成功が客を呼ぶ カスタマーサクセス

主にBtoB(企業向け)で広がってきたカスタマーサクセスはBtoC(消費者向け)でも不可欠なものになりつつある。生鮮宅配のオイシックス・ラ・大地や、英語教育アプリを展開するリクルートマーケティングパートナーズ(東京・品川)は、カスタマーサクセスの分析手法を取り入れつつ、丹念な調査で利用者の声を取り入れ、継続率を高めている。

オイシックス・ラ・大地が提供するミールキット「Kit Oisix」。レシピを参照しながら主菜と副菜の2品を調理できる
オイシックス・ラ・大地が提供するミールキット「Kit Oisix」。レシピを参照しながら主菜と副菜の2品を調理できる

 新型コロナウイルス感染症拡大による影響で大きく伸びているのは「自宅で楽しむ」需要だ。その需要を取り込んだ製品の1つが、オイシックス・ラ・大地が提供するミールキット「Kit Oisix」だ。パック内には、カットされた野菜のほか肉や調味料が入っており、レシピを参照しながら主菜と副菜の2品を20分で調理できる。2020年4~6月期には、新型コロナの影響で1カ月ほど新規顧客の受け付けを停止したにもかかわらず、Kit Oisixコースの会員数は16万、売り上げ食数は526万。前年同期比でそれぞれ約25%、33%増となった。

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「Kit Oisix」のパッケージ。野菜のほか卵、豆腐、調味料などをセットにしている
「Kit Oisix」のパッケージ。野菜のほか卵、豆腐、調味料などをセットにしている

 ミールキットはカスタマーサクセスの実現に主眼を置いて作られた商品だ。発売は13年。仕事と子育てを両立しながら、スーパーへ買い物に行き、献立を考え、料理をするための時間がなかなか確保できない。そんなユーザーでも「おいしい料理を作るだけでなく、家族とゆっくり話し、コミュニケーションを取る豊かな時間を生み出すことを会社として目指してきた」とオイシックス・ラ・大地 執行役員CMT(チーフ・マーケティング・テクノロジスト)の西井敏恭氏は話す。顧客に提供する「成功の定義」を形にするためにミールキットを開発したという。

 それでも「発売から1~2年は一部の顧客から強い支持を受けていたものの、広く魅力が伝わっていなかった」(西井氏)。そうした場合、通常なら広告を打つことで認知の拡大を狙うが、「今は広告で価値観をつくるのがとても難しい時代になった」と西井氏。ネット上であらゆるものが比較できるため、価格や野菜の栄養素といった項目を広告でアピールしても、競合が対抗してきたら差異化はしづらい。

 そこで同社は、カスタマーサクセスの強化に軸を据えた。「BtoBサービスでいわれていることだが、営業の代理店に値段や機能の良しあしで星を付けてもらっても、結局どのサービスがいいかは分からない。どれだけカスタマーサクセスが実現できたかという評判が決め手になる。消費行動も同じだ」(西井氏)

 ミールキットで新しい価値観を提供し、顧客の成功である家族で食事をする豊かな時間を生み出すために、ユーザーへの綿密なヒアリングを実行し、地道な改良を繰り返してきた。そのためには利用者にネットでアンケートを取るだけでなく、直接コンタクトを取って同社の本社に来てもらう、あるいは同社の社員が自宅に訪問してじっくりと話を聞いたという。

 最近では新型コロナウイルス感染症流行の影響でZoomなどWeb会議でのヒアリングが増えている。「午前中に3人、午後は3人という形で日常的にユーザーへのインタビューを実施している」(西井氏)。熱狂的なファンだけでなく、1回利用しただけで使わなくなった人に理由を聞くことも多い。

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