井におけるリカーリングレベニューはBtoB(企業向け)とBtoC(消費者向け)に分けられる。BtoBに当たるのは小売事業だ。来店者への販売ではなく、テナントからの収益を指す。2015年3月期より、従来の百貨店型からショッピングセンター型への転換を進めることで、テナントから継続的な賃貸収入を得られるように収益構造を変えた。19年3月期に全店で転換が完了。BtoBのリカーリングレベニューは大きく増加した。

 一方、BtoCでは主に金融事業がこれに当たる。丸井が発行するクレジットカード「エポスカード」が主事業だ。カード事業では家計シェア最大化戦略を掲げ、家賃や光熱費など定期的に生じる支払いにエポスカードの利用を促してきた。例えば、18年から大手不動産会社のエイブルと共同で、丸井グループ子会社のエポスカードが家賃保証をするサービスを展開。カード会員数688万人のうち、18万人が利用している。定期的に生じる支払いに利用してもらうことで安定的に手数料を得られるため、疑似的なサブスクリプションとして機能している。こうした取り組みが奏功し、カード1枚当たりの収益は6500円と、他社に比べて2.7倍という。

 これらを合算すると、20年3月期のリカーリングレベニューは前年同期比7%増の1311億円となり、売上総利益に占める割合は65.3%に達した。このようなリカーリングレベニューを積み上げることで、成長スピードを加速させる経営の模範がSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)事業者だ。SaaS事業者は安定した収益基盤を基に、サービスや製品を開発し独自性を強めることで、顧客との関係性を強固なものとしてLTVを高めている。丸井の手本はSaaSなのだ。

 特集の第1回でも解説した通り、SaaSの成長にカスタマーサクセスは欠かせない(関連記事「客がやめない「成功体験」のつくり方 サブスク継続率95%の秘密」)。LTV経営の実現を目指す丸井グループがカスタマーサクセス部を設置するのは必然だった。18年10月に青井浩社長直下の組織としてカスタマーサクセス部を設置。経営企画部長の相田昭一氏が部長を兼務する。同部の業務は、主にBtoC事業を対象としている。

丸井グループが描くカスタマージャーニーの理想像。小売りと金融を組み合わせることで、顧客と長期的な関係を築きLTVを増加させることを目指す
丸井グループが描くカスタマージャーニーの理想像。小売りと金融を組み合わせることで、顧客と長期的な関係を築きLTVを増加させることを目指す

 上図は丸井が描く理想的なカスタマージャーニー(顧客が時系列にたどるサービス利用のプロセス)だ。来店をきっかけに、エポスカード会員に登録してもらう。家賃保証サービスなど、定期的な支払いなどにエポスカードを利用してもらい、リカーリングレベニューを高める。さらに資産形成サービスなどの利用を促進し、関係性をより強めていく。こうしたステップを踏み、長期にわたる関係性を築く上で、「顧客の幸せな生活の実現」を成功と定義し、伴走するカスタマーサクセスが重要になると考えた。

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