
カスタマーサクセスはBtoBのサブスクリプション型サービスを発展させるための手法として広がった。草分け的存在は米セールスフォース・ドットコムだ。各種取り組みの中でも、受注商談金額で2倍以上の差を生み出すというユーザーコミュニティーの活性化に力を入れる。
セールスフォースは1999年の創業当時から、同社が提供する価値の1つとして「カスタマーサクセス」を掲げている。2004年には専門部署を立ち上げ、独自のカスタマーサクセスの取り組みを推進してきた。
その中でも特に力を入れているのは、ユーザーコミュニティーの構築だ。受注商談金額は2.5倍大きく、製品活用度は33%以上、顧客離れは25%削減――。世界のユーザー内で、同社コミュニティーに積極的に参加している企業と、ある一定期間コミュニティーへのログインがない企業の差を比べた数値だ。日本国内でも活動は活発で、セールスフォースが運営する20の分科会のほか、ユーザーが独自で結成した21のグループが存在し、それらのグループを率いるコミュニティリーダーが全国100人以上いる。
毎月15回以上は国内各地でイベントが開催され、メンバーが知識やノウハウを共有する。各企業での導入事例を発表するコンテストも毎年開催している。全国8カ所で予選会を実施し、40社以上が出場する。
共感を生む事例コンテスト
「社長から成果が出ないじゃないかといわれ、地獄のような日々でした」。そんな生々しい活用のエピソードが発表されたのは、8月末に開催されたセールスフォースの全国活用チャンピオン大会「SFUG CUP 2020」。オンライン会議の画面を通して、予選を勝ち抜いた6人が、各社の活用法やその成果をプレゼンした。
「社長にかけあい、ツールを構築する担当者を加えてもらうと、社内の活用が一気に進みました」「カレンダーツールとの連携でスケジュール構築を自動化しました」「現場のことが分かっていないといわれましたが、営業部の中で担当者を立ててナレッジで共有してもらいました」。登壇する発表者が活用法を披露すると、コメント欄には「経営者の理解、大切だよね」「カレンダー便利ですね」「分かりすぎます」「わたしもがんばる」と視聴者が次々と書き込む。
ユーザー各社が発表し、ノウハウを共有し、参加者がたたえあう。「マーケ分析の仕事がどれだけ大事か、イベントを通して社会に伝えるとともに、本人にも実感してもらうためにイベントを開催している」(セールスフォース・ドットコムのカスタマーサクセス統括本部サクセスプログラム部長の坂内明子氏)。そうした場を共有することで「顧客が顧客を呼ぶ循環が生み出せる」と、同社の専務執行役員 カスタマーサクセス統括本部 本部長 宮田要氏は話す。熱心なファンを醸成することで、その人が務める会社だけでなく、社外に向けても影響力の広がりが期待できるというわけだ。
セールスフォースでは、各社で業務プロセスの改善に取り組み、コミュニティーの関連イベントなどに積極的に取り組んでいるユーザーのことを、トレイルブレイザー(先駆者)と呼ぶ。掲示板サイトの「Trailblazer Community(トレイルブレイザーコミュニティ)」では月に5000の質問が投稿され、そのうちの99.9%に回答が付く。困っていることを質問すると、コミュニティーの参加者から平均45分で回答が寄せられるが、「5分ほどで回答が来ることも多い」(坂内氏)という活発さを見せる。
誰でも無料で利用できる学習サイトの「Trailhead(トレイルヘッド)」にも力を入れている。カスタマーサクセスの支援手段には、個別担当者が丁寧に応対する「ハイタッチ」、1人の担当者が複数の顧客に対応する「ロータッチ」に加えて、システム上で自己解決する「テックタッチ」と3つがあると言われる。トレイルヘッドはテックタッチに当たるものだ。管理者、開発者、アナリスト、セールスマネジャーなど目指したいキャリアに合わせたカリキュラムを用意しており、点数や獲得したバッチの数で学習の進捗状況を確認できる。
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