広告媒体として強い影響力を持ってきたテレビCMに代わり、ネット広告やモバイル広告の存在感が増している。このまま広告もデジタルシフトが加速していくのか。マーケティングDXの専門家、垣内勇威氏は単純に予算をネットへと切り替えるだけの考え方は誤っていると警告する。
電通が2020年3月に発表した「2019年 日本の広告費」によると、ついにインターネット広告費(2兆1048億円)が、テレビメディア広告費(1兆8612億円)を初めて上回った。こうしたデータを見れば、確かに広告のデジタルシフトが起こっているように見受けられる。マーケティングDXを担う人が、マーケティングコストのうち大きな割合を占めるテレビCMの役割をデジタルで代替したいと考えるのは自然なことかもしれない。
しかし、ネット広告とテレビCMは似て非なるものだ。単純にテレビCMのコストをネット広告に振り替えただけでは、もともとテレビCMが果たしていた役割を代替できない。テレビCMを代替するには、まずその役割を分解し、それぞれの機能をデジタルの強みを生かして置換しなければならない。単に予算の振り分け先を変えてネット広告を始めるだけでは、当然不十分である。
ネット広告だけではテレビCMを代替できない
ある製薬会社では、薬局やドラッグストアで個人に販売する市販薬の分野で、テレビCMにかけていたコストの10%をデジタルに振り替えるという実験を進めていた。莫大なテレビCMコストの効率化を図ることが目的だ。
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手始めに、あるビタミン剤の宣伝費1億円をネット広告に振り替えることで、どの程度のユーザー数にリーチできるかを試算してみた。計算すればすぐに分かることだが、ネット広告が1クリックあたり約100円だと仮定して、1億円のコストではわずか100万人のユーザーにしか届かない。スポットのテレビCMに同じ1億円をかければ、1000万人規模のユーザーにリーチできる。広くユーザーに情報を届けるという目的で比べれば、ネット広告はテレビCMの10倍以上も割高となる可能性があるのだ。
ただしネット広告の「クリック」と、テレビCMの「視聴率」を同列に比較することは難しい。ネット広告をわざわざ「クリック」してくれたユーザーは、テレビCMを流して見ただけのユーザーより、その市販品を認知する確率が高いだろう。
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